第3話「導きの不死鳥」1
燃え盛る炎が夜空を照らし、
まるで昼間のような明るさを見せるアーキディウム商業区。
そこには、かつての賑わいはなく炎の燃える音とそこら中に広がる血溜まり、
黒く焦げるか、怪物に食い荒らされもはや原形をとどめていない骸たちが広がり、
漂う鉄と煙の入り混じる香りは、気絶していたルークの鼻を刺激する。
ゆっくりと意識を取り戻したルークは、
うつ伏せへと体勢を変え、辺りを見渡し朝までの光景からあまりにも変わり果てた街の様子に絶句した。
ルークは肺に入る空気と鼻を刺激する異臭、現実への拒絶反応のせいで、その場で嘔吐してしまう。
ゆっくりと立ち上がると、
再び辺りを見渡し、まだはっきりとしない意識の中
ありもしない希望に縋るように周りに呼びかける。
「――だ、誰か!!」
「生きてる人!!」
焦りと絶望が入り混じり、
過呼吸気味になりながらも何度も何度も周りへ呼びかけた。
同じ場所では埒が明かないと感じたルークは、
脚を引きずるように前へ出す。
しかし、傷やボロボロのズボンと、
明らかに無傷とは思えない様な見た目をしている割には、
その脚に重さは感じられなかった。
自分の体の状況を気味悪がりながらも、生存者の確認のため小走りでその場を離れた。
しばらく、あたりへ呼びかけながら周囲を散策するも
誰一人として応える者はなかった。
握りしめる拳からは汗が滲み出る。
それでも諦めず、進み続けているとバルダの経営していた店を見つける。
そこにはかつての面影はなく、ほとんどが壊れ、崩れ落ち、もう店と呼べるような姿は残っていなかった。
ルークは慎重な面持ちで店の中や周りを行ったり来たりしながら、バルダの名前を呼んで回る。
しかし、案の定返事はない。
諦めて別の場所へ移動しようとしたルークの脚に、何かが当たる感触を覚える。
当たったものの正体を確かめるために、下に目をやると、そこには腰から下が引き千切られたように無くなった、バルダの死体が転がっていた。
衝撃的な姿に、ルークは叫び声と共に尻もちをついてしまった。
震える手を前へ伸ばし、最後の希望に縋るように髪をかき上げる。
「人違いであってくれ」「どうか違う人で」
そんな希望を簡単にへし折るかの如く現実は残酷にも突き刺さる。
「――ッ!! そんな……」
息は上がり、過呼吸気味になっていく。
「ごめんなさい……ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
バルダとの思い出が走馬灯のように頭の中を駆け巡る中、
ルークは嗚咽を溢しながら、何度も何度も骸に向かって謝り続ける
狂ってしまった機械のように、謝罪の連呼は止まらない。
そんなルークの背後に人影のような、それでいて禍々しいものを感じ、ルークは睨みつけるように振り返る
そこには、あの黒い星が波動を放ったときに現れた怪物が立ちつくしていた。
その姿に意図はなく、本当にたまたまそこにいただけなのだろうが、ルークはその姿を目に捉えると怒りを抑えられなかった。
「お前か……」
「この街の人達を殺ったのは……」
「バルダ叔父さんを殺ったのは、お前かァァァ!!!」
その心からの叫びは、燃える炎を揺らがすほどに響く。
だが怪物は微動だにしない。それどころかゆっくりとルークに向かって、腕に鋭利な刃のようなものを形成しながら歩み寄ってくる。
その姿にも無性に怒りを覚えるルークは自分の手の骨を砕いてしまうかのような力で拳を握る。
すると、パチッパチッとルークの手に火花が散り次の瞬間、ボワッ!と音を立てて拳を炎が覆った。
その現象にルークは驚くことはなく、こちらに向かってくる怪物に向かって歩き始める。
たかが数秒、その僅かな間はルークがこの街での思い出を振り返るには十分だった
怒りの籠った拳を「うぉぉぉぉぉぁぁぁぁ!!!」という雄叫びと共に怪物にめがけて振り抜くと、怪物の体はいとも簡単に貫かれた。
返り血はルークの正面部分すべてに飛び散り、水蒸気のような煙を上げる。
怪物はおぞましい叫び声と共に焼き切れるように消えていった。
しばらく唖然とその場に立ち続けるルークの心は、街の状況や知人の死などの大量な情報を一気に見たせいでぐちゃぐちゃだった。
少し冷静さを取り戻し、右手の違和感にようやく気付けるようになったルークは、燃え盛る右手を目の当たりにしてあっと驚く。
「な、なんだコレ!!」
そう言うと、夢のなかでの出来事を思い出す。
「フェニッ……クス……?」
右手を見つめながら、言葉をこぼすと炎は次第に消えていった。
次の瞬間、今まで燃えていた右腕にこれまで感じたことのないような、骨を鋭利なもので突き刺してくるような激しい痛みが襲う。
「ぐ……あぁぁぁ……」
あまりの痛みに腕を押さえながらルークは膝から地面に崩れ落ちる。
すると痛みが生じている場所がオレンジ色の光で包まれた。
ゆっくりとじんわりとそれでいて優しい温もりが、痛みを抱きしめながら癒してくれるように感じた。
しばらく待つと、光はだんだんと消えていき、
今まで感じていた右腕への激痛が消えていた。
不思議そうに拳を握ったり開いたりを繰り返しながら全体を見渡す。
「これが、フェニックスの力……なんだろうか……」
そう独り言を呟くと、
ルークはフラつきながらゆっくりと立ち上がり、後ろを振り返ってバルダの死体と崩壊した店を見つめる。
何かを決心するかのように目を瞑る。
目を開くと目の前にそびえ立つ燃え盛る王城へ体を向ける。
「フェリシアとアナスタシアを探しに行かないと……!」
「せめて、せめて2人だけでも……」
「どうか守らせてくれ……!」
そう言葉にしながらルークは王城に向けて駆けていった。
怒りや憎しみを堪えながら。




