悲しい
進退について
「松阪舞莉子はもう潮時だよ。ここらで引退したら?」
「これでシーズン終わったから幕引きにはちょうどいいと思うよ。オリンピックに出たからって自惚れない方がいいよ」
この言葉を浴びせられて、舞莉子にとってブーイングや文句はあくまでも言葉の刃、言葉のサンドバッグだと思っている。過去にも同様にブーイングや文句を言われる事があったから気にはしていなかったが、今回はどうしてそこまで言われなきゃいけないのかという気持ちになった。
常に試合に出続けて1試合結果が残せなかっただけで潮時と言われなきゃいけないのか?シーズンの最終戦で結果を残せなきゃ幕引きしなきゃいけないのか?自惚の気持ちは全くないし、出る試合は全て勝つつもりでいた。それなのに……。
誰かにこの姿を見られる前に着替えてリンクを後にしようかな。そう考えていた舞莉子。再び涙が出てきた。しばらく椅子に座って動けない。
その時だった。顔を上げるとペットボトルの水が差し出されていた。誰かと思ったら優愛さんとコトリンがいた。
コトリンが自分のハンカチを差し出して涙を拭きなと言って涙を拭いて水を口を1口飲む舞莉子。深呼吸をして落ち着いたから大丈夫だよと答えた。自分の弱い姿を見せたくないとそう言う。
優愛さんが舞莉子の顔を掴んでこう話した。
「もし、私やコトリンに気を遣っているならそんな気を遣わなくていい。ライバル以前に友達でしょ?何でも受け止めるからどうして泣いていたのか教えて。話をするだけでも楽になると思うよ」
すぐに分かりました。じゃあ話します。とはすぐにならなかった。コトリンの方を見る。
「優愛さんと同じ気持ちだよ。コトリンにも話を聞かせて。もし、コトリンがいない方がいいなら優愛さんに話をして。落ち着いてからまた教えてね」
優愛さんとコトリンの言葉を聞いて、ここだと他の方にも迷惑をかけると思うから着替え終わって別の場所で話すと答えた。
着替え終わって外に出ようとした舞莉子と優愛さん、コトリンの3人。出入口には結華ちゃんと伊吹君がいた。
舞莉子を囲む形で会場を後にして、近くにあるカフェに向かった。優愛さんとコトリンに話すつもりが結華ちゃんと伊吹君にも話す形になる。人が増えて言うのを躊躇いがあるが、ずっと心配させたままもよくないと決める。
ひとまずコーヒーとサンドウィッチを注文する。
先に皆さんにご迷惑をおかけしてすみませんと頭を下げる。そして重い腰を上げて話し出す。
「唐突に申し訳ないけど、舞莉子ってフィギュアスケートを引退すべきなのかな?自分ではそんなつもりはないけど自惚れているかな?会場を出る時にそんな言葉を言われてどうしてそこまで言われなきゃいけないのかなって思ったら思わず涙が出てきたの……」
そういうと優愛さんが舞莉子の手を握ってくれた。
「舞莉子ちゃん、話してくれてありがとう。ツラかったね。自惚れを感じた事もないし、引退しろと言われたから引退しなくていい。自分がやり切ったと思えた時にフィギュアスケートを引退すればいいよ」
優愛さんの言葉を聞いて、そうだなと思って次にコトリンが話そうとしたタイミングでコーヒーとサンドウィッチが席に運ばれてきた。




