第37話「周囲の気付き」
街の広場には、今日も人々の声が溢れていた。収穫祭の準備が進む中、小夜は迅と並んで歩く。普段なら自然にできる距離も、今日は少し意識してしまう。肩が触れそうで、でも触れない――そんな微妙な間合い。
「……小夜、落ち着け」
迅の低い声が耳に届く。小夜は心臓が跳ねるのを感じつつ、微かに頷く。彼は無言だが、隣にいるだけで強く支えてくれる存在だと、体で理解できる。
祭りの準備を手伝う村人たちの視線が、二人に向かう。ちらりと見られる視線に、小夜は頬を赤くする。迅はそんな小夜の動揺を察し、そっと手を添える――それだけで、周囲の視線も気にならなくなる。
「……ありがとう」
小夜の声は小さく、でも心からの感謝だった。迅は無言でうなずき、腕を少しだけ自然に絡める。外での初めての“さりげない触れ合い”に、小夜の胸は温かくなる。
子供たちが二人を囲み、興味津々で話しかける。小夜は笑顔で応じながらも、無意識に迅の体を意識する。彼もまた、周囲の目に気を取られつつも、小夜を離さない。
「こうして、人々の前で並ぶのも……悪くない」
心の中で小夜が思う。敬語での距離感も、そっと手を添えられる距離感も、今は心地いい。迅も同じ気持ちで、無言のまま彼女を守る。
広場を一歩進むごとに、二人の間の距離は自然と縮まる。見せつけるような派手さはないけれど、互いの存在が周囲に静かに映り、周りの視線を集めていた。
小夜の心は確かに理解する――
「傍にいることが、こんなにも安心で、嬉しいなんて」
そして迅もまた、自覚する――
「守るだけじゃなく、俺もこうして一緒に歩きたいと思ってる」
祭りのざわめきの中、二人だけの心地よい距離が生まれ、街の人々の目に映るのは、自然で、互いに信頼し合う二人の姿だった。
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