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水平線の向こうの彗星  作者: はまちゃん


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2/23

"平気"とは

翌日。


「あ、今日も懲りずに来たんだ。水平くん」


教室に入るなり、誰かが笑った。


その一言をきっかけに、教室中に嘲笑が広がる。


彗は何も言わず、自分の席へ向かった。


その様子を、教室の隅から北宮凪が見つめていた。


唇を噛み締め、拳をぎゅっと握る。


昼休み。


彗が席を立った、その瞬間だった。


「あ、ごめんねー」


わざとらしい声と同時に、肩を強く突き飛ばされる。


体勢を崩し、机にぶつかる。


教室には笑い声が響いた。


押したのは野原司。


彗をいじめるグループの中心人物だった。


それでも彗は何事もなかったように制服の埃を払い、静かに教室を出ていく。


屋上。


ここだけは好きだった。


誰も来ない。


空が近く、閉じ込められている感覚もない。


雨雲に覆われた灰色の空でさえ、教室よりずっと広く感じる。


「ねえ……なんで」


後ろから声がした。


「どうして平気なの?」


振り返ると、息を切らした凪が立っていた。


その瞳には戸惑いだけではない。


怒りと悲しみが入り混じっている。


「野原君も、茅野君も……」


彗は空を見上げたまま呟く。


「みんな辛いからかな」


凪は言葉を失う。


予想もしない答えだった。


「彼らも苦しいんだよ。」


「ただ、ストレスの発散の仕方が下手なだけ。」


雨粒がフェンスを叩く。


「だからって!」


凪は思わず声を荒げた。


「だからって、水平君が苦しむ理由にはならない!」


彗はゆっくりと凪を見る。


その表情には怒りも悲しみもなかった。


「俺は大丈夫。」


静かな声だった。


「俺は発散の仕方が上手いから。」


「……どういうこと?」


凪が問い返す。


彗は少しだけ空を見上げ、微かに笑った。


「空を見ること。」


「風に当たること。」


「雨の音を聞くこと。」


「それだけで十分だから。」


「だから、俺は平気。」


その笑顔は穏やかだった。


けれど凪には、その笑顔が何よりも痛々しく見えた。


「……そんなの」


凪の瞳に涙が滲む。


「平気なんかじゃないよ……」


その声は、雨音に溶けるように消えていった。

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