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第五話:銀の魔女

 三日後、俺は東の辺境にいた。

 今度の仕事は、東方で商路を脅かしている魔物の群れの討伐だった。


 街道脇の野営地で、見覚えのある銀髪を見つけた。

 魔女のヴェスペラ。勇者一党にいた頃、何度か組んだことがある。


 俺たちは、リーネと傭兵二人の計四人。

 ヴェスペラの方も三人。同じような任務なのかも知れない。


 ヴェスペラも、俺に気づいた。

 少し驚いた顔をして、こっちに歩いて来る。


「久しぶりね、ハンジ」

「ああ。任務か?」

「そうよ。小規模だけど」


 短い会話だった。互いに仕事中だ。長話をする場面ではない。


「……アルフレードは、まだ戻ってないのよ」


 ヴェスペラが、付け加えるように言った。

 俺に向けた言葉ではない気がした。


「……そうなのか」


 禁呪域に入って三ヶ月。想定よりも、かなり時間がかかっている。

 魔法が発現しない特殊な領域で、賢者のカスパルも、魔女のヴェスペラも同行できない。

 いつもと違う編成なので、苦戦しているのかもしれない。


「連絡は取れているらしいから、心配はなさそうだけど」


 俺は首肯した。無事なら、それでいい。


 ヴェスペラの後ろには、二人の男が控えていた。

 カスパルの傍で、よく見かけた連中だ。

 目が合った。一人が、すっと視線を逸らした。


 妙な組み合わせだった。

 調整役のカスパルと、白黒はっきりさせる型のヴェスペラは、相性が良くなかった。


「――ハンジさん?」


 リーネの声で我に返った。

 引っかかりは残ったが、口を出す立場じゃない。

 俺はもうアルフレード一党の人間ではない。


「何でもない。行くぞ」


 ヴェスペラたちは、すでに野営地の奥へ戻っていた。

 遠ざかる銀の髪が、視界の端に残っていた。



  ***


 三日かけて、商路沿いの魔物を片付けた。

 リーネが前衛で注意を引き、傭兵二人が脇から牽制する。

 動きが鈍ったところに、俺が聖銭を一枚。

 全頭、一発で仕留めた。赤字なし。


「相変わらず、とんでもない腕だな」

「銭一枚で魔物を消し飛ばすなんて、噂以上だぜ」


 傭兵の二人が、感心した声を漏らす。


「二枚使ったら赤字だ。腕じゃなくて事情だよ」


 赤字を出せば俺の首が回らなくなる。必死に急所を狙っているだけだ。

 だが、この調子なら、今回は大きな黒字が見込める。


「明日が最後か。森の奥だな」


 町の酒場で、卓を囲んでいた。

 麦酒の杯と干し肉、それに地のものらしい煮込み。

 辺境の店にしては、悪くない品揃えだ。

 傭兵の一人は、すでに二杯目の麦酒に手を伸ばしていた。


「リーネさんも、もっと飲んでくれていいんだぜ」

「いえ、私は……」


 杯に口をつけたまま、リーネが肩をすくめた。

 麦酒は半分も減っていないが、表情は緩んでいる。

 雰囲気を楽しんでいるといった感じだ。


 傭兵が笑って、自分の杯をぶつけてきた。

 杯の音が、店の喧騒に紛れた。


 ふと、店の奥に目が行った。

 卓に男が二人、向かい合って座っている。

 昨日見た顔だった。ヴェスペラと組んでいた二人。


 ヴェスペラはいない。

 二人だけで、額を寄せるようにして話している。

 一方が短く何かを言い、もう一方が頷く。短いやり取りが、間を置いて繰り返されている。


 一人が、ふいに顔を上げた。目が合った。

 すぐに視線を逸らした。隣の男に小声で何かを告げて、二人は卓の上の杯に目を落とした。

 麦酒の苦味が、舌の上で少し変わった。


「どうかしましたか」


 リーネが、こちらを覗き込んでいた。


「いや、何でもない」


 杯を空けた。傭兵が、おかわりを注いでくる。

 受け取りながら、もう一度店の奥に目をやった。

 二人の卓は、もう空になっていた。

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