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因果のカレント  作者: BNG
第2章 因果の起源

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彼岸外伝 八咫烏 — 第4話「新人八咫烏の新生活」

月曜の朝、彼岸・関東エリア支部。


「――今週も、始まりましたね」


もも はにこやかに、そう言った。


(あー、今週も、おっちゃん共の子守りが始まるんか。しんど)


「おう、もも。今日から、パトロール巡回、増やすからな」


財前が豪快にコーヒーを飲み干しながら、そう言った。


「はーい、分かりました!」


(いや、増やすなら先言うといてや。うちの週末、おしゃれなカフェ巡りの予定なんやと……)


「陣内は、今日、休みか」


「仮眠室で寝てはるんちゃいます? 最近、よう夜遅うまで飲んでるみたいですし」


「あいつ、相変わらずだな」


財前が少し呆れたように、そう呟いた。


陣内があくびをしながら仮眠室から現れる。


「――もも、緊急事態だ、また資料、頼めるか?」


「もちろんです!」


(またかい。緊急事態てなんやねん。この人、絶対、自分の分の仕事、半分うちに投げてるやろ。証拠は掴んでへんけど)


もも は内心の毒舌とは裏腹に、にこにこと笑顔を崩さなかった。



巡回中。


財前が路地裏で何かに躓いて盛大に転んだ。


「――ってええええ!」


「財前さん、大丈夫ですか!?」


もも は慌てて駆け寄った。


(その筋肉は見せかけか、何しとんねん。八咫烏っていう肩書、どこ置いてきたんや)


「い、いや、大丈夫だ。何でもねえ」


「ほんまですか? 血、出てますよ」


「た、大したことねえ!」


(絶対、痛いくせに強がっとる。ヤクザのやせ我慢て、おもろすぎるっ)


陣内が少し離れた場所から氷雪の欠片で周囲の妖気を静かに探っていた。


「――お前ら、騒ぐな。集中できねぇ」


「陣内さんこそ、ちゃんと探してますぅ? さっきから、ずっとあくびしてますけど」


「してる。俺は、寝てても、仕事はできる。氷雪系最強だぞ」


(嘘つけ。氷雪系最強って誰が言い出したん。金欠三十五歳独身の、人生氷河期やからかな)


「もも、お前、今、何か失礼なこと考えてただろ」


「ぜ、ぜんぜん! そんなことないですよ!」


もも は慌てて視線を逸らした。陣内は疑わしそうな目で彼女を見つめていたが、それ以上は追及しなかった。


巡回は特に何事もなく終わった。



夕方、もも は一人、コンビニに立ち寄った。


「――あぁああ! 新作!」


棚に並んだ期間限定の桜味のスイーツを見つけて、もも の目が輝いた。


「これ、絶対、美味しいやつや……!」


迷わずカゴに入れる。ついでに、もう一つ。


「――あまちゃんの分も、買っとこ」


もも の口元が自然と緩んだ。


東京に来て、まだ、そんなに経っていない。だが、この街には京都にはなかった、いろんな"新しいもの"が溢れていた。


コンビニのスイーツも、オシャレなカフェや街並みも、全部、もも にとっては新鮮で楽しくて仕方なかった。


「――東京、最高やん」


もも は小さく、そう呟いた。


その足取りは軽やかで、どこまでも明るかった。


支部に戻ると、財前が缶コーヒー片手に、もも を待っていた。


「――もも、ちょうどいいとこに」


「え? なんですか、残業は嫌ですよ〜財前さん」


「違えわ! 例の常盤の小僧、覚えてるか。澪のところにいる、あの本家筋の」


もも は首を傾げた。


「颯太くん、でしたっけ。会議で言ってましたよね。本部には通達しないって」


「そうだ。俺が、責任は取る。小僧の稽古、お前にも、一枠、頼みたい」


もも の目が一瞬で輝いた。


「――同年代の子、ですよね!?」


「おう。陣内・お前・俺の順番に、高尾山で仕込む」


「なんで、その順番なんですか」


「氷雪、光、火。だんだん熱くなってく方が、飲み込みやすいだろ」


「それ、財前さんが一番目立ちたいだけちゃいます?」


「――バレたか」


財前が悪びれもせず笑った。もも は呆れたように肩をすくめた。


「行きます! 絶対、行きます!」


もも は勢いよく頷いた。


(おっちゃんらとは違う、同い年の子と話せるって、めっちゃ楽しみやん! 解魂の話とか、ちゃんと教えたげよ)


「――張り切ってんな、お前」


「そりゃ、そうですよ! やっと、おっさ……うちと、同じ世代の子に、会えるんですから」


財前は豪快に笑った。


「まあ、あんまり張り切りすぎて、いじめんなよ」


「いじめませんて! ……たぶん」


「たぶん、じゃねえよ」


もも は悪戯っぽく笑いながら支部を後にした。


同年代の子に会える。ただ、それだけのことが、こんなにも心を弾ませるとは自分でも思っていなかった。京都では当たり前すぎて気づかなかった感覚だった。


東京に来てから、まだ知らないことばかりだった。だが、また一つ、新しい景色に出会える。


その予感だけで、もも の心は既に弾んでいた。どんな子なんやろう。怖がりすぎず、でも、ちゃんと鍛えたる。そんなことを考えながら、もも は夕焼けに染まる街を軽やかな足取りで歩いていった。


東京の夕暮れは、もも にとって今日も悪くない一日として静かに暮れていった。


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