第20話(累計 第65話) 大荒れの帝都! 皇帝陛下、崩御する。
「この度、悲しい知らせを帝都、いや帝国の皆に知らせねばならぬ。昨晩、我が孫にして皇帝、マルクス・シュテファン・デル・リンデンベルガー陛下が急遽、崩御あらせられたのじゃ!」
帝都にそびえる王城、そこのバルコニーから拡声魔術を使いエルヴェン大公ジークベルトが悲痛な表情で話す。
「陛下、マルクスはワシにとって可愛い孫であった。しかし、何者かの手により孫の、皇帝陛下の命は奪われたのじゃ!」
涙をぬぐうことも無く話す大公。
その様子に王城の中庭に集まった民衆や貴族達ら群衆も、驚きと共に悲しみの表情を浮かべる。
「一体、誰が陛下を害したのですか!?」
群衆の中から大声で皇帝を誰が殺したのかと聞く声が響いた。
「仕手人は専属メイドだと思われる。しかし、今まで陛下に仕えてくれた彼女が、どうして急に手を下したのかも分からぬ。誰かの唆しか脅迫でもあったに違いない」
「メイドはどうしたぁ。陛下を害した者なぞ死刑だ。いや、簡単に死刑にするもの手ぬるい。車裂きにしてやるんだぁ!」
「殺せ!」
「殺すんだ!」
大公が犯人としてメイドの存在を告げる。
すると群衆の中から、メイドを残虐に殺せとの声が上がる。
「じゃが、メイドは忽然と姿を消したのじゃ。皆の衆、犯人を、我が孫を殺したメイドを絶対に逃すな! 必ず見つけてワシの目の前に突き出せ。生かして連れて来れば金貨一千枚、殺して首だけにしても金貨百枚は支払おうぞ」
「おー! 草の根を分けても探せ―。皇帝陛下の敵討ちだぁ!」
群衆たちは盛り上がる。
少年皇帝の敵討ちと高額報奨金。
殺気だった者達の怒声が帝都に響き渡った。
◆ ◇ ◆ ◇
「あれで良かったのか、イーチェン? ワシは孫を失ったのだぞ?」
「大公閣下、もはや失われた命は帰ってまいりません。なれば、その命を無駄にせぬためにもこの機会を活かすのです」
「ジークベルト様、誠に申し訳ありません。計画の為に陛下の護衛を減らしていたのが裏目に出ました。脅し付ける際にコレットにはちゃんと言い含めておったのですが、まさか凶行に及んで陛下の御遺体と共に行方不明になるとは……」
玉座にて落ち込む大公を慰める事務官イーチェンと執事アードルフ。
彼らにしても今回の事案は想定外であった。
「ちゃんとメイドには言い含めたのであろうな、アードルフ? 家族の命が惜しくなければ陛下に毒を盛れと。眠り続ける毒だから陛下は死なぬし、お前や家族の事は一生面倒を見ると?」
「はい。間違いなくその様に伝えております。陛下が目を覚まさなくなり、光神最高司祭によっても治癒できない。なので、死する前に石化して治癒の時間を稼ぐ。光神話の神殿にも高額納付をして口裏わせをした上での筋書きでしたのに……」
いかな政治的には邪魔な存在とはいえ、皇帝は大公からすれば可愛い孫。
皇帝を殺す事なぞ、間違っても大公は考えない。
彼を生かしたまま、昏睡状態から石化。
一時的に帝国内の政治的空白を生み出し、全ての権力を大公の元に集める計画であった。
もちろん事が終わった後に、皇帝はただの少年に戻す筈だった。
「孫を、マルクスを生かしたままにするというから、ワシは計画に許可を出したのだぞ? それが、まさか殺される。それも遺体すら存在しないとは……。イーチェン、本当に陛下は死んでいるのか?」
「はい、おそらくは。寝室のベット周辺の血痕、その出血量では通常人は死にます。それに血痕は引きずられたり抵抗した痕跡もあります」
早朝、いつまでも起きてこない少年皇帝。
また早起きなはずの彼専属のメイドも、同じく現れない。
不思議に思った陛下直属の料理番が皇帝の寝室に城内警備兵と共に伺い、見た物。
それは高級なベットや床を汚す大量の血痕と暴れた跡だった。
床一面を赤黒く濡らし、とてつもない血臭に満ちた部屋。
しかし、そこには少年皇帝は影も形も居なかった。
また、専属メイドであるコレットも城内から忽然と姿を消していた。
「メイドの似顔絵を帝都内に配布しました。また冒険者ギルドや各神殿にも同じく配布、冒険者共にも報奨金を出すとしました。これでメイドは近日中に捕まると思います。元より文字も書けず声も出せないメイド。例え捕まっても我らが唆した情報は漏れませぬ」
「そ、そうか、アードルフ。では、ワシはこれからどうすればよい?」
「閣下。こうなれば帝国をまもるべく大公閣下が皇帝陛下となられるのです。そして、今までなし崩しになっていた諸侯共の権限を奪い、全ての権力を皇帝の座に集めるのです。これは地球でいうところの絶対王政にございます。諸侯共は文句こそ言いますが、何ひとつ帝国の為になっておりませんので」
気弱に尋ねる大公にイーチェンは、悪魔の囁きを告げる。
大公が皇帝となり、貴族からも権利を奪って絶対の王になれと。
「あ、相分かった。今回の事も諸侯共が何もせぬのが悪い。ワシが、義理の息子まで手に掛けたのも帝国の為を思えば。孫の犠牲は絶対に無駄にはせぬのじゃ!」
「我々も閣下の為に、帝国の為に粉骨砕身致します。そこでですが、メイドの家族はどうしましょうか? 家族の元へは帰ってこないとは思いますが?」
「そうだな。生かしておいて撒き餌としようぞ。念の為に監視はしておけ。もし、家族と接触するようなら一家皆殺しにして口封じをせよ」
「御意」
大公に向かって頭を深く下げる事務官と執事。
しかし、大公に見えない顔は二人とも嘲笑を浮かべていた。
<なんと、コレット様が陛下を本当に手に掛けてしまわれたのですか? しかし、ご遺体も存在しない殺人事件とは?>
では、明日の更新をお楽しみにね。




