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憎悪の顔
「……ごめん。」
彗が、小さく口を開いた。
「その顔……やめてくれないか。」
その声は低く、押し殺したようだった。
波は顔を上げる。
その瞬間。
彗の瞳に浮かんでいたのは、これまで見たことのない感情だった。
静かな怒り。
悲しみ。
そして、自分自身へ向けられたような憎しみ。
あまりにも鋭いその視線に、波の体が無意識に震える。
「……ご、ごめんなさい。」
反射的に謝ってしまう。
彗はその一言で我に返った。
「……っ。」
目を見開き、自分がどんな表情をしていたのか理解する。
「違う。」
「波ちゃんに言ったんじゃない。」
震える声でそう呟く。
「その顔を見ると……。」
「昔のことを思い出すんだ。」
それ以上は続かなかった。
波は何も言えない。
ただ、この人が今まで見せてきた笑顔も優しさも、その奥に深い傷を隠していたのだと初めて知った。
彗はゆっくりと目を閉じる。
「……ごめん。」
今度の謝罪は、波に向けたものだった。
「怖がらせるつもりじゃ、なかった。」
波は恐る恐る一歩近づく。
そして、小さな手で彗の服の裾をそっと握った。
「……うん。」
「でも、お兄さん。」
「一人で泣かないで。」
その言葉に、彗はゆっくりと顔を上げた。
自分では気付かなかった。
頬を、一筋の涙が伝っていた。




