7 答え
「すべての答えを知るまでは、おれはこの街から出られない。
だからおれはまだ寄宿学校に帰るわけにはいかないんだ。」
おれはそう締め括った。
おれの長い話を聞き終えたカメリアは、「なるほど、そういうことでしたのね。」と頷いた。
「でしたら、私が謎を解いて差し上げましょう。」
カメリアは自身ありげに微笑んだ。
彼女は隣に控える従者ヒルダの名を呼ぶ。
それだけでヒルダは意図を汲み、メモを取った手帳をカメリアに見せた。
「お母様は誰に、何故殺されたのか。
お母様は何故アレクシス様を孤児院に預けたのか。
お母様はどんな人だったか。
アレクシス様が最初に知りたかったのはこの3つの問いの答えですわね。」
カメリアに問われ、おれは頷く。
「私は貴方のお母様にお会いしたことがありませんから、どんな方かをお教えすることは出来ませんわ。
でも、その他の2つの問いにはお答えできましてよ。」
おれが言うより先にメイティンが「なんでそんなことが出来るんだい。」と声をあげた。
「あんた、この街に来たのも初めてだろう。
なんでそんなこと知ってるんだい。」
カメリアは「アレクシス様から聞いた情報をもとに推理できますわ。」と言う。
彼女は「まず、お母様のエバーグリーンがアレクシス様を孤児院に預けた理由からお話しましょうか。」と語り始める。
「17年前、エバーグリーンは仲間を裏切りフィッシャーが探していた宝を持って逃げました。
そしてカーマインとフィッシャーの2人から命を狙われることになりました。
エバーグリーンは恋人だったランゲ男爵を巻き込まないために彼の前から姿を消したのです。」
カメリアはおれの方を見て、「貴方を孤児院に預けたのは、貴方を守るためですわ。」と語りかけた。
「エバーグリーンは離れていてもアレクシス様のことを想っていたはずですわ。」
「そんなのあんたの想像だろ。」
飲み込もうとした言葉がおれの口から出ていた。
「そんな都合のいい言葉なんかいらない。
おれは本当のことが知りたいんだよ。」
あんたなんかに何がわかる。
つい、差し出された手に噛み付くような態度をとった。
カメリアは表情を変えず、「想像ではなく推理ですわ。」と言う。
「エバーグリーンの遺体が見つかったのは寄宿学校にほど近い場所でした。
命を狙われているのにわざわざそんな所にいったのは、貴方を一目見たかったからではありませんか。」
母はおれに会いに来たのだろうか。
おれを忘れていなかったのだろうか。
「なら母はどうして死んだんだ。」
カメリアは静かな、けれど確信を持った声で答える。
「お母様を襲ったのは、フィッシャーですわ。」
メイティンが「カーマインたちじゃないのかい。」と聞く。
カメリアは首を降る。
彼女は「確かにカーマインは裏切り者であるエバーグリーンを狙っていましたが、彼はエバーグリーンが既に殺されたことを知りませんでしたわ。」と言う。
「一方でフィッシャーは知っていたのですわ。」
「そうでしょう、ヒルダ?」とカメリアはヒルダに確認する。
ヒルダは手帳の記録を読み上げる。
「フィッシャー氏がアレクシス様に宝の隠し場所を聞いたとき、『エバーグリーンはお前に言い残しただろ。』とフィッシャー氏は言っています。」
さらにヒルダは、「新聞は1ヶ月前の事件を、身元不明の女性が銃殺され、遺体で見つかったと報じています。」と言う。
「つまり警察も殺された女性がエバーグリーンと呼ばれていたことはわかっていません。
犯人でない限り、エバーグリーンが亡くなったことを知り得ないはずです。」
カメリアは「現場が寄宿学校の近くであることからも、犯人はフィッシャーだと考えられます。」と付け加えた。
「寄宿学校があるのは富裕層が暮らす地区ですわ。
カーマインとてこの街と同じように勝手をすることはできません。
逆にフィッシャーはあの地区で歩いていても目立ちませんし、怪しまれないでしょう。」
おれは「フィッシャーは宝の場所を知りたかったはずなのに、なんで殺したんだよ。」と聞く。
「遺体の殴られた痕から、フィッシャーはエバーグリーンに宝の場所を聞き出そうと彼女に暴行を加えたと考えられます。
けれどエバーグリーンは屈しなかった。
彼女は命をかけて秘密を守ったのです。」
「まさか、母は自害…?」
カメリアはこくりと頷いた。
「使われた銃はフィッシャーのものでしょう。
エバーグリーンは一瞬の隙をついて突きつけられた銃の引き金を引いた。
フィッシャーは自分がその場にいたという証拠を隠すために銃を持ち去ったのです。
銃の紋章や製造番号から持ち主が自分だと特定されるのを避けたのですわ。」
手帳を開いたままのヒルダが「現場に銃が残されていなかった上に遺体に暴行の痕があるため、警察は他殺と断定したようです。」と言った。
秘密を守るため、母は自ら引き金を引いた。
なにも残さないで、いなくなった。
「なんでだよ…。」
おれは唇を強く噛み締めていた。
「なんでそんなことしたんだ。
命に変えてでも守りたい宝って何だよ。」
深く息を吐く。
なんとか自分を落ち着けたおれは、「ごめん、あんたもわからないよね。」とカメリアに言った。
けれどもカメリアは、「いいえ、わかりますわ。」と応える。
「貴方のお母様が裏切った理由も、翡翠の簪を持っていた理由も、命をかけて守った宝の正体も。
貴方が望むのなら、お教えいたしますわ。」
微笑む探偵に、おれは「教えてほしい。」と頼むのだった。




