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水平線の向こうの彗星  作者: はまちゃん


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12/22

沈黙

ショッピングモールを歩きながら、三人は他愛もない話をしていた。


そんな穏やかな時間は、不意に終わる。


「……あれ?」


聞き覚えのある声。


振り向くと、野原司を中心とした数人の男子が立っていた。


「へぇ。」


野原は口元を歪める。


「水平じゃん。」


「珍しいな。休日に出歩いてるなんて。」


その視線が凪へ移る。


「しかも北宮と一緒?」


「おいおい。」


「誰に許可取って、人の女に手ぇ出してんだよ。」


周囲の男子たちが下品な笑い声を上げる。


その瞬間。


彗の頭の中が急に冷えた。


――そうだ。


薄々気付いていた。


学校の外にいても、自分たちの日常は続かない。


平穏な時間なんて、長くは続かないのだと。


野原は今度は波へ目を向ける。


「へぇ、この子。」


「北宮の妹ちゃん?」


波は凪の後ろへ隠れる。


「そんなやつといるよりさ。」


野原は笑顔を作る。


「俺たちと遊ぼうぜ。」


「今日は休日なんだし。」


「……結構です。」


凪は波をかばうように前へ出る。


しかし野原たちは構わず距離を詰めてくる。


「いいじゃん。」


「少しくらい。」


周囲の視線も集まり始める。


騒ぎを大きくしたくない。


そう考えた凪は、一瞬だけ彗を見る。


彗は静かに頷いた。


「行ってきな。」


その声は落ち着いていた。


凪は不安そうな表情を浮かべながらも、波の手を握り、野原たちに連れられてその場を離れていく。


二人の姿が見えなくなったあと。


彗はスマートフォンを取り出した。


少し前に交換した、凪の連絡先を開く。


『先に帰ってる。気を付けて。』


短い一文だけ送信する。


送信完了の表示を確認すると、彗はスマートフォンをポケットへしまった。


何事もなかったように、一人、帰路についた。


夕暮れを過ぎた頃。


ガチャリ、と玄関の扉が開く音がした。


「……ただいま。」


凪の小さな声。


その後ろから、波も控えめに続く。


「ただいま……。」


キッチンでは、彗が黙々と夕食の支度をしていた。


フライパンの上で食材が焼ける音だけが、静かな家に響く。


二人が帰ってきても、彗は何も聞かなかった。


「何があった?」


「大丈夫だった?」


そんな言葉は、一つも口にしない。


ただ、いつも通り三人分の皿を並べる。


「もうすぐできる。」


それだけだった。


やがて夕食が食卓に並ぶ。


「いただきます。」


三人の声は揃わなかった。


波は俯いたまま黙々と箸を動かし、凪も何かを考え込むように食事を口へ運ぶ。


彗もまた、静かに食べ続けていた。


食卓にあるのは、箸の触れ合う音と食器の小さな音だけ。


会話らしい会話は、一つもない。


それでも彗は、その沈黙を無理に埋めようとはしなかった。


話したくない時は、話さなくていい。


そういう時間も必要だと知っていたからだ。


凪はそんな彗を横目で見つめる。


何も聞かない。


何も責めない。


ただ、いつも通りの時間を用意してくれる。


その優しさが、かえって胸に染みた。

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