第22話 プライベート用と、仕事用
ミナの表情が、凍った。
「...ナナ...。」
ミナは、そっと声をかける。
ナナは、そのHAから目を離せないでいた。
床に散らばった破片。割れた皿。
それを無表情で拾い続けるHA。
「エラーを確認。清掃を開始します。」
感情のない声が、店内に響く。
ナナの肩が、小さく震えた。
「ナナ、大丈夫?」
私は、できるだけ優しく聞く。
するとナナは、びくっと肩を揺らした。
「...ごめんなさい...。」
「え?」
なんで謝るの?
そう聞こうとした時。ミナが、そっとナナの背中を撫でた。
「大丈夫だよ。ナナは何も悪くない。」
優しい声。
まるで、小さな子供を落ち着かせるみたいに。
ナナは、唇をぎゅっと結ぶ。。
「...っ...。」
苦しそうに、頭を押さえる。
「ナナ!」
私は慌てて立ち上がる。
だがミナは、冷静だった。
「サナ、大丈夫。」
そう言って、ナナの手を優しく包む。
「無理に思い出さなくていいからね。」
「...。」
「今は、ご飯を食べよう?」
ミナの声は、不思議なくらい柔らかかった。
ナナの呼吸が、少しずつ落ち着いていく。
「...みな...。」
「うん?」
「...となり、いて...。」
その瞬間。
ミナは、一瞬だけ目を丸くした。
でもすぐに、ふわっと笑う。
「もちろん。」
そして、ナナの隣にぴったり座った。
ナナは安心したように、ミナの服を少し掴む。
その姿を見て。
私は、胸の奥が少し痛くなった。
……この子。
今まで、どんな場所にいたんだろう。
第22話 これから
食事を終え、店を後にする。
自動ドアが開いた瞬間、外の少し暖かい風が頬を撫でた。
店内の匂いが消えて、代わりに草とアスファルトの匂いが混ざった、田舎の空気が肺に入る。
「ふぃ〜...食べたぁ...。」
私は、思わずお腹をさする。
「サナ、食べすぎじゃない?」
ミナが笑う。
「だってミナがデザート勧めてくるから!」
「えへへ。」
絶対反省してない顔だ。
隣では、ナナが満足そうに歩いている。
「おこさまらんち、おいしかった……!」
その口元には、まだ少しケチャップが残っていた。
「ナナ、口ついてるよ。」
「えっ!?」
慌てて口を拭こうとするナナ。
でも違う場所を拭いている。
「ちがうちがう、こっち。」
私は笑いながら、ハンカチでそっと拭いた。
「...あり...がとう...。」
ナナは、少し照れたように笑う。
...よかった。さっきまで、あんなに顔色悪かったのに。
完全に元気ってわけじゃないけど、少し落ち着いたみたいだ。
そして。
「ここからどうしようか〜。」
ミナが、伸びをしながら言った。
青空を見上げる。
雲がゆっくり流れていた。
今日は風も気持ちいいし、どこまでも歩けそうな気がする。
「ん〜...。」
私は周囲を見渡す。
ファミレスの先には、小さな商店街。
さらに奥には、川沿いの道。
逆方向へ行けば、住宅街と、あの散歩道。
「ナナはどこ行きたい?」
私が聞くと、ナナは少し悩み始めた。
「えっと...。」
真剣な顔。
「...かわ!」
「川?」
「うん!かわ、みてみたい!」
ミナと顔を見合わせる。
「いいね、行こっか!」
「決まりだね」
そして、また歩き出す。
午後の日差しが、三人の影を長く伸ばしていた。
私は、少しだけ後ろを振り返る。
さっきまでいたファミレス。
忙しそうに働くHAたち。
機械みたいに、正確に動き続ける姿。
...でも。
ナナは、違う。
疲れて。怖がって。笑って。甘えて。
まるで、本当に人間みたいだった。プライベート用と仕事用では、こんなにも違うんだな...。
「さなー!はやくー!」
前を見る。
ナナが、川の方へ駆け出していた。
その後ろを、ミナが笑いながら追いかける。
「...うん!!」
今は、それでいいか。
私は、小さく笑って2人の後を追った。




