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6 手がかり

挿絵(By みてみん)


夜になると、メイティンはおれを阿片窟の店主、ハオランに紹介した。


この街の東洋人たちを纏めるハオランは、西洋人を匿ったことに渋い態度をしたようだった。

彼は「厄介ごとを持ち込んだなら己で始末をつけな。」とメイティンに命じた。


しかしおれと対面すると、まじまじとおれの顔を見つめ、ニィっと笑った。

後ろで尾のように揺れる髪もあいまって、猫に似た笑顔だ。


「阿片窟へようこそ、エバーグリーンの息子よ。」


「おれの母を知ってるんですか。」


ハオランは「我はエバーグリーンに借りがあるのさ。」と言った。


母が姿を消したのは17年前だ。

東洋人は若く見えるためわかりにくいが、母と関わりがあるから、ハオランは30歳前後なのだろう。


メイティンが「兄者、アレクシスをしばらくここにおいてやってもいいだろう?」とハオランに頼む。


「アレクシスはカーマインに目をつけられたみたいなんだよ。」


そう聞くとハオランはすうっと目を細めた。


「なるほどねぇ。」


明らかに何か知っている反応だ。


「母は17年前におれを孤児院に預けて失踪したそうです。

母がいなくなった理由を知っていますか。」


「あぁ、知っているさ。

我はこの街に知らぬことはないからね。」


しかし問いただしてもハオランはその理由を話してはくれなかった。


「聞かぬ方が身のためよ。

我が貴君に教えられることはない。」


肩を落とすおれをメイティンが「気にしないで、兄者はいつもそうなんだ。」と慰める。


「あたしの母親のこともまともに教えてくれないんだよ。」


ハオランは「我から聞いても、貴君らは納得し得ぬだろう。」と言う。


「己で答えを探すといい。

我はそのときに話すとしよう。」


母が消えた理由をこれ以上ハオランに問いても無駄だと分かったおれは、べつの質問をした。


「貴方の知る母は、どんな人でしたか。」


ハオランは「その問いには答えてやろう。」と笑った。


「肝がすわった、鉄火肌の女だったよ。

貴君と同じ緑の瞳をらんらんと燃やしていたさ。」


そう話すハオランの顔には、懐かしむような、痛むような表情が浮かんでいた。


ハオランは詳しいことは教えてくれなかったが、母と深い関わりがあったのは確実だ。

母は阿片窟にも来たのだろうか。

メイティンの母親ハンメイとも関わりがあったのかもしれない。



ハオランの言う通り、おれは自分で母のことを調べようとした。

しかし何も情報をつかめなかった。

転機は2週間が経ったある日のことだ。


路地を歩いていると、身なりのいい男に「君、少し道を聞きたいんだが。」と声をかけられた。


「赤毛の男を見なかったか。」


男の横暴な態度と服装からすると、貴族か資本家なんだろう。

この街で赤毛の男といえばカーマインだろう。

おれはカーマインの居場所は知らないし、彼から隠れている身だから適当に誤魔化した。


男は帰ろうとしたが、おれと目が合うと態度を変えた。


「その眼の色、あの女と同じだな。」


母の知り合いか、と聞く間もなく、胸ぐらを掴まれた。


「隠し場所を吐け。

エバーグリーンはお前に言い残しただろ。」


「なんのことですか。」


男は「しらばっくれるな。」と胸ぐらを掴む手に力を込める。


「フィッシャーという名に覚えがあるだろう。

私は貧民たちにある宝を探させたが、金に目の眩んだあの女がそれを持ち逃げしたのだ。」


フィッシャーと名乗った男は、「17年も探させおってなんと腹立たしい!」と忌々しげに吐き捨てる。


「あの宝は貧民が持っても役に立たないというのに。

私のような者でなければ、あれを金に変えることは出来ん。

宝を必要としてるのは、貧民には会うことも叶わぬお方なのだから。」


フィッシャーは「さぁ早く教えろ。」とおれを壁に押し付けた。

その拍子に、おれのスラックスのポケットから中身がするりと落ちた。 


ポケットに入れっぱなしになっていたシワクチャのハンカチだ。

しかし窮地を救ったのはそのシワクチャのハンカチだった。

    

「これはランゲ男爵家の紋章じゃないか。」


フィッシャーは急に笑顔を顔に貼り付け、「すまない、私の勘違いだった。」とおれの身体についた汚れを払った。


「ランゲ男爵家の跡取りが、あの女の子どものはずがない。」


ハンカチに刻まれた家紋が貴族身分を証明したお陰で、おれは命拾いしたらしかった。

フィッシャーは「どうか忘れてくれ。」とそそくさ去っていった。


フィッシャーが宝を探させた貧民たちとはカーマイン率いるならず者のことだろう。

母はその宝を見つけ、持ち逃げした。

母はいったい何を盗んだんだろう。


謎は深まるばかりだ。

すべての答えを知るまでは、おれはこの街から出られない。


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