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追放された巫女ですが、神と妖に愛されて辺境を再生します  作者: KATARIBE


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第6話 守る理由と、触れてはいけない温度

風が、止んでいた。

ざわめきのない森は不自然なほど静かで、その静けさの中に“異物”だけが浮いている。

「……来るぞ」

迅の低い声が落ちる。その瞬間、空気が張り詰めた。

草を踏み潰す音。重く、引きずるような気配。

木々の奥から現れたのは――二体。黒く歪んだ、獣の形。

昨日よりも、明らかに濃い。

「……増えてる」

小夜の声がわずかに震える。

『流れが強くなってるから』

水月の声は落ち着いているが、その奥に警戒が滲む。

『引き寄せる力も強くなってる』

枯神の目が、ぎらりと光る。

次の瞬間、地を蹴った。

「下がれ!」

迅が前に出る。同時に、白露も動いた。

低く構え、一体の前へ飛び出す。

衝突。

鈍い音が森に響く。白露の身体がしなやかに動き、攻撃をいなす。

だが――。

「……っ」

押されている。純粋な力では、枯神の方が上だ。

「白露!」

思わず声を上げる。

『小夜、来るよ!』

水月の声と同時に、もう一体がこちらへ向かっていた。

身体が、動かない。一瞬、足がすくむ。

怖い。あの“歪み”に触れたくないと、本能が拒む。

けれど。

(……守らなきゃ)

白露も。この場所も。

せっかく戻り始めたものを。

小夜は、強く息を吸った。

そして、地面に手をつく。

「……流れて」

言葉と同時に、意識を落とす。

土の奥。細く、弱く、それでも確かにある流れ。それを――“引き上げる”。

びきり、と。身体の奥で何かが軋む。

「……っ!」

冷たい。昨日とは比べものにならない。

氷のような流れが、腕から一気に入り込んでくる。

それでも、止めない。

「……ここに、通ってください!」

瞬間、地面がわずかに震えた。

乾いた土がじわりと色を変え、細い水の筋が一気に走る。

その流れに触れた瞬間、枯神の動きが鈍った。

『……効いてる!』

水月の声が弾む。

「今だ!」

迅が踏み込む。鋭い一閃が、一体を正確に断ち切る。

同時に、白露がもう一体へ飛びかかる。迷いのない動き。

だが――。

「白露、無理しないで!」

声が届いたのかは分からない。

それでも、白露はわずかに軌道を変え、距離を取った。

その一瞬の隙を、迅が逃さない。

決着は、早かった。

枯神は音もなく崩れ、消えた。

静寂。

すべてが終わったあと、小夜の身体がぐらりと揺れた。

「……っ」

力が抜ける。指先の感覚がない。

いや、それどころか――腕の内側が、凍りついたように冷たい。

「小夜!」

迅がすぐに支える。その手が触れた瞬間、ぴくりと彼の眉が動いた。

「……なんだ、この冷え方は」

低く、抑えた声。怒りに近い響き。

「……大丈夫、です」

かすれる声で答える。けれど、全く説得力がない。

「どこがだ」

即座に返される。

迅の手は離れない。むしろ、しっかりと支えたまま。

「立てるか」

「……少し、だけ」

足に力を入れる。だが、うまく入らない。

その瞬間、ふわりと身体が浮いた。

「……え?」

気づいたときには、抱き上げられていた。

「じ、迅さん……!?」

「黙ってろ」

短く言い切る。

「無理に動くな。余計に悪化する」

その声は冷たい。

けれど――腕は、驚くほど丁寧だった。

『……過保護』

水月がぼそりと呟く。

「うるさい」

即答だった。誰に言ったのかは、分からないはずなのに。

白露が、静かに寄り添うように歩いてくる。

その瞳は、小夜から離れない。

(……あたたかい)

冷え切った身体の中で、そこだけがかすかに温かかった。

「……どうして」

ぽつりと、こぼれる。

「どうして、そんなに……」

守ろうとするのか。

迅は、一瞬だけ黙った。そして。

「倒れられると困る」

ぶっきらぼうに言う。

「ここは、まだ不安定だ。お前がいないと、回らない」

合理的な理由。

それだけのはずなのに。

ほんのわずか、言葉の奥に違うものが混じっていた。

『素直じゃないねぇ』

水月がくすっと笑う。

「……水月」

小夜は小さく呼ぶ。

『なに?』

「私……ちゃんと、やれてますか」

一瞬の沈黙。そして。

『やりすぎ』

即答だった。

「え……」

『でも』

少しだけ、やさしい声になる。

『ちゃんと届いてるよ』

その一言で、胸の奥がほどけた。

意識が、ゆっくりと遠のいていく。

最後に見えたのは、心配そうにこちらを見る三つの気配。

神と、妖と、人。

それぞれが、同じ方向を向いていた。

(……ひとりじゃない)

その実感だけを抱いて、小夜は静かに意識を手放した。


(続く)

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