第三節:破砕の槌音、天から墜ちる不変の守護
語録の音読が一段落したとき、紅衛兵の指導者たちの視線が、一斉に広場を睥睨する碉楼の頂へと向けられた。彼らの視線の先にあるのは、何百年ものあいだ天を指し、この集落を見守り続けてきた信仰のシンボル――主塔の屋根に据えられた、三個の「白い石」であった。
「あれこそが、人民の精神を惑わす封建迷信の象徴だ。引きずり下ろし、徹底的に粉砕せよ!」
拡声器から発せられた非情な号令とともに、数人の若者が鉄の槌や大梃を手に、碉楼の梯子へと取り付いた。
広場を囲む村人たちの間に、ひときわ冷たい戦慄が走る。ラサは息を詰め、胸の奥底が凍りつくような衝撃を覚えていた。あの白石は、何世代にもわたる彼らの不屈の血脈であり、文字なき歴史を繋ぎ止める「物理的な結び目」そのものである。それを失うことは、民族の脊椎を根こそぎへし折られるに等しかった。
カン、カラン、と、主塔の頂から、鉄の槌が岩肌を穿する不穏な硬質の音が響き始めた。
その槌音が響くたびに、ラサは自らの頭蓋の芯から背骨の骨髄が直接削られるかのような、凄まじい身体的痛みを味わっていた。それは大地から生え出た建築の破壊であると同時に、彼らの血脈に宿る神域への、悍ましいまでの解体であった。
地面に這いつくばった村の老人たちが、泥を掴み、声にならぬ悲鳴を噛み殺して激しく肩を震わせている。誰もがその暴挙を止めたかった。しかし、周囲を囲む紅い腕章の群れと、彼らが握る冷たい銃身の放つ、いつでも生身の肉体を撃ち抜く構えが、不服従を即座に圧殺する過酷な壁となっていた。ラサは群衆のただ中で、割れた爪から血が滲み出すほど、烈しく拳を握り締めるしかなかった。
「退け! 落ちるぞ!」
天を指していた一個の大きな白石が、大梃によって根元から抉り取られ、宙を舞った。
その一瞬、世界の時間が奇妙に引き延ばされた。
宙に浮いた純白の塊を、広場の誰もが瞬きもせず見つめていた。村人たちの呼吸が同時に止まり、風さえもが凪いだ、底知れない空白の静寂。その永劫とも思える制止を破り、石が天の重力をすべて引き連れて、まっすぐに墜ちていく。
凄まじい速度で天空から墜落した白石は、広場の中心にある石畳へと激突し、凄まじい破砕音とともに、文字通り粉々に砕け散った。
その瞬間、ラサの五感を襲ったのは、これまでに経験したことのない、冷たく乾燥した「石の死の匂い」だった。
何百年ものあいだ、太陽の熱と清冽な山風を休むことなく吸い込み、村人たちの祈りを受け止めてきた純白の結晶が、ただの不毛な瓦礫へと化していく。飛び散った破片が鋭い風を起こし、ラサの頬をかすめる。舞い上がった真っ白な石の粉が、広場一帯へと霧のように立ち込め、吸い込むたびに喉の奥を酸っぱく、そして痛烈に焼き焦がしていった。
白く爆ぜるように砕けた破片は、音もなく泥のなかに転がり、無価値な石屑へと姿を変えていく。
屋根から次々と叩き落とされる白石の悲鳴を全身に浴びながら、ラサの目からは、静かに、しかし沸騰するような熱い涙がこぼれ落ち、煤と泥にまみれた頬の上に、一筋の清い線を刻んでいった。
彼らの「骨」が、いま、無残に粉砕されようとしていた。




