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第11話 李期

「まだ何も解らないが、あの呪術を使いこなすには相当な能力が必要だ。それこそ、奏呪に選ばれるくらいの実力が必要だろう」

「やっぱり奏呪か」

 鈴華は思わずぎりっと歯ぎしりをしてしまう。その反応を、蒼礼は当然だという目で見ていたが

「だが、奏呪がこの術を使うのは奇妙だ。奏呪は基本、皇帝の意向に従って呪術を行う。つまり、無差別殺人に繋がるような呪術は用いない。ところが、こいつはダニを介して誰を呪うかが読めない。そんな不確定要素の強い術を、奏呪が使ったとは思えないな」

 奏呪の可能性はないという結論を続けた。

「ううむ」

 奏呪の可能性を否定されると、途端に難しくなると鈴華は唸った。この国の呪術は今や彼らが独占していると言っていい。だからこそ、呪う力が強ければ治癒の力も強いという話を耳にした時、真っ先に奏翼を思い浮かべたほどだ。

「民を無差別に呪うという点を考えると、その奏呪に滅ぼされた一族の生き残りの誰かと考えるべきだろうが」

 蒼礼も難しいなと思いつつ、可能性の一つを提示する。すると鈴華がこちらを睨んできて

「私じゃないわよ」

 としっかり訴えてきた。

「それは解っているよ。こんな無謀で猪突猛進なお嬢様が、ダニなんて使ってちまちまと呪うとは思えないからな」

「なっ」

 否定してくれるのは嬉しいが、その理由が腹立つ。鈴華はふんっと鼻を鳴らして蒼礼目がけて小石を投げていた。

「危ないな」

 それを難なく避けた蒼礼だが、その先に先ほど救った男が寝ているのを忘れていた。

「いてっ!」

 攻撃を食らうことになった男は、こつんと自分の腹に当たった衝撃に目を覚ました。

「うわっ!?」

 そして蒼礼と鈴華を見て驚いている。二人はああそうかと頷くと

「さっきのキョンシーならばもういないぞ」

「そうそう。あなたは助かったのよ」

 と状況を説明してやる。

 飛び起きてざざっと茂みまで逃れていた男だが、二人が呑気に食事の準備をしていることに気づくと、いそいそと戻って来た。

「あの、ひょっとしてあんたらが」

「この人がね。呪術師なのよ」

 鈴華がご丁寧に呪術師であることまで教えてしまう。蒼礼はぶん殴りたい衝動に駆られたが

「まあ、そうだ」

 と認めて男に向き合った。

「さっきのキョンシーもどきとどこで出会ったんだ?」

 そしてまだ情報がないに等しい、あのキョンシーに間違ってしまう術に関して探ることにした。

「俺が出会ったのは山の中でだよ。俺はこの先の宿場町で小さな飯屋をやっているんだ。そこで出す山菜やら魚を捕りに来たところだったんだが」

 急に茂みからあの青白い顔の男が飛び出してきて、追い掛けてきたのだという。

「無我夢中で逃げたんだが、なんせ山ん中だろ。次第に俺の方は体力の限界が来てさ。もう駄目って、襲いかかられて」

 ここ、囓られなかったっけと、男は首筋に手を伸す。だが、そこはすでに蒼礼が治療済みだ。

「俺の術で治した。確かに噛まれた後があったが、問題ない。あのキョンシーを作り出していたのは、その身体に付着していたダニだ」

 ということで、傷はもうないことと、キョンシーに関して教えてやる。すると男は蒼礼に手を合せた。

「すげえな。呪術師って殺すばかりだと思ってたのに、傷も治せるのか」

「ま、まあな」

 つい数日前まで俺もそう思っていたよ。と口に出すわけにもいかず、蒼礼は重々しく頷いておく。鈴華がにやにやしているのは無視だ。

「そいつはありがてえ。是非とも宿場町に寄って、他の奴らも治してやってくれないか。あっ、俺は李期(りき)ってもんだ。宿と飯は無料で提供させてもらうよ」

 男はにかっと笑って名乗った。三十歳で、先ほども言っていたとおり、宿場で飯屋をして、旅人をもてなしているのだという。宿場町は龍東州の端とあって、そのまま折り返していく人も多いから、飯屋も繁盛するのだという。

「蒼礼だ。こっちは鈴華。もちろん町に寄るつもりだったが、それより、まずはキョンシーもどきに関して教えて欲しい。宿場町にもあれは出るのか?」

 あれこれ情報に通じていそうだと判断し、蒼礼は訊ねてみる。すると、時々出るということだ。


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