表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された巫女ですが、神と妖に愛されて辺境を再生します  作者: KATARIBE


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

15/25

第15話 「隣に立つということ」

朝の光が、水守の社をやさしく包み込んでいた。


境内には、今日も人の気配がある。祈りを捧げる者、恵みを分けてもらいに来る者、ただ静けさを求めて訪れる者——それぞれの想いが、この場所に集まっていた。


小夜は社の前に立ち、ゆっくりと息を整える。


手を合わせる前に、ふと空を見上げた。


「……大丈夫」


小さく、自分に言い聞かせる。


以前よりも、心も身体も軽い。水月の力に支えられているのもあるけれど、それだけじゃない。


ここに来てくれる人たち。


そして——


(迅さんが、いる)


その存在が、確かに支えになっていた。


けれど同時に、昨日の言葉も胸に残っている。


——守られるだけじゃ、ダメなんでしょうか。


あの問いに、迅は答えなかった。


それが、少しだけ寂しくて。


そして、悔しかった。


「……よし」


小夜は軽く頬を叩き、気持ちを切り替える。


「今日は、ちゃんとやろう」


そう呟いて、最初の祈りを始めた。


手のひらに、静かに力を込める。


水の気配が、ふわりと広がる。


それはこれまでと同じ——けれど、どこか違っていた。


優しいだけではない、芯のある流れ。


祈りを終えたあと、目の前の女性がほっと息をついた。


「……あたたかい。なんだか、元気が出てきました」


「本当ですか?よかった……」


自然と笑みがこぼれる。


そのやり取りを見ていた周囲の人たちも、安心したように頷いていた。


小夜はその様子を見て、胸の奥がじんわりと満たされていくのを感じる。


(これが……わたしのやりたいこと)


その時だった。


「——いい流れになってきたじゃない」


聞き慣れた声。


振り向くと、やはり凛がいた。


「また来たんですね……」


苦笑しながら言うと、凛は楽しそうに肩をすくめる。


「ええ。見届けないといけないものがあるから」


その視線は、小夜から——すぐに迅へ移る。


迅は無言で立っていたが、その空気は明らかに張り詰めている。


「……用件は」


短く問う。


凛は少しだけ考えるようにしてから、にこりと笑った。


「小夜に、少し試してもらおうと思って」


「試す……?」


小夜が戸惑う。


凛は境内の外、少し離れた林の方へ顎で示した。


「最近、あのあたりの水の流れが乱れてるの。気づいてた?」


小夜ははっとする。


確かに、今朝少しだけ違和感を覚えていた。


「でも……大きな問題ではないかと」


「今は、ね」


凛の声が少しだけ低くなる。


「でも放っておけば、いずれこの土地全体に影響が出る」


その言葉に、小夜の表情が引き締まる。


「……どうすればいいですか」


凛は少しだけ満足そうに微笑む。


「簡単よ。乱れた流れを、正しい形に戻すだけ」


さらりと言うが、それが簡単ではないことはすぐにわかった。


「それって……」


「“整える力”が必要」


凛はまっすぐ小夜を見る。


「あなた、できるはずよ」


その言葉に、小夜は一瞬迷う。


けれど——


「……やってみます」


はっきりと答えた。


迅がわずかに眉をひそめる。


「無理はするな」


「大丈夫です」


小夜は振り返って、少しだけ笑う。


「ちゃんと、できるところを見せたいので」


その言葉に、迅は一瞬言葉を失う。


凛はくすっと笑った。


「いいじゃない。そういう顔、嫌いじゃないわ」


三人で林へと向かう。


奥へ進むにつれて、空気が少しずつ重くなっていく。


水の音も、どこか歪んで聞こえる。


小夜はその場に立ち、目を閉じた。


(流れ……感じて)


足元から、水の気配を探る。


細い糸のような流れが、いくつも絡まり、乱れている。


(これを……ほどく)


手をかざす。


冷たくはない。


むしろ、やさしくあたたかい。


ゆっくりと、流れに触れる。


最初はうまくいかなかった。


絡まった糸が、さらに強く結びつこうとする。


「……っ」


息が乱れる。


だが、その時——


「落ち着け」


背後から、迅の声。


「全部を一度にやろうとするな。一つずつだ」


短く、的確な言葉。


小夜ははっとする。


(……そうだ)


深く息を吸う。


一番乱れている流れを見つける。


そこにだけ、意識を集中する。


(ここから……)


そっと、ほどく。


水が、静かに応える。


一つ、また一つ。


絡まりが解けていく。


やがて——


すべての流れが、すっと整った。


空気が軽くなる。


さっきまでの重さが、嘘のように消えていた。


小夜はゆっくりと目を開ける。


「……できた」


その声は、震えていた。


だがそれは恐れではなく、達成の震えだった。


凛が静かに拍手する。


「合格」


あっさりと言うが、その目は確かに評価していた。


「ちゃんと“整えた”わね。力だけじゃなく、意志で」


小夜はほっと息をつく。


そして、振り返る。


「……迅さん」


その瞳は、まっすぐだった。


「わたし、少しは……隣に立てますか?」


その問いに、迅は数秒沈黙する。


だがやがて、ゆっくりと口を開いた。


「……ああ」


短い一言。


けれど、それだけで十分だった。


小夜の胸が、ふわっと軽くなる。


凛はその様子を見て、どこか満足そうに微笑む。


「まあ、まだ“並んだ”っていうより、“追いつき始めた”ってところだけどね」


「……厳しいですね」


「当然でしょ」


くすりと笑う。


「でも——」


少しだけ優しくなる。


「ちゃんと見てるわよ」


その言葉に、小夜は少しだけ照れたように笑った。


帰り道。


夕日が、三人の影を長く伸ばしていた。


その中で、小夜はふと思う。


(隣に立つって……こういうことなんだ)


守られるだけじゃない。


支え合うこと。


同じ方向を見ること。


そして——


少しずつ、距離を縮めていくこと。


ちらりと隣を見る。


迅はいつも通り無表情だが、その歩幅は自然と小夜に合わせられていた。


そのことに気づいて、小夜はそっと微笑む。


恋も、力も。


少しずつでいい。


確かに、前に進んでいた。

面白いと思ったら、下の☆で評価していただけると励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ