表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/44

第10話 判断

「はあ。でも、キョンシーじゃなくて生きている人だったなんて。あの人たち、大丈夫なの?」

 鈴華は丸裸にされて転がされている男たちをちらっと見る。さすがに年頃の娘らしく、じろじろと見ることはなかった。

「さっき噛まれた方は大丈夫だ。俺の術で復活させられるだろう。ただ、もう一人はどうだろうな」

 いくら治癒の呪術が使えるとはいえ、死にかけの男を救えるかは微妙だ。しかも長い間、低体温と低栄養状態だっただろうことは見ただけで解る。身体が健康になったとしても、どこかに不具合が出るはずだ。

「見捨てないわよね」

 解らないから無理と切り捨てないか。鈴華は心配になって確認していた。それに蒼礼は肩を竦めたが

「やるだけやってみるが、それで救えなかったとしても恨むなよ」

 とだけ言う。

「それはもちろん。医者に診せたって、みんながみんな治るわけじゃないし」

 鈴華はそれに腹を立てることもなく、しかし棘のあることを言ってくれる。医者が治せなかったのは呪術による傷や病気だろう。それはすなわち、虎一族を呪った奏呪のせいだ。さらに言えば、その多くを行ったのは奏翼だった蒼礼だ。

 蒼礼はやれやれと思いながらも、まずは噛まれたばかりの男に対して治癒を行う。

()(じゅ)

 鈴華にやった時はおっかなびっくりなところがあったが、この三日でやり方は確立している。呪符とともにそれに見合う言霊を乗せてやると、男の身体がぼんやりと輝いた。

「これで大丈夫だろう」

 同時に意識を失わせる術を解除して終わりだ。だが、問題はもう一人。

 ダニがいなくなったことで回復するかと思っていたが、かなり呪術の浸食が進んでいたようだ。真っ青な顔に血の気は戻らず、呼吸も浅い。

「どう?」

 蒼礼が険しい顔になったことで、鈴華は不安になって訊く。

「正直、ここで終わりにしてやるのが一番だ」

 そして蒼礼は無情な判断を下した。もちろん、治したくないというわけではない。しかし手遅れだ。腕を取って脈を診ても弱い。ダニがいなくなったことで、むしろ血の巡りが悪くなっている。この男はすでに呪術に生かされていたに過ぎない。それこそ、ダニの次の寄生先を探して彷徨っていただけなのだ。

「じゃあ、ダニに寄生されてからしばらく経つと」

「いずれ死ぬってことだな」

 蒼礼はどうすると逆に鈴華を見た。

 ここで楽にすることは蒼礼にすれば簡単な作業だ。しかし、普通の人、特に呪殺の怖さを知る鈴華はいい思いをしないだろう。

 見ると、鈴華の顔は真っ青になっている。しかし、浅い呼吸を繰り返す男を見て、意を決したようだ。

「蒼礼の判断に従うわ。ただし術を使わないで」

 そう言って、腰に差していた剣を差し出す。これを使うならば、というわけだ。

「解った」

 救いの旅は時にその人の最期を決めることにもなる。これはそれを示す例となった。蒼礼は男の心臓と首に素早く剣を突き立て、男は苦しむこともなく息を引き取った。

「さあ、片付けよう」

 蒼礼は手ぬぐいで綺麗に血を拭って剣を鈴華に返し、死んだ男の身体を担ぎ上げた。

 それから息を引き取った男を二人で丁寧に埋葬し、まだ気を失っている男が起きるのを待つ。その間に自分たちの夕食の準備も進めた。

 二人ともその間黙々と作業し、口を利くことはなかったが

「殺すことに、躊躇いってないんだね」

 野鳥と山菜の鍋が出来上がる頃、ぽつりと鈴華が呟いた。手際の良さが気になったのだ。

「殺さなきゃ殺される世界にいたからな」

 それに対し、蒼礼が答えられる言葉はこれだけだ。自分が死なないために磨いた技は、どんな場面でもぶれることはない。呪殺だけでなく他の殺し方に躊躇いがないのも、その結果だ。

「そっか。たった十年前まで、それが当たり前だったんだよね」

 それに、鈴華も反論は出来ない。その頃はまだ七歳だったとはいえ、過酷な世界が広がっていたのを覚えている。だからこそ、せっかく訪れた平和を壊すような、今回の騒動を見過ごせなかったのだ。

「ねえ、あのダニって何なのかしら?」

 だから自然と話題はあのダニへと移っていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ