第三節:死角の幾何学、石塔に記述された戦術
外見から見れば、それはただの「野蛮な民が築いた不格好な石の堆積」に過ぎなかった。
歪な形の粘板岩が、泥を噛んで天へとねじり立つその姿は、清朝の洗練された宮廷建築や直線的な城壁を見慣れた者の目には、不揃いで混沌とした原始の構築物と映るはずだった。
しかし、その実態は、恐ろしいほどの防衛の理が統治する、冷徹な三次元の戦術構造であった。
ルオは補強を終えたばかりの碉楼の内部に潜り、細く垂直に伸びる木梯子を静かに登っていた。窓のない暗黒に近い空間は、上方から差し込むわずかな光の筋によって、その精密な幾何学的構造を浮き上がらせていた。
下部が広く、上部にいくほど絞られた、一二角形の変則的な多角形構造。これは単に地震の揺れをいなすための土着の知恵ではない。麓に据えられた清軍の紅夷大砲が放つ、放物線を描くエネルギーのベクトルを完全に計算した「導弾の法」であった。
丸みを帯びた多角形の外壁は、直撃した砲弾の圧力を一カ所に集中させず、隣接する面へと連鎖的に分散・散逸させる。紙の設計図を持たない石工たちは、石の角度そのものに「勁力の減衰数式」を記述していたのだ。
さらに不気味なのは、壁面の各所に穿たれた「射入窓(矢狭間)」の配置であった。
ルオが内側からそのスリットに目を近づけると、外からは極めて狭く見えるその隙間が、内部に向かって朝顔の開花のごとく扇形に広がっていた。外壁の厚みを利用したその傾斜角は、下方から登ってくる敵兵の視線からは完全に不可視となる「絶死の領域」を、意図的に、かつ網の目のように作り出していた。
敵兵は、自分が安全な岩陰に隠れたと確信したまさにその瞬間、上方の射入窓から見下ろす羌族の照準のど真ん中に、自らその身を滑り込ませることになるのだ。
侵入者の心理と歩幅、長幼の視野の限界を予測し、自動的に死へと誘導する論理回路。文字を持たないことで帝国の戸籍から逃れてきた彼らは、その代わりに、この巨大な石塔の立体構造そのものに、血も涙もない「戦術という暗号」を記述していた。
ひんやりとした塔内の空気は、外の硝煙の熱っぽさとは対照的に、水底のような静謐と湿り気を湛えていた。
ルオが梯子を登るたび、乾燥した松の横木の軋む音が、石壁に跳ね返ってコツ、コツと硬く響く。壁の隙間から差し込む光のなかに、細かな石の粉と、村の女たちが矢に塗るために煎じた、肺を灼くような「毒草の苦い匂い」が混ざり合って、ねっとりと浮遊していた。
「ルオ、矢狭間の泥の乾きが甘いところがある。砲撃の振動で剥がれなきゃいいが」
上層の暗がりから、槍を検分していた若い男が、息を殺した声で話しかけてきた。
ルオは梯子の上に足をかけたまま、目の前の粘板岩の肌にそっと触れた。指先から伝わってくる、芯まで冷え切った石の底力。それは、ただの冷たさではなく、何百年もの間、この峻険な山脈の嵐に耐え抜いてきた「大地の肉」の硬度であった。
外を囲む清軍の鉄砲の音が、ドォンと遠くで鳴るたび、この巨大な石の脊椎は、まるで生き物が警告を発するように、低く、微かに震える。その微震を、ルオは自らの手のひらと足裏の皮膚を通じて、じかに受け止めていた。
「大丈夫だ。この石は泥の湿り気を吸って、中からがっちり噛み合っている。外からの火じゃ、びくともしない」
ルオはそう答えながら、射入窓からふもとの隘路を覗き込んだ。
朝霧がゆっくりと晴れていくなか、アリの列のように蠢く清朝の緑営兵の隊列が見える。彼らは、自分たちがこれから足を踏み入れる空間が、どれほど緻密に計算された「石の罠」であるかをまだ知らない。
ルオの胸の奥で、冷徹な構造への確信と、生身の敵を迎え撃つ野生の興奮が、不気味に、しかし完璧に調和し始めていた。




