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普通じゃない世界  作者: 鳥柄ささみ


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第二十四話 恐怖の克服

 __ヨシ、どうして……っ!?


 リュウは小さなビョードーがいた部屋の中の物陰に隠れて小さく身を縮こませながら、ギュッと服を掴んでぶるぶると震えた。


 __ヒナはオレの犠牲になって、ヨシに人形に変えられちゃった。でも次はきっとオレの番だ。


 あまりの恐怖に身体が(すく)む。


 まさかヨシが敵になるだなんて、想像してもいなかった事態に、リュウは震えて動けなかった。

 ヨシは敵になり、ヒナは人形にされてもういない。

 残されたのはリュウと小さなビョードーだけ。

 しかも小さなビョードーは大した魔法は使えない上に、リュウの特別な能力は光ることと消えることだけ。

 さらに時間制限もあり、まさに万事休す。捕まるのは時間の問題だった。


 ガタガタガタガタ……


 __怖い、怖い、怖い、怖い。もしオレも人形になったら? オレは帰るどころか人形として一生を過ごさなきゃいけないのか? 人形になったらオレはどうなるんだ? もう元には戻れないのか? それとも人形から元に戻れても「普通」に書き換えられてオレがオレじゃなくなっちゃうのか……?


 リュウの頭には、悪いことばかりが浮かんでいた。

 悪いことを考えたくなくて、違うことを考えたくても、勝手にどんどんと恐怖で悪い考えばかりが思い浮かんで、暗い気持ちになってくる。


 そんなとき、ひょっこりとポケットから小さなビョードーが顔を出した。


「リュウ、何をそんなに暗い顔をしておる。さっきまでのポジティブはどこにいったんじゃ」

「そんな、だって……っ! この状況になったら誰だってこうなるだろ!?」

「そうかのう? ビョードーを説得しようとアタシをここまで連れてきたのは一体誰だったか」

「それは、でも……っ」

「まぁいい。とにかくこれを見ろ。多少は落ち着く」


 小さなビョードーはそう言うと、手の平サイズの花火をリュウの周りにパッパッといくつも散らしていく。

 最初こそ、「これで居場所がバレたらどうするんだ!?」と思っていたリュウも、あまりにも綺麗で美しい色彩豊かな花火の数々に、次第に気持ちが落ち着き、キラキラパチパチと幻想的な花火を夢中になって見つめた。


「カッカッカッ、どうじゃ、綺麗だろう?」

「うん。何度見てもとっても綺麗」

「そうじゃろう? 実はこの花火の魔法はビョードー自らが作った魔法なんじゃ」

「え? ビョードーって、あのビョードーが? てか、魔法って作れるの?」

「あぁ、そうじゃ。あまりに一人でいるのが寂しかったときに、たまたまリュウの街であった花火大会を観てな。それがあまりにも綺麗で、ビョードーはまるで魔法みたいだと感銘(かんめい)を受けてな。それからというもの、花火のような魔法を作り出し、使うようになったのじゃ」

「そうだったんだ」


 魔法を作れたり、この世界を作れたり、ビョードーは本当に凄い魔女だと感心するリュウ。

 この力がもっといい方向に使えればいいのにと心の中で思った。


「そのときのイメージがかなり強かったのだろう。だからこの普通の国は、リュウのいた世界に似せて作られているのじゃ」

「そうだったのか。どうりで、オレ達の世界に似てるわけだ」

「そういうことじゃ。どうだ、ちょっとは気が晴れたかの?」


 小さなビョードーの話に、リュウはずっとまとわりついていた恐怖が多少なりとも薄まったのが自分でもわかった。

 だが、まだ全部が払拭できたわけではない。

 今は隠れられていても、そのうちヨシに見つかってしまうかと思うと、まだ不安な気持ちは残っていた。


「うん、ちょっとは晴れた、かな? でもやっぱり怖いよ。ヨシが、オレ達にこんなことするなんて……」


 親友であるヨシが自分達にこんなことをするだなんてリュウは信じられなかった。

 そして、それほどまでに嫌われていたのかと思うと、胸がずきりと痛んだ。

 そんなリュウを慰めるように、小さなビョードーはリュウの頭をよしよしと小さな手で優しく撫でた。


「大丈夫じゃ。何かあればアタシがリュウを守ってやる」

「でも……さっき、ヒナは……っ」

「あのヒナも大丈夫じゃ。一時的に運びやすいよう人形にされただけですぐに戻せる。それに、あのヨシという小僧も本気でやったわけではなく、まだ迷いがあるのだろう」

「迷い? うそだ。そんな……だったら……何で……」


 リュウにはヨシに迷いがあるようには見えなかった。

 けれど、小さなビョードーはポケットの中からヨシのことをよく観察し、あることに気づいていた。


「あのヨシが使った魔法を見る限り、ビョードーからもらった力はとても強いもののようじゃ。だが、先程魔法を当てたのはヒナのみ。本来ならあの力を持ってすれば、みんなまとめて人形に変えることができただろうに」

「……そうなの?」

「あぁ。魔法が当たってヒナが人形に変わったとき、ヨシはびっくりしたような表情をしておった。きっと人形に変えることは本心ではなかったのだろうし、力の調整もしてたはずじゃ。それらを考えると、決してヨシはお前達が憎くてやったのではないと思うぞ?」


 小さなビョードーに言われて、さっきまでヨシを怖がっていたはずの心がちょっとずつ軽くなった気がする。

 単純だろうが、リュウはヨシが自分を憎んで嫌いきってないと言われただけで、なんだかまだ頑張れる気がしてきた。


「ねぇ、お願いがあるんだけど」

「なんじゃ?」

「ちょっとの間だけでいいから、ヨシの魔法を防ぐことってできる?」

「防ぐ? まぁ、少しの間ならできないこともないが、どうするつもりじゃ?」

「……ヨシを、説得する」

「説得? さすがに迷いがあると言えど、あの様子じゃすぐには聞く気がしないと思うが、本気か?」

「本気だよ。オレはヨシの親友だからな! それに、ビョードーを説得しろって言い出したのオレだし、やっぱり見本見せなきゃだろ?」


 リュウが小さなビョードーにそう言って、ヘヘッと笑う。

 そこには先程感じていた恐怖の色などは見えなかった。

 怖くないわけではない、だがリュウはそれ以上にヨシと仲直りがしたいと思ったのだ。


「そうじゃな。まずは言い出しっぺのリュウにお手本とやらを見せてもらおう」

「うん! だから、サポートよろしくね!」

「あぁ、だがくれぐれも無理だけはするなよ?」

「うん、わかってる!」


 リュウはそう言うと、透明化をなくして外へ出る。

 外は黄昏(たそがれ)に染まった、綺麗な赤色をしていた。

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