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雲の上の咆哮 ―羊の民、三千年の歌―  作者: 武陵隠者
第二章:天を突く碉楼、骨としての石

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第二節:重心の対話、泥と歪石を噛み合わせる指

 山肌を削り取るようにそびえ立つ、高さ十三丈の石造りのトーチカ――「碉楼ちょうろう」の足元は、夜を徹した作業の熱気で異様な緊張感に包まれていた。


 凍てつく山風が渓谷の奥から吹き付け、ルオの剥き出しの首筋を容赦なく叩く。だが、彼の身体は重労働による熱い汗で濡れそぼり、皮膚からは獣のような湯気が立ち上っていた。


「もっと粘り気のある泥を持ってこい! 藁屑わらくずを混ぜて、よくるんだ!」


 ルオは叫びながら、次の石へと手を伸ばした。


 彼の指先は、絶え間ない石の粉で白くひび割れ、その隙間からは薄赤い血がにじんで粘土と混ざり合っている。しかし、その指先は驚くほど鋭敏だった。鉄のくぎも、測量の道具も持たない彼らにとって、両手のひらこそが世界を測る唯一の天秤であった。


 ルオが抱え上げたのは、岷江みんこうの濁流から切り出された、いびつで平らな粘板岩だ。ずしりと重いその質量が、ルオの肩と背中の筋肉を烈しくきしませる。彼はその石を、すでに積み上げられた下層の石の肌へとそっと押し当てた。


 その瞬間、ルオは目を閉じ、指先の感覚だけに意識を研ぎ澄ませた。


 石と石が擦れ合い、カリ、カリ、と微かに鳴る。歪な凹凸がどこで噛み合い、どこで反発しているか。大地から生えてきた「生きた骨」に、新しい骨を継ぎ足していくような奇妙な生々しさ。


 わずかな重心の狂いがあれば、そのひずみは十層上に達したとき、壁を内側から爆発させる致命的な歪みとなる。ルオの指先は、石の冷徹な肌触りを通じて、その石が「座りたがっている」もっとも安定した一点を、泥を挟んだ対話のなかで見出していく。


 それは、漢人たちの合理主義的な建築技法(幾何学)に対する、直感的でありながらも極めて厳密な「構造のアルゴリズム」の執行であった。


 清朝の官僚や技術者が好む建築は、均一に切り出された煉瓦れんがを、平坦な土地に、直線と直角の方格のグリッドに沿って積み上げる。それは記述が容易であり、台帳の上で完璧に統制できる「文字の建築」だった。


 しかし、ルオたちが今、暗闇のなかで再構築している碉楼は、その正反対の論理で成立している。使用される石はすべて形が異なり、厚みも、重心の位置もばらばらだ。つまり、初めから不均一な「不具合バグ」のような素材だけで満たされている。


 だが、この不均一さこそが、この塔を無敵の要塞へと変えていた。


 ルオたちは、素材の歪みを無理に削って平らにすることはない。むしろ、一つの石の凹みに次の石の凸みを噛み合わせ、その重力を内側へと収束させるように、かすかな内傾インコースをつけて積み進めていく。


 こうして構築された多角形の壁面は、外部からどれほど強烈な衝撃――たとえば清軍が誇る大砲の弾丸を受けても、そのエネルギーを特定の結合部で遮断せず、無数の「歪な噛み合わせ」全体へとしなやかに分散し、吸収せしめるのだ。


 文字による設計図を持たないからこそ、彼らは三次元の立体そのものに、地震の揺れをいなし、砲撃に耐えるための高度な不均一の理(エラー処理)を直接その肉体いしに刻み込むことができた。不均一を抱えたまま、全体として完全な調和を保つその石塔は、まさに文字なき民が清朝のシステムに叩きつける、硬質な論理の砦であった。


「よし、噛み合った。泥を詰めろ!」


 ルオが手を離すと、若い石工たちが一斉に、藁と水を丹念に練り上げた粘土を石の隙間へと押し込んでいった。グズ、と泥が締まる音が、冷たい大気の中で妙に生々しく響く。


 はるか東の空が、重苦しい濃紺から、鋭い白金色へと変わり始めていた。


 朝靄あさもやのなか、夜を徹して高さを増した碉楼が、まるで大地の底から突き出た巨大な指のように、その全貌を現していく。すすまみれになり、手の皮をかれながらも、誰一人としてつちを置く者はいない。麓から漂ってくる硝煙の臭いはますます濃くなっていたが、ルオたちの胸を支配していたのは、恐怖を通り越した、冷たく冴え渡った闘志だった。


 ルオは、自らの血と泥で汚れた手で、組み上がったばかりの石の肌を強く叩いた。


 びくともしない。大地と完全に一体化したその冷たい感触が、ルオの掌を通じて、彼の凍えた肉体へと確かな熱量を呼び戻す。


 どんなに巨大な軍勢が火を放とうとも、この山の骨たる石を、紙のように燃やし尽くすことなどできはしないのだ。ルオは深く息を吸い込み、次の石を抱え上げるために、再びその傷だらけの指先を動かし始めた。

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