第21話(累計 第66話) 僕、ティナの事をお貴族様から頼まれる。
「カイト。わたし、どうしよう……」
「ティナ。もう、こうなったら動く、戦うしかないよ。それが陛下の為でもあるんだし」
執務室で一人泣きながら途方に暮れるティナを、僕は優しく抱きしめ戦う事を宣言する。
「うん。そうだね、カイト」
ティナは眼に涙を一杯貯めつつも、僕を見上げて貴族令嬢の顔、戦う女性の顔になった。
……泣いている女の子って美しいけど、もう、僕はティナの泣き顔は見たくない。絶対に大公様を打倒するぞ!
帝都からの一報、皇帝陛下崩御の通達を受け、僕とティナは行動を開始した。
◆ ◇ ◆ ◇
「いきなり俺らをこんな処に集めて何を話すんですかい、姫男爵様」
「そうですね。ワタクシ達エルフ族、そしてドワーフ族などなどまで纏めてお呼びになるのですから、ただ事ではございませんですね」
「それは私共貴族も同意です。なんで、平民や亜人らと大学などで話し合う必要があるんですか?」
「おい! ティナちゃんが大事な言っているんだから、若造どもは文句を言うな。領民を大事に出来ない領主じゃ、馬鹿大公と同類だぞ?」
「まあまあ、お貴族様方。今日のところはフローレンティナ様のお顔を立てましょう。パンフィリア女男爵様、宜しくお願い致します」
学都カールスブルグに存在する帝国大学。
そこの会議室に、種族も身分も大きく違う人々が集まる。
彼らの共通点としては、ティナの思想。
身分種族関係なく平和で平等な社会をつくるために賛同している人々だ。
……まあ、お貴族様の中には反大公派というだけで、平民なぞ気にしていない者も来てるけどね。
「学長先生。纏めて頂き、ありがとう存じます。本日は、急遽わたくしのワガママで皆様に御足労をお掛け致しました。今回、集まっていただきましたのは今後の帝国の行く末を皆様と話し合いたいと思ったからでございます」
凛としたティナが発言を始めると、それまでガヤガヤと騒然な会議室が急に静かになった。
……今日は気合入ったパールホワイトなローブ・モンタントのティナ。可愛さよりも凛とした美しさ重視の衣装と化粧。メイド役のネリーのテクニックに今日も感謝だね。
「で、ティナちゃんは、どんな風に帝国を変えていきたいのかい?」
「もう、【パウル】おじ様。わたくし、真面目に話しているんですよ? 今日はパンフィリア女男爵として話して下さいませ」
ティナの立派な姿をニコニコ顔で見ている傷だらけな顔の老紳士、パウル・デル・マントイフェル様。
彼は帝国内では王家派、ティナの実家キッツビューラー元公爵家とも以前よりお付き合いがあった方だ。
「だがな、俺にとっては、いつまでたってもティナちゃんは可愛いティナちゃんだぞ? そこの若造が不甲斐ないヤツならなら俺が奪い取って一生面倒を見ても良いんだがな?」
「いくらパウルおじ様、元マインツベルク元辺境伯様でもカイトの悪口は許しませんですの!」
まるで孫娘と話す様に、じゃれ合うパウル様。
その様子に硬い表情だった平民や大学の関係者、更に異種族の代表者達は笑顔を浮かべた。
……これ、パウル様が場の雰囲気を和ませるためにやっているんだね。この辺りの年の功は凄いや。辺境伯って国境警備を兼ねた存在でもあるから、武芸も秀でているのは当然だけど、政治力も結構ありそう。
「ははは! すっかりノロけられてしもうたわい。カイト殿、ティナちゃんを今後とも頼むぞ。俺ではティナちゃんを救えなかったからな」
「はい、この命に掛けましてもティナを幸せにしてみます」
僕はパウル様に真剣な顔で頭を下げた。
「二人とも、わたしを無視して話を進めないでよぉ。あ! こほん。申し訳ありませんです。では、今日の議題に参りますわ。今、帝国が政情不安定になっているのは皆様、ご存じかと思います。皇帝陛下の崩御を受け、大公様が動き始めました」
先程までは、年相応の表情豊かで幼い顔だったティナ。
顔を引き締めて女男爵としての姿を示して、話し始めた。
ティナは、大公の動静を話し出す。
陛下暗殺後、大公は恐怖政治を始めた。
まず暗殺者であるメイド、コレットさんの捜索。
更にはコレットさんを匿う、もしくは協力していたと思われる者達への強制捜査。
ここまでは、孫を失った怒りの元の行為であると想像は出来る。
しかし、反皇帝派であった貴族達にも捜査の手は伸び、捜査妨害で逮捕された者すら発生している。
……粛清のお題目として陛下暗殺を利用している様にも思えるよ。だったら、次は……。
「わたくしの『情報筋』では、大公様は臨時に皇帝になられ恐怖政治の元、絶対王政、絶対の皇帝として立ち上がるおつもりの様です」
「俺の情報筋も同じ話を聞いている。今は反皇帝派を締め付けているが、時期に反大公派にも手を伸ばす事だろうて」
僕の予想と同じ事をパウル様も語る。
絶対王政を目指すのなら、諸侯、貴族共の力をどう削ぐか。
なれば、陛下暗殺犯こそが最大の理由に使える。
民衆、平民に取って、普段は偉そうにしているだけの貴族がどうなろうとも気にもならない。
幼く可愛かった陛下を殺した貴族に怒りこそ持て、彼らが落ちぶれても同情すらしないであろう。
……この辺り、かなりの策士が大公様の裏にいるんだろう。大公様自身は、失礼ながらそこまで賢そうに見えないし。
「俺の一族は先祖代々、皇帝陛下派さ。愚かだった先帝や大公などにはついていく気も無いが、幼い陛下があまりにもお可哀そうなので今まで何も言わなかった。それでティナちゃんを可哀そうな事にしてしまったのは、ずっと気になっていた。だがな、もう俺は辺境伯を引退して自由の身。これからは好き勝手にやらせてもらう。俺はティナちゃんを守るぞ」
「パウル様。過去の事、わたくしは気にしていませんですわ。パウル様には守るべき家、家族、そして領地領民、更には国境防御というお役目がありましたの。政変時に勝手に動いて国境を開けるのは出来ませんですものね」
全身傷だらけ、左目すら失った姿のパウル様。
帝国を長年守るために国境で戦ってきていたが、九年前の政変時にも国境を荒らす「蛮族」と呼ばれる者達との戦いで領地から動けなかったそうだ。
そして友人であるティナの両親を守れなかったのを、ずっと後悔していたと語る。
……その『蛮族』も大公様と繋がっていた外国勢力なんだろうね。政変に邪魔になりそうな武力を引き付けて抑える為に。
「ありがとう存じます、パウル様。後、今回の事は貴族だけではすみません。領民の方々、更には他種族の方々にも被害が出る危険性もあるのです」
<ティナ様、とうとう立ち上がるのですね。この動き、どうなりますのでしょうか?>
では、明日の更新をお楽しみにです!




