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雲の上の咆哮 ―羊の民、三千年の歌―  作者: 武陵隠者
第五章:紅い腕章、山を切り裂く鉄の言葉

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第三節:破砕の槌音、天から墜ちる不変の守護

 語録の音読が一段落したとき、紅衛兵の指導者たちの視線が、一斉に広場を睥睨へいげいする碉楼ちょうろうの頂へと向けられた。彼らの視線の先にあるのは、何百年ものあいだ天を指し、この集落を見守り続けてきた信仰のシンボル――主塔の屋根に据えられた、三個の「白い石」であった。


「あれこそが、人民の精神を惑わす封建迷信の象徴だ。引きずり下ろし、徹底的に粉砕せよ!」


 拡声器から発せられた非情な号令とともに、数人の若者が鉄のつち大梃おおてこを手に、碉楼の梯子へと取り付いた。


 広場を囲む村人たちの間に、ひときわ冷たい戦慄せんりつが走る。ラサは息を詰め、胸の奥底が凍りつくような衝撃を覚えていた。あの白石は、何世代にもわたる彼らの不屈の血脈であり、文字なき歴史を繋ぎ止める「物理的な結び目」そのものである。それを失うことは、民族の脊椎を根こそぎへし折られるに等しかった。


 カン、カラン、と、主塔の頂から、鉄の槌が岩肌を穿うがする不穏な硬質の音が響き始めた。


 その槌音が響くたびに、ラサは自らの頭蓋の芯から背骨の骨髄が直接削られるかのような、凄まじい身体的痛みを味わっていた。それは大地から生え出た建築の破壊であると同時に、彼らの血脈に宿る神域への、おぞましいまでの解体であった。


 地面に這いつくばった村の老人たちが、泥を掴み、声にならぬ悲鳴を噛み殺して激しく肩を震わせている。誰もがその暴挙を止めたかった。しかし、周囲を囲む紅い腕章の群れと、彼らが握る冷たい銃身の放つ、いつでも生身の肉体を撃ち抜く構えが、不服従を即座に圧殺する過酷な壁となっていた。ラサは群衆のただ中で、割れた爪から血が滲み出すほど、烈しく拳を握り締めるしかなかった。


「退け! 落ちるぞ!」


 天を指していた一個の大きな白石が、大梃によって根元からえじり取られ、宙を舞った。


 その一瞬、世界の時間が奇妙に引き延ばされた。

 宙に浮いた純白の塊を、広場の誰もが瞬きもせず見つめていた。村人たちの呼吸が同時に止まり、風さえもが凪いだ、底知れない空白の静寂。その永劫えいごうとも思える制止を破り、石が天の重力をすべて引き連れて、まっすぐに墜ちていく。


 凄まじい速度で天空から墜落した白石は、広場の中心にある石畳へと激突し、凄まじい破砕音とともに、文字通り粉々に砕け散った。


 その瞬間、ラサの五感を襲ったのは、これまでに経験したことのない、冷たく乾燥した「石の死の匂い」だった。


 何百年ものあいだ、太陽の熱と清冽な山風を休むことなく吸い込み、村人たちの祈りを受け止めてきた純白の結晶が、ただの不毛な瓦礫へと化していく。飛び散った破片が鋭い風を起こし、ラサの頬をかすめる。舞い上がった真っ白な石の粉が、広場一帯へと霧のように立ち込め、吸い込むたびに喉の奥を酸っぱく、そして痛烈に焼き焦がしていった。


 白く爆ぜるように砕けた破片は、音もなく泥のなかに転がり、無価値な石屑へと姿を変えていく。


 屋根から次々と叩き落とされる白石の悲鳴を全身に浴びながら、ラサの目からは、静かに、しかし沸騰するような熱い涙がこぼれ落ち、煤と泥にまみれた頬の上に、一筋の清い線を刻んでいった。

 彼らの「骨」が、いま、無残に粉砕されようとしていた。

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