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第24話 価値

 またしばらく気まずい雰囲気が流れてしまう。しかし、鈴華がすぐに別のことを口にした。

「さっきのキョンシー、集団でいたわよね。ってことは、かなりダニが広がっているってことかしら」

「そうだな」

 そちらの方が蒼礼も気掛かりだった。一気に三十ものキョンシーもどきが出来たということは、それ以上の数のダニがこの近くにいるということになる。今のところ察知出来ないが、どこかで大量発生しているのは間違いなかった。

「気をつけないといけないわね」

「ああ。虫除けの薬でもあるといいかもな」

「探してみる?」

「いや、森の中はダニがいるかもしれない。下手に街道から外れない方がいい」

「そうか」

 敵が小さくて見えにくいというのは、かなり厄介だった。唯一の救いは、ダニに呪の気配があるので、蒼礼には察知が可能だということだろう。

「一体、何が起こっているんだ」

 鈴華の頼みを聞いたのは、このまま押し問答をしていても仕方がないからだったが、事態は予想以上に面倒なものになっている。

 まさかまた大戦が起こるのか。

 蒼礼もまた同じ懸念を持たずにはいられないのだった。




 龍統は久しぶりに息子と向き合っていた。東宮の地位に就けてからというもの、こうやって話し合う機会はめっきり減っていた。

「どう思う?」

 しかし、交す内容は近況ではなく、この国の状況だ。龍聡はもちろん気づいていますと頷くと

「反乱の気配があるということでしょう。早急に奏呪の強化を行うべきと思います」

 いきなり核心に踏み込んだ。それに龍統は満足そうに笑う。わざわざ中書令を介してきたのだ。それが目的だということは会談の前に把握している。

「やはりお前も気になるのは奏翼か」

「当然です。あの男を十年も野放しにするなど、失礼ながら正気の沙汰とは思えません」

 龍聡はきっぱりと言い切る。

 確かに秘密を多く知り、どんな呪術師をも上回る力を持っているのだ。野放しにするなど、火事を放置するに等しい。

「あの男には後ろ盾がない。放置しておいても何も出来ないことは解っていた」

 しかし、龍統も考えなしに放置していたわけではない。奏呪にも行方を捜させていた。だが、呪術を行使しない限りは捕まえなくていいとも命じていた。

「後ろ盾がなかろうと、外に置いておくには相応しくありません。今度は入れ墨だけで済ますことのないようにお願いします」

 龍聡は引くことなくそう言葉を重ねていた。入れ墨は確かに所有の証になるが、完全な奴隷を意味するわけではない。龍一族に近しい者という程度だ。

 もちろん世間も奏呪たち自身も、もはや龍一族に従うだけの者たちと見なしているが、実際に奴隷の身分に落としているわけではない。

「奏翼が奴隷であれば納得出来るということか?」

 龍統は随分と過激だなと苦笑する。いくら皇帝とはいえ、そう簡単に総ての権利を取り上げることは躊躇うものだ。それが自らの権力を盤石にするために働いてくれた者とあれば、ますますやりたくないことである。

 大戦の最中から、奏呪は確かに龍家の紋を身体に刻み働いているが、その立場は官としてちゃんと保護されるものだ。人としての権利は何一つ制限を受けていない。

 それを今更変えることは難しいし、何より奏呪が納得しない。たとえ奏翼だけを例外とするとしても、他はいつ同じ立場に立たされるかと不安を感じ、刃向かわれる可能性もある。

「奴隷という言葉が相応しくないのならば、皇族の物だと内外にはっきり報し召すべきですよ。入れ墨は所詮、彼らが龍家に膝を折ったという証でしかありません。あの男は明確に所有されているという証明がないことをいいことに、都を抜け出し仕事を放棄していたのですよ」

 龍聡は処罰すべき理由もあるのだからと、じっと龍統を睨む。龍統はしばしその目を見つめていたが、ふっと口元を緩めた。

「案ずるでない。心配しなくても同じ奏呪が許さぬからな。奴らの方が我らよりも勝手に抜け出したことを怒っておる。奴隷にするよりも適切な処置を奴らが施すだろう。それこそ、奏翼の魂を縛るものを使ってな」

 そして、奏呪を忘れて論ずるなと諭した。それに、龍聡は確かにと頷く。

「それに、奴が外にいたおかげで今回のことを早く察知出来たのだ。遊ばせていただけの価値はある」

 龍統はどうなるか面白いなと、くくっと笑ってみせる。その様子に、龍聡はやはり大戦を生き抜き皇帝の地位を自ら勝ち得た男は違うなと、そう実感させられていた。




 夕方、何とか街道沿いにある村へと到着していた。しかし、その村は人の気配が完全に絶えていた。

「朝のキョンシーもどきは、この村の者たちだったようだな」

 村の中には入らず、蒼礼は厳しい顔をして断言する。村の中にはダニが発する呪の気が充満していた。


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