2 正体
「ランゲ男爵のご子息、アレクシス・フォン・ランゲ様は貴方ですわね。」
カメリアはおれをまっすぐに見てそう言った。
「アレクシスが男爵の息子だって?」
メイティンは切長の目を見開いた。
「アレクシスは、ごろつきに追い回されて行き倒れ出たのをあたしが拾ったんだよ。
それがどうして寄宿学校のお坊ちゃんなのさ。」
カメリアは「根拠は2つございましてよ。」と笑う。
「ひとつは貴方のその短く整えられた髪ですわ。
散髪にさくお金があることと、清潔に保つことができる生活をしていることがわかりますわ。」
カメリアは「もう一つの根拠はその靴です。」とおれの靴を指差す。
「労働者の方々は、炭鉱の仕事や農業作業の際の汚れや怪我から足を保護する丈夫なブーツを好みます。
もしくは、安価で頑丈な木靴を履かれますわ。
貴方が履いているのはそのどちらでもなく、丈の短い紐付きの革靴ですわ。」
おれは思わず靴を脚に隠そうとしたが、もう遅かった。
「サイズもぴったりですし、誰かから譲られたものでもないでしょう。
そのくるぶし丈の革靴は、寄宿学校の学生たちの間で生まれたものですわ。」
カメリアが一眼見るなりおれの正体を見破ったのは、そういう理由だった。
窮屈な制服を脱いで紛れ込んだつもりでも、この街の労働者たちの格好とおれの格好は違っていたということか。
カメリアはすぐそばに控えていた女に「ヒルダ、手紙をお見せして。」と命じた。
ヒルダと呼ばれた従者の女は「はい、カメリア様。」と恭しく応え、寄宿学校の紋章の入った封筒を差し出した。
「寄宿学校の理事長に、3週間前から行方がわからなくなった生徒を見つけてほしいとのご依頼を受けましたの。」
封筒の中の便箋には、確かに理事長の署名があった。
カメリアは「貴方のお父様であるランゲ男爵にもお話を伺いましたわ。」と言う。
「ランゲ男爵は、貴方が行方を眩ましたきっかけはおそらく1ヶ月前の事件だろうとおっしゃいました。
私はランゲ男爵の助言をもとに、この街に貴方を探しに来ましたのよ。」
メイティンが「信じられない、すっかり騙されちまったよ。」とため息をついた。
「アレクシス、行く当てがないなんて嘘じゃないか。
生き別れた母親を探す可哀想な子だと思ったからここに置いたのに、家出してきたお坊ちゃんだったなんて。」
「違うんだ、メイティン。
騙してたわけじゃない。」
おれは弁明するが、メイティンは「何が違うのさ。」と聞き入れない。
「あんた、カーマインのやつに目をつけられてごろつきに追われてたのも嘘なのかい。」
「嘘じゃない、本当だよ。
母親を探してるのだって本当だ。」
「何言ってんのさ。
貴族のご子息のお母様が、穴倉で阿片吸ってるわけないだろ。」
阿片窟は、労働者のための極めて依存性の高い娯楽だ。
日々の辛さを一瞬でも忘れるため、煙を吸うのだ。
貴族のご婦人が通うような場所ではない。
しかし、おれの母はおそらく確実にこの阿片窟と関わりがあったのだ。
「話せば長くなるけど、君を騙そうとしてたわけじゃないんだよ、メイティン。」
メイティンは「全部聞くから話しなよ。」と促した。
おれは観念して全て話すことにした。




