花火
矢作橋の上は、すでに多くの人で埋まっていた。
肩が触れそうなほどの距離。
それでも誰も気にせず、同じ方向を見上げている。
川面には街の灯りが揺れ、夜風が少しだけ熱を冷ましていた。
波は飴りんごを両手で大事そうに持ちながら、きょろきょろと周囲を見回している。
「すごい人……!」
「はぐれるなよ。」
彗は自然に凪と波の少し後ろに立つ。
守る位置。
それがいつの間にか癖になっていた。
凪はそんな彗を見て、小さく笑う。
「なんか、慣れてきたね。」
「何が。」
「こういうの。」
言われて、彗は少しだけ視線を逸らす。
否定はできなかった。
その時だった。
――ドン。
空気が震えた。
一瞬遅れて、夜空に大輪の光が広がる。
花火。
赤、青、金。
次々と夜空を塗り替えていく。
「わぁ……!」
波が思わず声を上げる。
飴りんごを持ったまま、完全に花火に見入っていた。
凪も息を呑む。
「きれい……。」
彗は何も言わず、ただ空を見上げていた。
光が次々と消えては生まれる。
その繰り返し。
一瞬のために燃え上がって、すぐに消えていく世界。
どこかそれが、あの日見た緑の夕日と重なる気がした。
理由は分からない。
ただ、胸の奥が少しだけざわつく。
波が小さく笑う。
「お兄さん、すごいねこれ!」
「うん。」
短い返事。
それでも、今はそれで十分だった。
凪はそっと彗の横顔を見る。
何かを思い出しているような顔。
それでも、その視線の先には確かに今があった。
花火は次々と打ち上がり、夜空を埋め尽くしていく。
そしてその光の下で、三人はただ同じ空を見上げていた。




