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第12話 宿場町へ

「他の宿場や龍央州の近くはもっと出るらしいけど、うちはたまにだな。それもすぐに自警団が片付けてくれるから、まさかこんな山の中に出るなんて思いもしなかったよ」

 李期はそれほど深刻ではない状況だと教えてくれる。

「自警団って?」

 鈴華はそれって警察じゃないのと訊くと、役人どもがキョンシー退治なんてしてくれるわけないだろうと李期は苦笑している。

「宿場町の自治会の中で、さらに腕っ節に自信のある奴らが自警団をやっているんだよ。そいつらが青白い顔で襲ってくる奴を見つけると、ふん縛っている。数日牢屋に転がしておくと、死んじまうって話だな」

 そしてさらに貴重な情報を教えてくれた。やはり、ダニが生存し続けることが、寄生された人間が生き残る条件のようだ。牢屋では他の人間にダニも移ることが出来ず、共倒れしているということだろう。

 だが、対処方法があるとしても見過ごせない事態だ。たまに出るということは、この辺りまであのダニの勢力範囲が広がっているということだ。

 中央の龍央州近くから始まったと仮定すると、東の端まで広がっているとなれば、これはかなり深刻な状態だと見ていいだろう。

「いったい誰がこんなことをやっているのか解らないが、確実に国の根幹を崩しにかかっていやがるな」

 蒼礼は苦々しげに呟いた。これが呪術を発端とする以上、放ってはおけない事態だ。やはり、この騒動は自分の身に関わることと考えるべきだろう。

「でも、それならばどうして奏呪が気づいていないの?」

 鈴華はそれっておかしくないと訊く。このキョンシー騒動が大規模な呪術によるのならば、それこそ奏呪が動いて然るべきだ。

「恐らくだが、正確な情報を掴んでいないのだろう。さっき、李期が警察は動いてくれないと言っていただろ。そこから考えられるのは、役人がちゃんと中央に異常を報告していないということだ」

「なっ」

「だが、それも無理はないのかもしれん。この国が安定したのはたった十年前だ。つまり、端役の役人が中央にまで進言できるような構造にはなっていないのだろう。特に地方役人は自分の権益を守るために、不都合なことは隠しがちだしな」

「腐ってるわね」

 鈴華は、あの大乱で学んだことはないわけと憤慨する。

「ええっと、あんたら、やたら難しい話をしているけど、役人?」

 会話に置いて行かれてぽかんとしていた李期が、ひょっとしてと確認する。すると二人の顔が苦り切ったものになった。

「違う」

「一緒にしないでほしいわ」

 そしてそれぞれから否定される。李期はよく解らないなあと首を捻ったものの

「あんたらがキョンシーを何とかしてくれるんだな」

 身を乗り出してそこを確認してしまう。

「それは」

 蒼礼はどう答えたものかと悩んだが、李期の腹がぐううっと音を立てたので、そこで会話が切れた。

「あら。いい匂いがするものね」

 鈴華が顔を赤らめる李期に笑いかける。

「いや、すまねえ。こんな山ん中なのに、上手く調理してるなあ」

「この人は山の中での暮らしに慣れているのよ」

 料理人らしく鍋に興味を示す李期に、鈴華が蒼礼を指さして教えた。蒼礼はそれに溜め息を吐き

「丁度よく鍋も煮えたな。ともかく明日、宿場町まで行くしかないだろう」

 ともかく先に進む。それだけを言ってこの話題を終わらせたのだった。




 宿場町は東端とあって、蒼礼がたまに顔を出していた北の町と大差ない、貧相なものだった。とはいえ、旅人がひっきりなしに立ち寄るからか、それなりに商品は充実し、人々の暮らしも北よりはましなようだった。

「俺の店はここだ」

 李期が嬉しそうに自分の飯屋を紹介してくれたのだが

「あんた、二日もどこに行ってたんだい?」

 店に入った瞬間、鍋で思い切り殴られていた。蒼礼と鈴華はそれを呆然と見ていることしか出来ない。しかも鍋を振り回したのは小柄な女性だ。年齢は李期と同い年くらいだろうか。

「ちょっ、心配してくれたんじゃあ」

 李期は不意打ちを食らって殴られた頬を押えつつ、ひでえよと訴える。

「ふん。二日くらいいないぐらいで心配なんかするもんか。どうせ碌でもないことを・・・・・・」

 そこまで言ったところで、女性は店先に見知らぬ二人がいることに気づいた。そしてさっと鍋を背中に隠すと

「いらっしゃいませ」

 と笑った。

「こちらの方々は、俺がキョンシーに襲われたところを助けてくれた呪術師様とそのお連れ様だ」

 李期がやれやれと蒼礼と鈴華を紹介する。それから

「これは俺の妻の()明倫(めいりん)だ」

 と、殴った女性について紹介する。

 なるほど、夫婦だったのかと二人は頷き

「蒼礼だ」

「鈴華です」

 と自己紹介する。


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