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普通じゃない世界  作者: 鳥柄ささみ


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第二十六話 ヨシの過去

「知っているかもしれないけど、ボクが転校してきたのはね、前の学校でいじめられてたからなんだ。どうしていじめられてたかは今でもよくわからない。ある日突然みんなから無視されて、持ち物もぼろぼろにされて隠されて。先生に言っても、何かきっかけがあるでしょう? 何をしたの? ヨシくん悪いことしてない? ってボクが悪いことにされて。それで、ボクが悪いせいなんだ、僕が気づいてないだけでボクがきっと悪いことをしたんだってずっと思い込んでた。だから、ここに転校してきたときも、また知らないうちに悪いことしていじめられたらって思うとみんなとなかなか話せなくて、それで馴染めなくて、ずっと一人でいたんだ」

「そうだったのか……」


 リュウはヨシが転校してきたときのことを思い出す。


 その日もこの世界に来る前と同じような日だった。

 もうすぐ1学期も終わりかけという中途半端な時期での転校生に、田舎にあるリュウの学校では噂が飛び交った。


「親の転勤とかじゃなさそうだよね」

「何か悪いことをしたんじゃないか」

「いじめでもあったのかな」

「親がリコンしたとか」


 リュウの周りでは噂が回るのが早い。

 本当のこともウソのことも、どっちもいっしょくたになって噂される。

 だからリュウは噂については何でもすぐに信じないように、まずはちゃんと自分で見極めること、と母から常々言われていた。


 というのも、リュウの母も同じような経験をしていたからだ。


 リュウの母も都会からやってきたということやフルタイムで働いているということで様々な憶測から噂されることが多く、その中には悪意のあるものも含まれていた。

 それでリュウの母は思い悩んだ経験があったため、リュウにはそういう悪意を人に向ける人になってもらいたくないと思い、噂には耳を傾けずに、まずは自分の目で確かめて判断するようにリュウを教育していたのだ。


 そのおかげで、リュウは人の噂などは気にしないで、素直に自分の思うとおりに行動していた。

 ヨシのことだって、たくさんの悪い噂はあったけれど、リュウはわざと何も聞かないで先入観を持たずに接するようにした。


 もちろん、最初はヨシはリュウに対してよそよそしかった。


 だが、リュウが毎日挨拶をし、くだらない世間話をするようになると、だんだんとヨシも自分から話すようになっていった。

 それから毎日話すようになり、遊ぶようになり、リュウとヨシはかけがえのない親友になったのだ。


「リュウがずっと話しかけてきてボクは嬉しかった。仲良くしてくれる人がいるってことがとっても嬉しかった。ボクが勉強してることも、運動ができないことも笑わずに、すごいすごいって言ってくれるリュウがいてくれてすごく嬉しかった」

「だったら、何で。どうしてオレのことが嫌いだとか、元の世界に戻りたくないとか思ったんだ?」

「それは、本当にごめん。ボクのワガママなんだ。ボク、自分が嫌いだったんだ。元の世界では自分の思うようにいかなくて、それを自分のせいだって認めずにリュウを言い訳にしてた」

「自分が嫌い? 何でだよ。ヨシにはいっぱいいいところあるじゃん」

「リュウはそう言ってくれるけど、みんなといっぱい話したくてもリュウみたいに話せないし、運動だってリュウは何でもできるのにボクは全然できない。そう考えたらリュウのことが羨ましくなって。リュウみたいになりたいけどなれないって思ってたら、リュウのことがだんだんズルいって思うようになっちゃったんだ。でも、そんなことを思う自分も恥ずかしくて、そんな風に考えてるボクを親友だって仲良くしてくれてるリュウにも悪いなって思って。色々たくさん考えるうちに頭の中グチャグチャになって。この世界にいたら、そうやって何でもリュウと比べなくていいかなって、ここならボクだけの特別な能力もあるし、ここにいるのも悪くないかなって思ったんだ」


 ヨシが自分の本心を吐きだす。

 ヨシからこんな話を聞くのは初めてでリュウはヨシがそんな風に思っていたのかとびっくりしたけれど、なんだかちょっと拍子抜けした。


「なんだよ、それ。そんなこと、オレもあるぜ?」

「え? リュウも?」


 リュウが素直に白状すれば、ヨシはきょとんとした顔をする。

 まさかリュウが自分のことを羨んだり(ねた)んだりするなどこれっぽっちも思っていなかったのだろう。

 自分だけの悪い感情だと思っていたら、まさかのリュウも同じことを思っていたと知って、ヨシは驚いた。


「そりゃそうだよ。誰にだってあるだろ? そんなん。オレは、ヨシの母さんいつも優しくていいなぁ、とか家に母さんずっといてくれていいなぁ、とかお休みのとき出掛けられていいなぁ、とかゲーム機もオレの家よりたくさんあっていいなぁ、とかそんなことばっかり考えてるぞ」

「え、うそ。本当に?」

「本当だよ。オレんち父さんも母さんも共働きで家にいることが少ないから、ずっとヨシの家はいいなぁって思ってた。いつもよそはよそ、うちはうちって言われてて、一回こんちくしょーって家出したこともあったし」

「えぇ!? リュウが?」


 リュウの意外な過去に目を丸くするヨシ。

 リュウも無茶した自分のことを話すのが照れ臭いのか、顔を赤らめながら話し出す。


「そうそう。ヨシが来てちょっと経ってたくらいだったっけかな? で、家出したはいいけど行く先もなくて、しょうがないから学校に行ったんだよ」

「学校に?」

「うん。で、夜になったら学校真っ暗で、めちゃくちゃ恐くて。誰もいないし、オバケ来たらどうしようとか思ってたら、パタパタパタパタって足音が聞こえるの」

「え、こわっ!」

「だろ? めっちゃちびりそうになって、ビクビクしてたら、まさかのその足音は母さんで。ライト当てられた瞬間、ギャア! って叫んだら、めちゃくちゃ泣きながら怒られてさ。心配したとかバカとか無事でよかったとかいっぱい言われて。オレ、そのとき初めて母さん泣いたの見たんだけど、びっくりしちゃって。母さんも泣くんだーって。それにオレのこと一番に心配して仕事ほったらかしてずっと探してくれたんだって聞いて、なんかオレ何やってたんだろうって思って」

「そんなことがあったんだ」


 ヨシは、まさかリュウにそんなことがあったなんて全然知らずにびっくりした。

 リュウはそんな素振りを見せたことなどなかったから、余計だ。


「ヒナは知ってるけどな。あ、ちなみにオレが母さんに見つけられてビビってマジでちょびっとだけ漏らしたのはここだけの話な」

「マジ?」

「マジだよ! だって、超ビビったからな! もう口から心臓飛び出すかと思ったし」

「はは、でも確かに。ボクでもちびりそう」

「だろう!? 本当恐かったんだって! あのあと一人で風呂入れなくなって大変だったし」

「あははは、ボクもそうなりそう。あー、そっか。リュウでもそんな風になるのか。なぁんだ、なんかリュウに全部話したらスッキリしちゃった! 今までくよくよ悩んでたのがバカみたい!」

「そうだぜ? 言ったら大したことないことだってあるんだから」

「本当。ずっと悩んでたのなんだったんだろう」


 ヨシの顔はとても晴れやかだった。

 抱え込んでいた悩みを自分で勝手に重くしていたことに気づいて、ヨシはもっと早くリュウに話しておけばよかったと思った。

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