第二十五話 仲直り
__もう逃げも隠れもしない。ヨシとは友達……いや、親友なんだから!
わざとヨシに見つかるように見晴らしのよい場所で待つリュウ。
捕まえにくるカゲ達には光を浴びせて撃退し、ただヨシだけが来るのを待った。
そして、夕陽に映し出された見慣れた人影がリュウの身体にかかるように長く伸びてきて、リュウはその人影に向かって口を開いた。
「ヨシ!」
「リュウ、やっと見つけた。もう逃げるのはやめたの? それとも、ボクに捕まりに来たの?」
ヨシがまっすぐ、リュウに向かってやってくる。
リュウは覚悟を決めたように、ギュッとこぶしを握った。
正直、怖くないと言えばうそになる。
けれど、リュウはヨシへの気持ちと、守ると言ってくれた小さなビョードーの言葉を信じて毅然として立ち向かった。
「オレは、ヨシの親友だから……っ! 逃げるのをやめたんだ!」
「まだリュウはそんなことを言ってるの? 聞いてたんだろ? ビョードーさまとの話」
「うん。聞いてた」
「だったら、何で!? 何でボクのことを親友だなんて……!」
ヨシの身体から、モワッと黒いカゲのようなものが溢れ出てくる。
ヨシの表情は苦しそうに、切なそうに、何かを抱え込んでいるようだった。
そんなヨシを見て、リュウは絶対にヨシを助けてあげたい。ヨシの力になりたいと思った。
何か普段言えない何かがあるなら、今吐き出してほしいとそう思ったのだ。
「親友だと思うのに理由がいるのかよ! オレはずっとヨシのこと親友だと思ってるし、今も思ってる。オレはヨシのことが好きだからな!」
「……っ! 何で、いつもリュウはそうやって……本当のボクのことなんか知らないくせに……っ! リュウのそういうところが大嫌いだ! 大人しく、ボクに捕まれ!!」
ビュン! とリュウに向かって魔法が飛んでくる。
リュウはとっさにギュッと目を固く閉じるも特に衝撃はない。恐る恐る目を開ければ、透明な壁のようなもので魔法が防がれていた。
「あ、ありがとう。助かった!」
「さっき守ると言っただろう? アタシだってやるときはやるんじゃよ」
コソコソ二人で話をしていると「何で、何で……? どうして、リュウには効かないんだ……ボクはリュウには勝てないの……?」と呆然としているヨシ。
ヨシは自分の手を見つめながら、どうやってもリュウには勝てないのだと感じて、自分の無力さに絶望した。
その様子に、リュウがヨシに一歩ずつ距離を縮める。
ヨシの危うさがリュウにはとても心配だった。
「なぁ、ヨシ。オレ達親友だろ? 隠し事はなしだ。オレのことが嫌いなら嫌いでもいい。だけど、本当の理由を教えてくれ。オレが何でもできるとか、ヨシが何もできないとか言ってるけど、本当はそうじゃないだろう? ヨシだってじゅうぶん特別だよ。勉強もできて、優しくて、家族仲だってよくて、オレにはないものをいっぱい持ってる。それじゃダメなのか?」
一歩、また一歩とヨシに近づく。
そんなリュウの様子に気づいて、ヨシは動揺しながら必死にリュウに向かって魔法を飛ばした。
だが、すぐに小さなビョードーがそれを弾く。
「く、来るな! こっちに来るなっ!! な、何で、リュウは……っ! どうしてそうやって……ボクが悪いと思わないの!? ボクのワガママだって、ボクが勝手に嫉妬して羨んで八つ当たりして、無茶苦茶なこと言ってるって思わないの!?」
ビュン、ビュン、と魔法が飛んでくるも、小さなビョードーが次々に防いでくれる。
そして、こっそりと「あれはだいぶ焦っておるようじゃな、魔法に覇気がない。あともう一押しじゃ、リュウ頑張れ」と励ましてくれる。
それを聞いて、リュウはヨシの説得を頑張ろうと思った。
「そりゃ、ちょっとはそう思うところもあるけどさ。でも、オレってヨシとは違ってバカだからさ!」
「え? な、何だよ、別に、そんなこと……っ」
リュウが自分のことをバカだと言えば、ヨシは本来のお人好しな部分が出てきたのだろう、先程まで威勢も弱まり、困惑している様子を見せる。
それを見て、リュウは距離を詰めながら畳み掛けるようにヨシに話しかけていった。
「ほら、オレって自分が思うように何も考えずに色々言っちゃうから、よくトラブルになることもあるだろ? 母さんとかじーちゃんとかにもよく、相手の気持ちを考えてから喋りなさい、って怒られるし。嫌われる部分はあると思う」
「そ、そんなこと……っ。リュウはいつも本当のことしか言わないし……っ」
「そうかもだけど、本当のことだったとしても、言われたくないってこともあるだろ? ヨシだって、そういうときもあっただろ?」
「……っ、うん。まぁ、そう、いうこともあった、かもしれない、けど……」
「ごめんな。オレ、そういうのに気づけなくって。でもさ、そういうのって直せるじゃん? オレ、言ってくれたらちゃんと直すし。直したらまた仲直りできるじゃん? それじゃダメ? オレはヨシに嫌われたままじゃ嫌だから、直せるとこは直したい。なぁ、それじゃダメか?」
ゆっくりとリュウがヨシの目の前にまで近づく。
そしてそのままギュッとヨシを抱き締めるリュウ。
ヨシは今まで何かを溜め込んでいたのか、先程までの威勢はどこかへ飛んでいき、顔をクシャっとひしゃげると、ぼろぼろと大粒の涙を溢しながらリュウにしがみついて泣いた。
「何だよ、それ。ボクが全部悪いのに。もっと怒ってくれたっていいのに、リュウが何で直そうとするんだよバカ。そういうとこ、リュウは本当にバカだよ」
「そうだよ、オレはバカなんだぜ? だからいつも言ってんじゃん。オレはヨシと違ってバカだって」
ポンポンとリュウがヨシの頭を撫でる。
ヨシは泣きながら小さく頷いた。
「でも、ボクはそんな素直で優しくて明るくてみんなの太陽みたいなリュウのようになりたいってずっと思ってた。そう、ずっと思ってた」
「オレだって、ヨシみたいに相手をちゃんと気遣えるようになりたいってずっと思ってたぞ」
「それは、ボクが昔いじめられてたからで……」
「そんなのは関係ないんだよ。ちゃんとみんなに優しいのはヨシがヨシだからだよ。それに、ヨシは勉強できるとこもそうだけど、それだけじゃなくて、相手のことをちゃんとよく見てて凄いって思ってたし、勉強できるのもひけらかしたりしないで、困ってたらすぐに助けてくれるだろ? オレはそんなヨシだから大好きなんだ」
「ボクも……ボクも本当はリュウのこと大好きだよ。嫌いだなんて言ってごめん。リュウみたいになりたくて、リュウが羨ましくてそう言っただけなんだ」
「はは、オレ達相思相愛だな!」
「ふふ、ヒナちゃんに聞かれたら『キモい』って言われそうだけどね」
「確かに!」
二人でふにゃりと笑うと、相手の顔があまりにぐちゃぐちゃでリュウもヨシも二人して笑い出す。
ヨシの黒いモヤモヤはいつのまにかどこかへ消えてしまっていた。




