第22話(累計 第67話) 迫る闇。大公は女男爵を襲う!
「皆の衆、未だに陛下を暗殺したメイドの逃亡先が見つからぬ。これは間違いなくドコゾの諸侯、貴族がメイドの秘匿、そして陛下暗殺に関与しているに違いあるまい! よって、ワシは全ての諸侯に調査の手を伸ばす事にした。まず最初は陛下と最近接近しすぎておったパンフィリア女男爵じゃ! 彼女と接触して後、陛下はワシの言う事を聞かなくなったのじゃ!」
「姫男爵様は、陛下暗殺には絶対に関係ないぞ!」
「俺達のフローレンティナ様に何を言うんだ!」
「大公様。まさかボケたのか!?」
大公が王宮のバルコニーから、再び演説を始める。
しかし、その演説内容に集まった民衆からは非難の声が飛び出した。
……何を言うのだ、こいつらは! 小娘が来なければ、ワシは孫を失う事が無かったのだぞ!
内心で大公は叫ぶ。
孫を失うきっかけになったフローレンティナの存在が、彼にとっては絶対に許せないのだ。
「何故、女男爵の調査をするのが悪いのだ? 陛下と最後に会ったのは彼女だぞ? 疑う理由にならないとは言わせぬぞ? あんな平民人気だけの小娘、絶対に裏があるに決まっておる! これは決定事項だ。ワシの命に従わぬ者は、同じく処罰の対象となると思え!」
とうとう恐怖政治の様相を見せてきた大公。
その様子に背後に控えていた事務官イーチェンと執事アードルフは、闇のような笑みを浮かべた。
「これで、この世界の更なる混乱がまたひとつ。私の復讐にも一歩近づきます」
「ええ、私共魔神の野望にも一歩です。では、『仕掛け』も動かしましょうか」
騒然とする中、二人は呟いた。
◆ ◇ ◆ ◇
王宮内の謁見室。
大公は、そこに二人の青年貴族を呼び出した。
「エッカルトよ。ワシがお前にパンフィリア女男爵の討伐部隊の隊長を命じる! 補佐として男爵領の地理に詳しいリヒャルトを連れて行くが良い。なお、部隊編成はフィエル伯爵、シェレンベルク伯爵の両家から準備するのだ」
「御意!」
大公、遅々として進まぬ男爵領の調査に苛立ち、帝国に反逆の疑いありと認定。
フローレンティナに恨みのある両名に討伐隊を指揮してこいと命令してきた。
……自らは何も痛まずに漁夫の利ですか、大公様。さては、後方にいる事務官や執事殿が要らぬ悪知恵でも授けていらっしゃるのでしょう。
灰色の目と淡い茶色髪な長身青年貴族、リヒャルトは内心で大公の腹黒さと愚かさを蔑む。
大公が配下の甘言に騙されて国を二分しなければ、リヒャルトの父も魔神の悪意に騙されることも無かったからだ。
「リヒャルト様、宜しくお願い致します。しかし、貴方は良く辛抱できますね。あのにっくき小娘に近づいて情報を得るなどと?」
「己の感情を消せてこそ貴族らしき行いを出来るのですよ、エッカルト様。確かに私にとって、あの小娘は父を失脚させた怨敵。楽に殺すのは勿体ないものです。あの美貌が崩れる様を是非とも見たいものですね」
金髪碧眼ながら神経質そうな青年貴族、エッカルトの愚かさにもうんざりしながら、リヒャルトは笑顔で話す。
……弟君が、フローレンティナ様に馬鹿にされたと逆恨みですか、エッカルト様? 肉親の情は理解しますが、先に弟君をちゃんと躾けておけば起きなかった事件ですよ。それにちゃんと生きて返してもらい、更に躾け直してもらったのに逆恨みとは実に情けない。貴族のプライドの使い方を間違っていますね。
事案の正当性は、領地や領民を荒らされたフローレンティナ側にある。
犯罪者になったカールを生かしたまま捕縛し、更に恐怖をもって躾け治して返したフローレンティナ側に汚点など無い。
更には、逆恨みで暗殺者まで送って返り討ちとは情けないにも程がある。
リヒャルトは、内心で愚かな貴族共を見下す。
彼は己の発言通り、「感情」を切り離し、自らの目的を完遂する為に行動している。
だから、今も大公とフローレンティナの間でダブルスパイをしているのだ。
「リヒャルトよ。あの小娘は、どこまでワシらの事を警戒しておる? それに、本当に小娘がメイドをかくまっておらぬのか?」
「大公様。私が調べた限りではフローレンティナ様、まさか討伐部隊を送ってくるとまでは思っていないでしょう。後、今回の陛下暗殺に小娘は一切関係しておりません。お人好しの子供に、暗躍しての暗殺は無理かと。なので、今回の調査も言いがかりだと思っているので、のらりくらりと逃げているのでしょうね」
大公からの質問にシラっと答えるリヒャルト。
皇帝「暗殺」に自分が関与しているにも係わらず、彼は一切顔には出さない。
……大公様も甘いですね。まさか、眼の前に陛下『暗殺』の首謀者、そして犯人をかくまっているものが居るのを知らぬとは。
その後も何も知らぬ顔で、大公やエッカルトの問いに答えたリヒャルト。
会談が行われた謁見室から去る際、大公の背後に居る事務官から質問を受けた。
「リヒャルト様。くれぐれも、あの小娘の情に絆されて妙な事は考えませぬように。」
「ええ、イーチェン殿。私は父の様に、情に流されて絶対に損をしたくないのです。今、貴方方に敵対する気はありませんので、御安心を」
笑みを浮かべて部屋から退場するリヒャルト。
冷笑を保ったまま、ただ一人の側使い女性と共に王宮廊下を歩く。
「ええ。『今』はね、大公様」
<そのお言葉信用させて頂きますね、リヒャルト様。今回はワタクシも会談に同行させて頂き、ありがとうございます>
リヒャルトの呟きに胸元から電子音声が反応する。
「姫男爵様に宜しくお伝えくださいませ、ルークス殿。私、感情には流されません。貴方方に利用価値がある限り、絶対に裏切りませんと」
電子音と会話するリヒャルト、その顔は先程までとは全く違う笑みを浮かべていた。
<ふふふ。ワタクシも暗躍しているのですぞ!>
ルークス君が色々やっている様ですが、さてどうなりますやら。
では、明日の更新をお楽しみにです。
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