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第3話 女の子に転生した俺、メイド確定で絶望



そうして意識を失った俺は、まるで夢の中を漂うような不思議な感覚に包まれていた。


 だが、矛盾しているようだが、夢でよくあるような映像や記憶の断片が浮かぶわけではなかった。


 ただ、無。


 無、無、無――。


 時間という概念すら曖昧な暗闇の中で、どれほどの間漂っていたのかはわからない。

 ただ、ふと何かが変わる気配を感じ、俺はゆっくりと目を覚ました。


 最初に視界に入ったのは、見慣れない木目の天井だった。


 日本の住宅とは明らかに違う。少なくとも、病院の白い天井ではない。木の温もりを感じさせる、素朴だが丁寧に作られた天井だ。


 ――ということは。


(……成功、したのか?)


 鼻をくすぐるのは、ほのかに甘い石鹸の香り。

 嫌な臭いなど一切なく、むしろ心を落ち着かせるような柔らかい匂いだった。


 改めて周囲を観察する。

 部屋は質素だが、決して貧相ではない。雨漏りの跡もなく、壁のひび割れも見当たらない。清潔で、どこか温かみのある空間だった。


(貴族転生ではなさそうだな……まあ、異世界主人公の定番は平民スタートだ。ここから才能と努力で成り上がるのが王道ってやつだろ)


 そんなことを考えていると、視界の端に一人の女性が映った。


 二十代半ばくらいだろうか。

 艶やかな金髪が柔らかく肩に流れ、宝石のように輝く桃色の瞳が印象的だった。

 前世の日本なら、漫画やアニメの中でしか見られないような美しさ。現実で見れば違和感を覚えるはずの組み合わせなのに、彼女には一切の不自然さがなかった。


 むしろ、息を飲むほどに美しかった。


(ああ……やっぱり、ここは異世界なんだな)


 そう実感した瞬間、女性——この世界での母親だろう——が、腕の中にいる俺を見つめて顔をぱっと輝かせた。


「あなた! 女の子ですよ!」


 …………は?


 女の子?


 待て。今、何と言った?


 耳を疑っていると、今度は低く落ち着いた男性の声が聞こえた。


 金髪の男性。おそらく、この世界での父親だ。


 彼は安堵したように小さく息を吐き、呟いた。


「……よかった」


 よかったって、何がだよ。


 いや、それよりも。


(ちょっと待て。今、確かに「娘」って言ったよな?)


 嫌な予感が背筋を駆け上がった。


 確認しようと口を開く。


「……あぅ……あぶ……あー」


 出てきたのは、赤ん坊特有の意味不明な鳴き声だけだった。


「まあ、この子ったら。もうおしゃべりしてるみたいね」


「賢い子なのかもしれないな」


 新しい両親は優しく微笑み合いながら、そんな会話を交わす。


 父親は少し寂しげな表情を浮かべて続けた。


「賢くても、そうでなくても……この子はいずれ、俺たちの跡を継いでヴァレンシュタイン家に仕えるメイドになるんだろう。元気に育ってくれれば、それでいい」


 メイド。


 ヴァレンシュタイン家。


 そして——娘。


 俺は全力で叫びたかった。


(ふざけるなぁぁぁぁぁぁぁっ!!)


 しかし現実は非情だった。


「おぎゃあああああっ!」


 俺の心からの抗議は、ただの赤ん坊の泣き声として部屋に響き渡るだけだった。


(何でだよ!? 何で女なんだ!?)


(せっかく異世界に転生したのに、これじゃ俺のハーレム計画が開始早々台無しじゃねぇか!)


(いや、百合が悪いとは言わないぞ! でも俺の趣味じゃねえんだよ!)


(それに何だよ、ヴァレンシュタイン家って! メイドって何なんだ!? 俺のチート能力は!? 主人公補正は!? 神様、あの黒い影の野郎……!)


 混乱と絶望に苛まれる俺をよそに、新しい母親は嬉しそうに俺を抱き上げ、優しく背中を撫でた。


「この子の名前、どうしましょうか?」


「そうだな……」


 そんな穏やかな会話を聞きながら、俺は心の中で深く絶望していた。


 こうして俺の『異世界で最強ハーレムを築く大作戦』は、

 転生したその瞬間に、盛大に暗礁に乗り上げたのだった。


 ――だが、この時の俺はまだ知らなかった。


 これが、ほんの序章に過ぎなかったことを。

 そして、これから待ち受ける運命が、想像を遥かに超えるものだったことを。



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