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 目が覚める。

 柔らかい布団で寝たからか、どこも痛くない朝。

 布団をたたみ押し入れへしまう。

「おはようございます」

「紬ちゃんおはよう」

 楓さんが朝食を準備しているところだった。「お手伝いします!」

 ててて、と駆け寄る。

「じゃあ、味噌汁よそってくれる?」

「はーい」

 お世話になっているんだから、これからお手伝い頑張ろう。

「おはよう紬ちゃん」

「朝早いのね」

 忍さんと花織さんがリビングに入ってくる。「おはよ~」

 葉月ちゃんはまだ眠そうである。

 葉月ちゃんの後ろから高野君もやってくる。「皆さんおはようございます」

 みんなで食卓を囲む。

 朝ご飯も初めてだなぁ。ドラマみたい。

「美味しいです!」

「ありがとう。いっぱい食べてね」

 高野君はすでにおかわりをしている。流石男子高校生はよく食べるなぁ。

「紬ちゃん、沢山食べないと大きくなれないんだよ」

 葉月ちゃんが真面目な顔で言うのが可愛い。「そうだね。沢山食べるよ」

 そうはいっても、今まで三日に一食も食べていなかった胃が受け付けるわけもなく。葉月ちゃんより食べられていない。

 朝ってこんなに食べられないものなんだ。 どうしよう。せっかく作ってもらったのに。「紬ちゃん、無理しなくていいのよ。残ったら幹人が食べるから」

 楓さんが箸が止まった私に気付く。

「もう食えないか? 俺が食うぞ」

 隣の高野君が、私の皿に残ったおかずを食べてくれる。

「ありがとう、高野君」

「今に食えるようになるだろ。気にするな」

 やっぱり高野君がモテないのはおかしい。口の悪さを差し引いてもこんなに優しいのに!

 朝食を食べ終わった私たちは、家を出る準備をする。通勤組と通学組である。

「いい、幹人。ちゃんと紬ちゃんをうちまで連れ帰ってくるのよ」

 花織さんが高野君に念を押す。

「わかってる」

「紬ちゃんも。ちゃんと帰ってきてね」

「はい!」

 そうだ。私もこの家に帰ってきていいんだ。「よし。じゃあ、いってらっしゃい」

 出勤する忍さんと楓さんと花織さんに見送られ、通学組である私と高野君、葉月ちゃんはそれぞれ学校へと向かう。

「葉月ちゃんはひとりで大丈夫なの?」

「登校班があるから、そこまで送っていく」 なるほど。流石はお兄ちゃんである。

「葉月ちゃん、優しいお兄ちゃんでいいね!」

「うん!」

「その顔やめろ」

「どんな顔?」

「にやけ面」

 照れているのだろう。高野君は決まり悪そうにしている。

「いってきまーす」

 葉月ちゃんを無事に送り届ける。

 高野君を並んで登校する。

「高野君は今日古典クラスだったよね? 私は現代文だから移動教室だ」

「そうか」

 高野君は言葉少なだから、あまり会話は続かない。でも、それでも心地がいい。高野君は私を傷つけるようなことは言わないから。 主に私が話し続けていると、校門にたどり着く。

「え、あの二人一緒に登校してる」

「昨日のこともあったしさ、もしかして付き合ってたりするのかな」

 ひそひそ話というのは案外、聞き取れるものである。

「やっぱ噂されてるね」

「我慢しろ。登下校は俺から離れるなよ」

「別に嫌じゃないから何言われてもいいよ」 

 そういうと高野君はなんとも言えない顔をした。この顔もレアである。

 教室に着くとまた小声で騒がれる。

 高野君は怖がられているから、みな直接は言ってこないのだ。

「じゃあまた放課後」

 高野君と別れて席に着く。

 高野君と居ることで、空気も同然だった私が、存在できている気がする。

 授業を受ける。まだ家にある教科書は持ってこられなかったから、一言も話したことがない隣の席の男の子に見せてもらったりしながら、一日を終えた。

「帰るぞ」

「うん」

 高野君が席まで迎えに来てくれる。

「一度家にお前を送ってから、お前の荷物を取りに行く。家から出るなよ」

「わかった。迷惑かけてごめんね」

「別に迷惑じゃねぇ」

 相変わらずぶっきらぼうで優しい声。


「ただいま帰りました~」

「お帰り紬ちゃん」

 葉月ちゃんが出迎えてくれた。

「お帰りなさい。じゃ、私と幹人で荷物取ってくるから、紬ちゃんは葉月の相手してね」

「……よろしくお願いします」

「大丈夫よ。すぐに帰ってくるから」

 そう言って花織さんと高野君は出かけて行った。

「紬ちゃん、一緒に宿題しよ?」

「そうだね!」

 葉月ちゃんに手を引かれてリビングへ向かう。

「紬ちゃんって頭いいね」

「そうかな?」

「そうだよ。葉月がわかんないって言ったところ、わかるように教えてくれるもん」

「葉月ちゃんが賢いからだよ~」

 平和だ。

 でも、ふとした瞬間に気になる。

 高野君たちは大丈夫だろうか。母に何を言われているのか。弟は暴力をふるっていないか。

「紬ちゃん?」

「あぁごめん、葉月ちゃん。ぼーっとしてた」

「紬ちゃん、大丈夫だよ。お兄ちゃん、強いんだよ。葉月もちょっとだけいじめられてたけど、お兄ちゃんが助けてくれたよ。だから紬ちゃんのこともお兄ちゃんが助けてくれるよ」

 助けてくれる。

 私はずっと助けを求めていたのかなぁ。

 諦めていただけなのかなぁ。

 高野君にもう諦めないって約束したからね。

「そうだね。高野君、強いもんね」

 信じて待とう。助けてもらおう。



 

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