表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された巫女ですが、神と妖に愛されて辺境を再生します  作者: KATARIBE


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/24

第14話 揺れる心と、そばにいる理由

凛が去ったあの日から、数日が経っていた。


水守の社は相変わらず賑わっている。祈りを求める人々、恵みを分け合う村人たち。その中心にいる小夜の姿も、以前よりずっと自然で、明るくなっていた。


けれど——


「……はぁ」


ふとした瞬間、ため息がこぼれることが増えていた。


「また考えてるのか」


すぐ隣から、低い声が落ちてくる。


小夜はびくりと肩を揺らし、振り返る。


「じ、迅さん……いつからそこに」


「さっきからだ。気づいてなかっただろ」


図星を突かれて、小夜は視線を逸らす。


「……少しだけ、考えごとを」


「“少し”って顔じゃないな」


さらりと言われて、小夜は苦笑するしかなかった。


境内の掃き掃除をしながらも、どうしても頭から離れない言葉がある。


——選ばれる理由が必要なのよ。


凛の声が、何度も蘇る。


「わたし……ちゃんとできてるのかなって」


ぽつりと零す。


「ここに来てくれる人たちに、応えられてるのかなって……」


その言葉は弱さではなく、前に進もうとする中で生まれた迷いだった。


迅はしばらく何も言わず、小夜の手元を見ていた。


掃き残しを、そっと足で寄せる。


「……お前さ」


「はい?」


「“全部応えよう”としてるだろ」


小夜ははっとする。


「それは……だって、巫女ですから」


「違う」


即座に否定され、小夜は目を見開いた。


迅はゆっくりと小夜の方へ向き直る。


「お前は“全部を背負うため”にいるんじゃない」


その視線は、まっすぐだった。


「ここに来る奴らが、お前に全部預けてるわけじゃない。少し楽になりたくて来てるだけだ」


「……」


「だから、お前も全部抱え込むな」


静かな言葉。


けれど、その一つひとつが胸に落ちてくる。


小夜はしばらく黙っていたが、やがて小さく頷いた。


「……はい」


そして、少しだけ笑う。


「なんだか、少し楽になりました」


「ならいい」


短く返す迅。


その不器用な優しさに、小夜の胸がじんわりと温かくなる。


その時だった。


「——あら、ずいぶんいい雰囲気じゃない」


軽やかな声が割り込んだ。


二人が同時に振り向く。


そこに立っていたのは、やはり凛だった。


「また……来たんですか?」


小夜が驚いて言うと、凛はくすりと笑う。


「ええ。ちょっと気になってね」


その視線は、真っ直ぐに迅へ向けられる。


「ちゃんと守ってるみたいで安心したわ」


「用がないなら帰れ」


冷たく言い放つ迅。


だが凛はまったく気にした様子もない。


むしろ楽しそうに、小夜の方へ歩み寄る。


「今日はね、あなたに教えてあげようと思って」


「……何を、ですか?」


「“選ばれる巫女”になる方法」


小夜の心臓が、どくんと鳴る。


「そんなもの……」


「あるわよ」


きっぱりと言い切る。


「人はね、“理由”に惹かれるの」


凛は境内を見渡す。


笑う子ども、祈る老人、談笑する村人。


「あなたの力は確かにすごい。でも、それだけじゃ“唯一”にはならない」


一歩、近づく。


「“この巫女だからお願いしたい”って思わせる何かが必要なの」


その言葉は、厳しいけれど真実でもあった。


小夜は唇を噛む。


「……わたしには、まだそれがないです」


正直な言葉だった。


凛は、少しだけ目を細める。


「いいえ。もう持ってるわよ」


「え……?」


「気づいてないだけ」


ふっと笑う。


「それに——」


ちらりと迅を見る。


「強すぎる護衛がいると、自分の強さに気づきにくいものね」


その一言に、空気がぴりっと張り詰める。


「……余計なことを言うな」


迅の声が低くなる。


凛は肩をすくめる。


「事実でしょ?」


そして、小夜に向き直る。


「あなたは守られてる。でも、それだけじゃダメ」


優しく、しかし逃がさない声。


「“守られるだけの巫女”で終わるか、“共に立つ巫女”になるか」


小夜の胸が、大きく揺れる。


守られている自覚はあった。


安心も、していた。


けれど——


それだけでいいのかと問われると、答えは出なかった。


その沈黙を破ったのは、迅だった。


「……こいつは、俺と並ぶ必要はない」


低く、はっきりと言う。


「俺が守る。それで十分だ」


その言葉は、迷いがなかった。


だが——


小夜の胸に、わずかな違和感が生まれる。


「……迅さん」


思わず名前を呼ぶ。


迅は小夜を見る。


その視線は、いつもと同じように優しい。


けれど——どこか“遠い”。


凛はその様子を見て、小さく息を吐いた。


「……ほんと、不器用ね」


そして、くるりと背を向ける。


「まあいいわ。今はまだ、ね」


去り際、小夜にだけ聞こえる声で言う。


「あなたがどう選ぶか、楽しみにしてる」


そのまま、凛はまた風のように去っていった。


残されたのは、微妙に揺れた空気。


小夜はしばらく黙っていたが、やがて小さく息を吐く。


「……迅さん」


「なんだ」


「わたし……」


言葉が詰まる。


それでも、ゆっくりと続ける。


「守られてるだけじゃ、ダメなんでしょうか」


その問いは、弱さではなく——願いだった。


迅は答えない。


ただ、少しだけ視線を逸らす。


沈黙が落ちる。


その静けさの中で、小夜は気づく。


——ああ、わたし。


この人の隣に、立ちたいんだ。


守られるだけじゃなくて。


同じ景色を、見たい。


胸の奥が、じんと熱くなる。


小夜はぎゅっと手を握った。


「……わたし、頑張ります」


小さく、でもはっきりと。


迅は何も言わなかった。


けれどその横顔は、ほんの少しだけ柔らいでいた。


風が吹く。


新しい季節が、また一歩近づいていた。

面白いと思ったら、下の☆で評価していただけると励みになります

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ