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私はメス豚に転生しました  作者: 元二
第十六章 亡国の姫編
527/531

その524 メス豚、怒られる

◇◇◇◇◇◇◇◇


「ウンタ。おい、ウンタ、起きろよ」


 亜人の青年、クロコパトラ歩兵中隊(カンパニー)の副官ウンタは肩を揺すられて目を覚ました。

 彼は一瞬、自分のおかれた状況が分からずに軽く混乱した。

 冷たく固い床。埃っぽく淀んだ空気。薄暗い室内と高い天井。


(――そうか。俺達はサステナの道場に来ていたんだったな)


 頭がまどろみから覚めると共に、記憶も一緒に戻って来た。

 ウンタ達クロカンの一行は、サッカーニ流槍術総本山案内された。しかし到着早々、施設の責任者と思われる老人達の指示で、この何も無い倉庫に閉じ込められたのだった。

 最初は隊員達も、この理不尽な扱いに憤っていたが、じきに睡魔に抗えなくなってしまった。


(無理もない。昨日は日中は防衛戦、夜は明け方近くまで脱出戦と、ほぼ一日中走り回っていたんだからな)


 いくら隊員達がまだ若いとはいえ、既に気力も体力も限界ギリギリだったのである。

 勿論、ウンタも例外ではなかった。

 彼らは思い思いの場所に腰を下ろすと、寝床代わりにマントに身を包んで眠りについたのだった。


「よう、ウンタ。目が覚めたか」


 ウンタを起こしたのは真面目そうな印象の亜人青年。胡蝶蘭館での戦いで戦死したトトノに代わり、第二分隊の分隊長を任されているモンザである。

 その周囲にはこちらを見ている隊員達の姿が見えた。

 どうやらすでに全員目を覚まし、彼が起きるのを待っていたらしい。

 ウンタはそのことに気まずい思いを抱きながら、慌てて体を起こした。


「何かあったのか?」

「ああ、サステナがお前を呼んでいるらしい。なんでもクロ子に説教をして欲しいからすぐに来てくれとさ」


 モンザが下がると、そこには道着を着た若い男の姿があった。サッカーニ流の門弟だ。

 青年は武装した亜人達の中にいるにもかかわらず、警戒心よりも好奇心の方が勝っているらしく、その視線はチラチラと彼らの顔や額の角に注がれていた。


「クロ子に説教? 分かった。すぐに行くから案内してくれ」


 ウンタは青年に声をかけたのだった。


◇◇◇◇◇◇◇◇


「ったくよぉ。姿が見えないと思ったら、食堂でつまみ食いとか、一体どんだけ意地汚いんだよお前は」


 サステナは繰り返し何度目かとなる愚痴を私にこぼした。

 私はイライラと言い返した。


『【だから、何度も言ってるでしょーが。つまみ食いをしたのは私じゃなくて、タロとジロの二匹なんだって】(CV:杉田〇和)』


 ちなみに今の言葉は、頼れる対人インターフェース、水母(すいぼ)によって人の言葉に変換されている。魔力を持たない人間相手には私の言葉は通じないからな。

 周囲のお爺ちゃん連中――サステナ以外のここの師範達から驚きの声が上がった。


「本当にこの子豚がしゃべっているのか。未だに信じられん・・・」


 彼らの長い人生でも、しゃべる豚という摩訶不思議な存在に出会ったのは初めてなのだろう。こうして私が話す度に、彼らは新鮮なリアクションを見せていた。

 私はチラリと彼ら見ると、小さく舌打ちをした。


『【・・・サステナ(あんた)が言ってた意味が分かったわ。最初から私がしゃべっていたらとんでもない騒ぎになってたかもね】』

「だから言ったじゃねえか。お前らは自分達の異常さがまるで分かっちゃいねえんだよ」


 異常とか、コイツはもっとソフトな言い方が出来ないんだか。例えば、少しだけ世間と常識がズレている、とか? ・・・あまり変わらんか。

 けどまあ、サステナの言いたい事は理解出来た。

 普通に考えれば、三十人からの亜人の集団というだけで十分なインパクトなのだろう。その上、それを率いているのがしゃべる子豚とくれば、お爺ちゃん達が一度に処理できるキャパを超えてしまってもおかしくはないのだろう。

 ここに来る前にサステナに指摘された時には、『そんなもんか』と軽く流してしまったが、あの時、素直に忠告に従っておいてマジで良かったと思うわ。

 褒めると調子に乗りそうだから黙っとくけど。

 今は言葉をしゃべっているけど、それはいいのかって?

 仕方がないだろ。あんな騒ぎを起こしてしまった後なんだからさ。


「あの犬達のリーダーはお前だろうが。お前にはヤツらを見張ってなきゃならねえ責任がある。好き勝手させといたのが悪いんだよ」 


 ぐぬぬ・・・。それは確かにそう。

 だがそれを素直に認めるのは負けた気がして何かイヤだ。

 ちなみに、今回の騒ぎを起こしたマサさん達黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊の野犬達は、全員、納屋の中に集められている。

 今頃は用意されたご飯を食べているはずである。てか、最初からこうしといて貰えば良かった。

 ギスギスとした空気の中、ドアの外から若い男の声がした。


「失礼します。亜人の代表者を連れて参りました」

「おっ。ようやく来やがったか。遅いぜ」

「入って貰え」


 お爺ちゃん師範が許可を出すと、傭兵姿の亜人の青年が部屋に入って来た。

 クロカンの副官、ウンタである。

 傭兵姿とは言ったものの、武器は取り上げられているようだ。まあ当然か。


『【倉庫から出して貰えたのね。他のみんなはどうしてる?】』

「クロ子。お前なあ・・・」


 どうやらここに来るまでに事情は聞かされていたらしい。ウンタは開口一番、呆れ顔で私を見つめた。


黒い猟犬(ブラック・ガンドッグ)隊はお前の部下だろうが。ちゃんと手綱を握っていないでどうする。ましてや率先して騒ぎを大きくするなんてお前らしくもない」

「そうとも、ウンタ、もっと言ってやってくれ。クロ子のやつ、言い訳ばかりで俺の説教なんててんで聞きやがらねえんだ」


 援軍の登場に、サステナは喜色満面。ここぞとばかりに身を乗り出した。


『【サステナ、うざ】』

「ああん? テメエ今、なんつった?」

「クロ子。サステナにじゃれ付くのは構わないが、時と場所を考えてくれ。今がどういう状況なのか、お前なら俺が言わなくても分かっているはずだろうに」


 くっ。返す言葉もないとはこの事か。

 サステナはこの場で唯一の我々の味方である。言い方が少々気に入らなかったからといって、むやみに噛みついていい相手じゃない。

 そのくらい頭では分かっているのだ。ただ、それを素直に認めるのも癪に障るというだけで。


『【・・・・・・】』

「気持ちは分かる。昨日は丸一日、生きるか死ぬかの激しい戦いをした後、一睡もせずにここにいる訳だからな。些細な事で気持ちが昂って感情的になってしまうのも仕方がないさ」


 ウンタの言葉に私はハッと胸を突かれた気がした。

 そうか、寝不足。

 言われてみれば心当たりがなくもない。

 さっきまでのバカ騒ぎだって、徹夜のハイテンションが原因と考えれば納得できる。

 それにサステナの説教がいつもよりクドクドとねちっこかったのも、そんなサステナの言葉がイライラと癇に障ったのも、互いに寝不足から来る集中力の欠如――感情に歯止めが利かず、ブレーキを踏めなくなっているのが原因だったのではないだろうか?

 サステナも私と同じことを思ったらしい。急に苦虫を嚙み潰したような表情になって押し黙った。


『【・・・それって当たってるかも】』

「そうか。ならば後の話は俺に任せて、お前達は少し休んでくれ。幸い、俺の方は軽くではあるが仮眠も取れたからな。少しは頭が働くようにはなった。サステナもそれで構わないな?」

「ちっ。一緒にクロ子に説教をかまして貰うために呼んだだけで、そんなつもりは微塵もなかったんだが・・・しゃーねえな。確かに俺も寝不足で頭が回ってねえみてえだ。おい、爺さん達。そういう訳だから後の話はウンタとしてくれ」


 サステナはバツが悪そうに頭をかくと勢い良く立ち上がった。

 そして振り返ると、同僚の大男、ガレットに念を押した。


「今のを見てたな? コイツはクロ子のお守り役で部隊のまとめ役だ。亜人ってだけで侮るとテメエの株を落としちまう事になるぜ。気をつけな」

『【誰が誰のお守りじゃい】』

「言われるまでもない」


 ガレットは微笑ましいものを見る目でサステナを見つめ返した。


「お前がここまで他人に入れ込むのを見たのは初めてだ。今日は珍しいものを見せてもらった。そんな相手を粗略に扱うはずなどないではないか」

『【ほほう。その辺をぜひ詳しく】』

「・・・テメエは俺と一緒に行くんだよ。ホラ、ぐずぐずすんな」


 ああん、勘弁してつかーさい。

 サステナは軽々と私を抱き上げると、大股で部屋を後にしたのだった。

次回「メス豚と師範代」

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