隠しきれない
放課後。
二日前の出来事がきっかけだったのか。
いじめは、いつも以上に激しかった。
制服は泥だらけになり、口の中には鉄の味が広がる。
「調子乗るからだよ。」
「次はもっと痛い目見せてやる。」
笑い声だけを残して、彼らは去っていった。
彗はゆっくりと立ち上がる。
制服についた砂を払い、何事もなかったように歩き出した。
いつもなら。
帰り際に凪が駆け寄ってきて、
「大丈夫?」
そう心配そうに声を掛けてくれる。
けれど、今日は来なかった。
――きっと、気まずいんだろう。
そう結論づけると、それ以上考えることはしなかった。
家へ帰る。
玄関の扉を開けると、小さな足音が近付いてきた。
「お兄さん!」
波だった。
いつものように笑顔で迎えようとして――。
その笑顔が止まる。
「……お兄さん。」
制服の袖は裂け、頬には新しい痣。
口元には乾ききっていない血が残っていた。
「それ……。」
波の声が震える。
もう、隠すことはできなかった。
彗は少しだけ困ったように笑う。
「転んだだけ。」
「うそ。」
波は即座に首を横へ振る。
「そんな傷、転んでできない。」
目には涙が浮かんでいる。
「学校で……。」
「誰かにやられたの?」
彗は答えない。
その沈黙が、何よりの答えだった。
波は唇を強く噛む。
「……なんで。」
「なんで、お兄さんばっかり。」
涙がぽろりとこぼれ落ちる。
彗は静かにしゃがみ込み、波と目線を合わせた。
「泣かなくていい。」
「でも……。」
「波ちゃんが泣くと。」
「俺まで悲しくなる。」
その言葉に、波は堪えきれず彗へ抱きついた。
「嫌だよ……。」
「お兄さんが傷つくの……もう嫌だよ……。」
小さな体が震えている。
彗は少し戸惑いながらも、そっと波の頭を撫でた。
その手は傷だらけだった。




