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第13話 騒がしい老人

「あんた、キョンシーに襲われたって、それに呪術師って、殺しを仕事にしてる連中だろ」

 しかし、明倫は何がどうなっているんだと混乱する。それはそうだろう。

「今はもう殺しの仕事からは手を引いている。それに、呪術師には治癒の能力もあるんだ。そこで、今世間を騒がしているキョンシーについて調べている」

 町まで来てしまえば蒼礼も覚悟は出来ているので、そうすらすらと説明していた。この時も横で鈴華がにやにやしていたが、もちろん無視する。

「治癒って、ええっと」

「明倫、本当だよ。俺、首をキョンシーに噛まれたんだ。でも、この旦那が治してくれたんだぜ」

 困惑する明倫に、ほらほらと李期は自分の首を示す。しかし、それですんなりとは納得出来ないだろう。

 この国で呪術師はそれだけ印象が悪い。奏呪を筆頭として、戦乱の最終局面は呪術を駆使した戦いが続いたせいで、呪術師は殺しをするものという固定観念が出来上がってしまっている。下手に関わり合いたくないのだ。

「この近くに怪我人はいないか」

 これは手っ取り早く見せてみる方がいいだろうと、蒼礼はそう訊いた。すると明倫はまだ納得出来ないままだが

「隣の爺さんが一昨日、足を骨折して難儀しているよ。案内しよう」

 蒼礼から自信を感じ取り、紹介することにした。それに隣の爺さんが実験台になるのは、町としても丁度いいだろうという判断だ。

 隣の爺さんとは、この町でちょっと厄介な爺さんとして知られる御仁だった。八百屋をやっていて、店先の椅子に折れた足を投げ出して座っていたところを、李期が捕まえた。

「呪術師を連れてきただって⁉ てめえら、ついに俺を殺すつもりかっ!」

 蒼礼を紹介した李期に向けてそう怒鳴ると

「助けてくれぇ。殺されるっ」

 とわざとらしく喚き散らした。おかげで町中の人が何事だと集まってきた。

「なるほど。手っ取り早いね」

 蒼礼はその様子に呆れ

「ま、まあ、いいじゃない。説明するより簡単だわ」

 鈴華もまさかここまで騒がしい爺さんだとはと呆れていた。

 しかもこの爺さん、足を折って難儀している割りに、腕の力で動き回るものだから余計に厄介だ。

「おい、李期。その爺さんを押えてくれ」

「了解だ、旦那」

「止めろ~。俺はまだ死にたくねえぞ。老いぼれだからって舐めるな!」

 ぎゃあぎゃあ喚く老人に、李期はやれやれという顔だ。しかし腕力で三十代の男に勝てるはずもなく、後ろから羽交い締めにされる。

「うわあああ」

 泣き叫ぶ老人。それに蒼礼は、殺しをやっていた時にもここまで叫ばれたことはないと呆れつつ、そっと傷口に札を置いた。

「っつ」

 札に、老人は大人しくなる。その顔は恐怖で引き攣っていた。

「癒呪」

 蒼礼は老人を刺激しないようにそっと呟く。するとぽわっと札が光り、そして消えた。

「終わったぞ」

「終わったってよ」

「俺の人生がか?」

 叫ぶ老人があまりに元気なので、見物人からそんなわけあるかとツッコミが入る。

「ほら、爺さん。立ってみろ」

 李期はほらほらと老人を羽交い締めにしたまま無理やり立たせる。

「無理じゃ。足がぽっきり・・・・・・って、あれ」

 老人は補助が外れても立てている状況にぽかんとした。そして、つんつんと折れていた方の足で床を触ってみる。

「な、治っとる」

「なっ」

「おおおっ」

 これに見物していた町人たちから拍手が起こった。老人はまだ疑わしそうだったが、てくてくと歩き回って納得したようだ。

「す、すまねえ。呪術師だからって、治せないって決めてかかってよ」

 小さな声だが謝る。蒼礼は仕方ないことだろうと、そう宥めておいた。そして蒼礼がこれでいいかなと明倫の方を振り向くと

「おい、旦那。すげえな。俺の腰痛も治るのか」

「ちょいと、うちの子の喘息をみておくれよ」

「おいっ。目ん玉は治せるのか?」

 町人が次は俺を、私をと詰めかけてくる。

 もう大騒ぎだ。それに明倫が持っていた鍋と棒でカンカンと大きな音を立てて宥める。

「一気に言ったって駄目だよ。ほら、順番に並びな。爺さん、治してもらった礼として茶くらい出してやりな」

 明倫の言葉に町人たちは先頭を争いながらもちゃんと並んだ。爺さんも茶くらいお安い御用と店の中に入っていく。

「ここだと邪魔じゃないか?」

 蒼礼は大人しく並んだ町人に困惑していると

「大丈夫だよ。ついでに八百屋で買い物させりゃあいい。ここの爺さんがくたばると、うちの馬鹿がまた山ん中に入る羽目になるからね」

 明倫はそう言った。なるほど、毎日のように山に食材を取りに行っているわけではないのか。蒼礼が李期を見ると

「魚は捕ってくるのが一番だろ」

 とそっぽを向いて反論していた。

 夫婦の間に見解の違いがあるようだ。が、そこを突くと藪蛇になるので、この話題は蒼礼から引き下がる。

「鈴華、手伝ってくれ」

「はい」

 こうして急遽、町人たちの困り事を聞いていくことになったのだった。


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