慣れたから
それから、三週間が過ぎた。
彗の提案で、登校時間を少しずらしたことで、学校で顔を合わせることも減った。
その間に、凪は母親の見舞いへ行き、波は家で彗と過ごす時間が増えていた。
「ただいま。」
玄関を開けると、リビングから小さな足音が聞こえる。
「お兄さん、おかえり!」
波が満面の笑みで駆け寄ってきた。
三週間ですっかり打ち解けたのか、今では「お兄さん」と呼ぶようになっている。
彗も自然と頭を撫でた。
「ただいま。」
「お姉さんは?」
靴を脱ぎながら尋ねる。
「今日はお友達とお出かけ!」
「そう。」
凪にも少しずつ笑顔が戻り、休日に友人と出掛けられる余裕ができていた。
それを知って、彗は小さく安堵する。
波はソファに座る彗の隣へちょこんと腰掛けた。
そして、何気ない調子で尋ねる。
「ねぇ、お兄さん。」
「友達いないの?」
あまりにも真っ直ぐな質問だった。
彗は少しだけ考え込む。
「……いないかな。」
その答えに波は首を傾げる。
「じゃあ、お兄さんは寂しくないの?」
彗は窓の外へ視線を向ける。
夕焼けが街を赤く染めていた。
「慣れたから。」
短い返事。
波はその意味がよく分からない。
「じゃあ。」
波はにこっと笑う。
「私はお兄さんのお友達になる!」
その無邪気な一言に、彗は一瞬だけ目を丸くした。
そして、ほんの少しだけ口元を緩める。
「……ありがとう。」
その笑顔は、とても小さかった。
けれど波は、その笑顔を初めて見た気がした。




