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体調不良

夕方。


玄関の鍵がゆっくりと回る音がした。


「……ただいま。」


凪の声は、いつもよりずっと小さかった。


リビングにいた波が駆け寄る。


「お姉ちゃん!」


その顔を見た瞬間、波の表情が曇る。


「……お姉ちゃん、大丈夫?」


凪は答えようと口を開く。


しかし声にならない。


数歩歩いたところで力が抜け、そのまま彗の胸にしがみついた。


「……水平君。」


肩が震えている。


彗は何も言わず、ただ倒れないようにそっと支えた。


「お母さんが……。」


声が詰まる。


「お母さんが、どうしたの……?」


波も不安そうに姉を見上げる。


凪は涙をこらえながら、ゆっくりと言葉を紡いだ。


「今日……先生に呼ばれて、病院へ行ってきたの。」


「それで……。」


唇を強く噛む。


「お母さん、急に容体が悪くなったみたいで……。」


一度言葉が途切れる。


それでも、震える声で続けた。


「もう……。」


「もう、あまり長くないって……。」


その一言が部屋の空気を凍らせた。


「……え。」


波の顔から血の気が引く。


「うそ……。」


「うそだよね、お姉ちゃん。」


何度も首を横に振る。


「そんなの……。」


「そんなの嫌だよ……。」


涙があふれ、波はその場にしゃがみ込んだ。


「お母さん……。」


「お母さん……!」


幼い叫びが部屋に響く。


凪も涙を堪えきれず、その場に崩れ落ちる。


「私……。」


「どうしたらいいか分からない……。」


彗は二人を見つめた。


言葉は見つからない。


励ましの言葉も。


慰めの言葉も。


こんな時に何を言えばいいのか、分からなかった。


だから彼は、何も言わずに二人のそばへしゃがみ込む。


そして、泣き崩れる姉妹の背中に、そっと手を添えた。


それが今の自分にできる、精一杯のことだった。

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