第二節:語録の重圧、肉体を緊縛する鉄の教条
集落の中央にある踏み固められた土の広場は、すでに行き場を失った熱気と、奇妙なほど冷ややかな沈黙によって満たされていた。
老若男女を問わず、家々から引きずり出された村人たちが、ぐるりと周囲を囲む紅衛兵たちの視線の檻のなかに押し込められている。広場の隅につなぎ止められた山羊や騾馬たちは、金属の漏斗から絶え間なく吐き出される拡声器の金切り声に耳を伏せ、怯えたような脂汗の臭いを辺りに漂わせていた。
「全員、これを掲げよ。そして復唱しろ!」
隊長格の若者が、何百冊もの「赤い小冊子」を村人たちの眼前に突きつけた。ビニール製の表紙が、冬の薄い陽光を反射して、まるで血の滴りのようにぎらぎらと赤く光る。
文字を持たない民にとって、その小冊子は単なる紙の束ではなかった。それは、彼らの肉体の自由を一本ずつ縛り上げていく、目に見えない鉄の教条そのものであった。
紅衛兵たちに促され、村人たちは慣れない手つきでその赤い四角形を頭上へと掲げさせられる。ラサもまた、群衆のなかに身を沈めながら、その冊子を両手で受け取っていた。手に触れた表紙は、不自然なほど滑らかで、そして冷たい。そこには彼らが営んできた泥や石の温もり、家畜の毛皮の柔らかさは一切存在せず、ただ、平地の論理が印刷という技術によって均一に大量生産した、無機質な重みだけがあった。
若者たちの指導のもと、共通語による教条の音読が強制される。
「……革命は……客を、招いて、料理を……することでは、ない……」
広場に満ちたのは、途切れ途切れで、血の巡りの悪い、掠れた声の連鎖だった。
彼らが何世代にもわたって骨髄に染み込ませてきた独自のチャン語は、母の乳の匂いや、羊の群れを呼ぶ風の旋律と結びついた、滑らかな身体性そのものであった。しかし今、彼らの口から強制的に吐き出されているのは、意味の分からぬ硬質な漢語の羅列である。
異質な言葉の節回しを無理に喉から絞り出すたびに、ラサは口腔を満たす粗悪なインクの匂いと、喉の乾きに烈しい嘔吐感を覚えていた。
発声のたびに喉の奥がちりちりと焼けつくように渇き、肺が圧迫される。単に新しい言葉を強制されているのではない。彼らの肉体が持っていた独自の「呼吸のリズム」を根こそぎ破壊され、国家という巨大な律のなかに強引に調律させられているのだ。不自然な発声を続ける村人たちの皮膚は、冬の寒さとは異なる、底知れない恐怖によって細かく震えていた。
紅衛兵たちの腕に巻かれた「紅い腕章」が、山風に煽られてパチパチと乾いた音を立てて爆ぜる。その規則的な布の擦れ音は、彼らの発声の乱れを値踏みし、不均一な存在の摘発を告げる処刑台の時計のようでもあった。
ラサは、赤い冊子を握る指先に烈しい緊縛感を覚えていた。
清朝の火が碉楼の物理的な骨組みを狙ったのだとすれば、この赤い教条は、人間の肉体の奥にある音律そのものを、平坦な記号によって縛り上げようとしている。
言い淀んだ老人が紅衛兵に小突かれ、土の上に倒れ込む。老人の口から漏れた、チャン語の悲鳴は、拡声器の平坦な平調にかき消され、広場の泥のなかに虚しく吸い込まれていった。
ラサは、教条を読み上げる自らの声の底に、かつてない冷酷な呪縛の網が張り巡らされていくのを、ただ沈黙のなかに堪え忍ぶしかなかった。




