第24話 ながくてみじかかったいちにち
「ただいまー!」
扉を開けながら、元気よく声を出す。暗くて、どこか閉塞感のある雰囲気。
「おかえりなさい。」
暗闇のリビングから聞こえる、ユウの機械的な声。
窓の外は暗く、家々の明かりがぽつぽつ灯っている。
昼間あんなに騒いでいたせいか、体が少し重い。
「はぁ〜...なんか今日、一日長かったねぇ。」
私は靴を脱ぎながら呟く。
「いっぱいあそんだから!」
ナナは、ドヤ顔で、誇らしげに言う。まだまだ元気いっぱいだなぁ...。
子供ってすごいな...。
「それじゃ、夕食作るから待ってて〜」
ミナが、明かりを付け、キッチンへ足を運ぶ。軽快な足音が響く。
そして。エプロンを付ける姿が、なんだかすっかり“お姉ちゃん”って感じだ。...というか、ナナはどこ行った...?
すると。
「ななも...つくりたい...!」
ナナが、ぱたぱたとミナの後ろをつけていた。
「じゃあ私もー!」
私も続いた。ミナが、少し微笑みながら、お玉を持ったまま振り返る。
「え、今日は全員参加?」
「そういう気分!」
「わたしも!」
ミナは、少し困ったように笑った。
「じゃあ今日は、大変なことになりそうだね〜。」
「ちょっとそれどういう意味!?」
私は頬を膨らませる。
「冗談だよ、冗談。半分は」
「って半分は本当なんかい!」
私は、ミナの肩をポンっと叩く。
「いったぁい」
この暗闇の静寂の中には似合わない、明るくて賑やかな夜だ。
数分後。
「サナ、野菜切れる?」
「任せなさい。」
そう言って、包丁を握る。
「なな、おさらをだす!」
「おっ、ナイス!」
そして、食器棚に走る。あんなに走って...。転びそうで怖いなぁ...。
「いたぁ!!」
あ〜あ、言わんこっちゃない...。
「大丈夫!?」
ミナが、お玉をシンクに放り投げ、ナナに駆け寄る。
「こゆびぶつけたぁぁぁ」
「あらら...いたかったね...。いたいのいたいのとんでけー!」
そして。
包丁の音。鍋の湯気。テレビの小さな音。
こういう普通の時間が、最近すごく好きになってきた。
「...。」
ふと、ユウに視線を向ける。。
ユウは、いつものように部屋の隅で静かに座っていた。
「ユウもこっち来なよー!」
私は、キッチンからリビングにいるユウに、呼びかける。
「...私は補助不可能です。」
即答。
「かたーい!」
そんな時。私の隣に、小さな何かが当たった。
「ゆう、いっしょにつくろ!」
...ナナだ。
するとユウは、少しだけ沈黙する。
「...簡単な調理補助程度でしたら可能です。」
「来てくれるの!?」
思わず声が大きくなる。
ユウが、体をのっそりと起こす。そして。ゆっくりこちらへ歩いてきた。
「では、何をすれば?」
「えぇ〜っと...。」
私は少し人差し指を顎に当てて考えて。
「じゃあ、お皿並べて!」
「了解しました。」
ユウは、食器棚の方へ、ゆっくりと歩き出す。人数分の食器を手に取り、皿を並べ始める。
その様子を見て、ご飯をよそいながら、ナナが小さく笑った。
「ゆう、まじめ...。」
「仕事用と教育用は、こういう感じなんだろうね〜。」
ミナが、野菜を炒めながら言う。
でも。その光景は、なんだか少しだけ不思議だった。
人間と、HA。
種類も役割も違う存在たちが。
こうして同じ食卓を囲もうとしている。
...少し前の私なら、想像もしなかったな。
鍋から、出汁の匂いが広がる。その匂いが、食欲を引き立てる。そして、それと同時に。
ナナのお腹が、ぐぅ〜っと鳴った。
数秒の沈黙。そして。
「あははははっ!」
笑い声が、暗闇の夜の外にまで、響いていた。




