第19話(累計 第64話) 僕、ティナと一緒に未来を夢見る。
「今回は遠方はるばるお越し頂き、ありがとう存じます」
「遠方なのは女男爵様も同じでは無いですか? あ、そちらには確か『自動車』とかいう早く走る馬の要らない馬車がありましたか」
大学内の奥深く、学長室に隣接した応接間。
そこに僕とティナは、とある人物と会談をする為に来ている。
もちろん仲間達も全員部屋に入ってる。
「そうですね。しかし、リヒャルト様。そちらはお付きの方が側仕えの方だけで宜しいのですか?」
「そこはお気になさらずに。大丈夫、貴方方くらいなら私の先祖伝来なスキルを使い、一人で殲滅できますから」
淡い茶色髪と灰色の瞳な優男、シェレンベルク伯爵リヒャルト様は自慢げに自らのスキルと武力を誇る。
自らは若い女性のメイドさんのみ連れてきているのは、情報漏洩を嫌ってだとは思うが、随分の自信家だ。
……僕達が襲うとは考えてはいないんだろうけどね。
「そのあたりの解釈については、今回は話し合わない事に致しましょう。今回お話しあうのは、今後の帝国の事についてですわ」
「そうですね。大公様の悪行、流石に私も見逃すことは出来ませんので……」
ティナは、さらっとリヒャルト様の舌戦を流す。
そして未来を見た提案をした。
……僕やレオン相手ならいざ知らず、リヒャルト様でもアデーレ姉さんに勝てるとは思えないものね。
「では、宜しくお願いしますね。リヒャルト様」
「それでは、まずは大公様の情報を流しましょうか。彼は最近陛下の動きに苛立っています。また、配下のイーチェン、そしてアードルフが何かと妙な助言をしてますね」
リヒャルト様、彼はティナに恨みがあると思われているので、大公様から情報を貰っているらしい。
そして僕達に積極的に接触し、情報を大公様に流している形になっている。
……リヒャルト様は、父親のテオバルトを失脚させたからティナを恨んでいても不思議じゃないんだけどね。まあ、それを言うなら大公様も恨みの対象だけれども。だから、今リヒャルト様はダブルスパイっぽい動きをしているらしいんだ。
僕は、大公派閥に魔神が存在している可能性が高い事をリヒャルト様には伝えている。
魔神こそ、リヒャルト様の怨敵。
だからこそ、今はティナの「味方」に回ってくれているんだろう。
……まあ、漁夫の利を狙って僕達と大公様の共倒れを狙っても居るのかもしれないけどね。計算ずくでも味方は味方さ。
「そうですか。なれば陛下の身の安全が不安ですね。暗殺が十分考えられますわ。それとも意識だけ奪って、完全に操り人形とするなども考えられますの」
「はい、私もそれを危惧しています、姫男爵様。なので先手を撃ち、このような作戦を考えていますが、ご協力願えますか。フローレンティナ様、それと婚約者殿?」
<ほう、これは面白い話になってきましたね>
リヒャルト様は、想像を絶する奇策を提案してきた。
◆ ◇ ◆ ◇
「陛下。また夕食会にご招待頂き、ありがとう存じます」
「いえいえ、ティナお姉さま。煩いお爺様はお気になさらずに。僕、皆様のお話が楽しくてたまりませんので」
リヒャルト様との面会からしばらくして後、僕らは皇帝陛下に再び呼ばれている。
……結局、大学に行ったけれども、ティナの呪詛を解呪するのには失敗したんだ。トラップ部分の大半は解呪できたけど、呪詛本来の機能部分は残っていたりするのは困った事だよ。まあ、ティナと僕が辛抱したら良いだけなんだけど。
「陛下。わたくしの耳にも陛下の御身の安全について、様々な話を聞いております。是非ともお気をつけてくださいませ」
「お姉さまの耳にも入ってますか。ええ、お爺様はまだ決断まではしていないでしょうが、僕の排除はお爺様の配下から提案されていますね。幼い頃は『軽い神輿』だったのに、最近は思い通りにならないからでしょうけれども……」
自虐気味に語る少年皇帝。
その身にかかる重圧と責務、そして周囲からの誹謗中傷に悪意。
幼い身と心をどれだけ蝕んでいるのか。
僕は、陛下の事が本当に可哀そうに思えてきた。
「陛下。わたくし達は陛下のお味方です。これまでも、そしてこれからも。今後、御身に『様々な事』が起きるかと思いますが、わたくしやカイト、そして仲間達が陛下をお守りします!」
「ありがとう、お姉さま、お兄さま方。僕も皇帝として頑張ります!」
ティナは慈母の表情で陛下を見る。
もしかすると、ティナは政変で亡くなった弟さんの姿を陛下に重ねているのでは。
僕はふと、そう思った。
「陛下、かわいぃぃ!」
そんなティナ、陛下のところまで駆け寄り、畏れ多くも陛下を抱っこする。
その突然の行動に僕はもちろん、側仕えメイドのコレットさんも対応が出来ない。
「お、お姉さま。お、お胸が顔に当たって……」
「ワザと当てているんです! あー、細マッチョのカイトとは違っているけど、これはこれで良いのぉ!」
「はぁ、ティナちゃんの悪い癖が出ちゃったか」
「アデーレお姉さま、これはどうにもなりませんですの。あたしも陛下がお可愛いのは同意ですけど」
「あ、あたし、『不幸』なのぉ。不敬罪で死刑はいやー!」
豊かな胸に陛下の顔を押し付けるティナ。
陛下は顔を真っ赤にして、しかし善意と愛情たっぷりの抱擁を無下に断れていない。
「陛下。ウチのバカ嫁が誠に申し訳ありません。ティナ、くれぐれも皇帝陛下相手なんだから、ほどほどにね」
<ええ、仮にも嫁入り前の貴婦人がなさる行為、それも畏れ多くも皇帝陛下を抱かれるのは、どうかとワタクシも思う次第です>
「はーい。ああ、若い子の肌触りはさいこーなのぉ!」
「お、お姉さまぁ。ご、ご勘弁をぉ」
仲間達は苦笑しながらも、ティナの優しい抱擁を優しい目で眺めていた。
◆ ◇ ◆ ◇
「ああ、恥ずかしかったですが、実に良い経験をしました。最近お会いしていませんが、母の匂いとはああいうものなのでしょうか? 柔らかくてとても暖かくて……」
ティナ達が帰宅した後、皇帝マルクス四世は自らの寝室でメイドなコレットを相手に話しかける。
しかし、過去の怪我により言葉が話せないコレットは、微笑みながら皇帝に背を向けてベットメイクをするのみ。
「機会があれば、再び母上にもお会いしたいものです。お爺様は母上を遠くに幽閉なさっていますし」
夜着に着替えたマルクス、先程までの笑顔から憂い顔になる。
「で、コレット。お爺様から僕の暗殺を頼まれているんだよね。ご両親の命を人質にされたのではしょうがない。さあ、殺すのなら痛くないように、ひと思いで頼むね」
少年皇帝の言葉に、コレットは悲し気な顔で振り返る。
そして隠し持った短剣を懐から出した。
<陛下、ピンチでは無いですか! 作者様、これは一体どうなるのですか!?>
緊張の展開、どうぞ明日以降のお話をお楽しみに!




