昼放課のお弁当
その日、二人は途中まで帰り道が同じだと知り、並んで歩くことになった。
雨は上がっていたが、空はまだ鉛色の雲に覆われている。
互いに何を話せばいいのか分からず、しばらく靴音だけが静かな住宅街に響いていた。
沈黙に耐えきれなくなったのは凪の方だった。
「……水平くんのお父さんとお母さんは、何も言わないの?」
恐る恐る尋ねる。
彗は少しだけ考える素振りを見せ、それから当たり前のことを話すように答えた。
「うちの親は放任主義だから。」
「学校のことには干渉してこないよ。」
その言い方は淡々としていて、そこに寂しさも怒りも感じられない。
凪は胸が締め付けられるような気持ちになった。
すると今度は、彗が口を開く。
「そんなことより。」
「北宮さんの方が、家のことは大変そうだけど。」
凪の思考が止まる。
心臓が大きく脈打つ。
「……え?」
「……なんで、分かるの?」
ようやく絞り出した声は震えていた。
彗は首を傾げる。
「見てたら分かるよ。」
あまりにも自然な返事だった。
「北宮さん、昼休みはほとんどお弁当を食べてない。」
「毎日『食欲がない』って言ってるけど、本当は違う。」
「お腹が鳴ってる日もある。」
「それに、制服も去年のままだよね。」
「袖も少し短くなってる。」
「靴も何度も補修してある。」
凪の足が止まる。
誰にも気付かれないように隠してきたことばかりだった。
「家で……何かあったのかなって。」
彗はそう言って歩き続ける。
まるで特別なことを言ったつもりはないように。
凪は動けなかった。
この少年は、自分が傷つくことには無関心なのに。
どうして、他人の痛みだけはこんなにも見えてしまうのだろう。
その背中を見つめながら、凪は初めて思った。
──この人を、一人にしてはいけない。




