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Aetanyx(エタニクス)−The Spiral of Fate−  作者: 岩江公一
第一部〈運命の啓示〉第一章:災厄の予兆
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第2話「崩れ去る平穏」3

――数刻前のアルスーラ王城正門前。


ロザリオ少将率いるの第一陸部連隊は、

正門防衛戦を繰り広げていた。


「第二小隊は右翼より攻め入れ!奴らの流れを狂わせるのだ!!」


「ロザリオ少将!!これ以上はもう持ちません!!」


ロザリオは歯を唇を噛みながら、

悔しそうな険しい表情を見せる。


「第三陸部連隊との通信は!!」


「応答ありません!!」


「どういうことだ……。 知性があるようには見えんが、明らかに統率の取れた動き……」

「我々の部隊でも太刀打ちできんとは……」


ロザリオが呟いたその瞬間だった。

地面を抉るような轟音と共に、第一陸部連隊の前衛部隊近辺に大きな砂埃と共に、血の雨が振り注いだ。

その様子は、ロザリオの目にはっきりと焼きついた。

周りの怪物よりも遥かに巨大な体格に、家を容易く破壊できるほどの大きな剣を携えたその影は、

まるで、集(たか)る虫を振り払うかのように、剣で殲滅し、ゆっくりと正門へと近づいてくる。


「い、嫌だぁぁぁ!! 死にたくない!!」

「た、助けてくれぇぇ!!」

「神よ……お救いください……」


兵士たちの悲壮な叫び声、

弱々しい乞いの言葉、

響き渡る断末魔、

響き渡る音は、現状のの悲惨さを物語っていた。


兵士を蹴散らしながら前進する大きな影は、ロザリオの前に立ち、みくだす様に見下(みお)ろす。

恐怖と絶望に支配されたロザリオはその場から動くことができなかった。

周りの兵士からの言葉など、当然のように耳に入ってくることはなかった。


怪物は大きな剣を振り上げると、正門を支える壁ごと一気に粉砕した。

またたく間に周囲には、砂埃と瓦礫の破片と血と人の体の部位が弾け飛んでいく。

明らかに地獄絵図へと化したその場を一望すると、怪物は吠えることも、そのまま攻め入ることもせず、ゆっくりと後を向き、舞い上がる煙と炎の中に消えていった。


『――こ、ちら第三陸部■隊 隊長、シュ、リ中佐!』

『応答■■んだ!ロザリ、オ少将! ロザリオ少将!!』


通信機からノイズ混じりに聞こえる声と、炎の音が支配する王城正門。

僅か2時間の防衛の末、アルスーラ王城正門は呆気なく突破された。

炎の中に消えていった謎の巨大な1つの影によって……。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


アレンは、カイルスにフェリシアとアナスタシアの2人を誘導するよう命を下す。


「2人を、よろしく頼む」

「あの娘(こ)らは国の未来だ。絶対に死なせてはならん」

「良いな!!」


アレンの瞳と響き渡る声の圧に、カイルスは圧倒されながらも

「はっ!」と大声で敬礼とともに返答すると

急ぎ王宮の間を後にした。


その直後、一人の偵察兵が

走り方を乱し、息を切らし「伝令!!!」と叫びながら王宮の間に入ってくる。


アレンは「何事か!!」と直ぐ様問いかけると

偵察兵は、姿勢を低くし答える


「国王陛下へ急ぎ通達!」

「つい先程、正門を守るロザリオ少将率いる第一陸部連隊が壊滅……!」

「正門が突破され……ロザリオ少将とも連絡が取れない模様……! おそらく……」


通達を聞き、アレンは顔を引きつらせる。

後ろに控えていた王妃マリアーノも立ち上がり、

アレンの下へ急ぎ足で向かう。


「陛下……」


マリアーノは、不安と恐怖の入り混じる声とともに

アレンの肩へ手をそっと置く。

アレンもそれに応えるように、マリアーノの手を優しく握った。


暫く黙り込むアレンだったが、

何かを決意したかのように立ち上がると、振り返ることなくマリアーノへ言葉を紡ぐ。


「マリアーノ。お前もあの娘(こ)らが向かう地下シェルターへ向かい避難誘導の準備を済ませておいてくれ」

「あそこを、国民と負傷兵の隠れ蓑(みの)としお前とフェリシア、アナスタシアで支えてやるのだ」


「嫌です!」


オウム返しのように言葉が返ってくる。


「陛下が……、アレンが残るのであれば私も残ります!」

「それが、王妃としての務めです!」


普段はアレンの言葉に大人しく従うマリアーノが珍しく反論すると、

目を丸くして驚く。

しかしすぐに素に戻ると、マリアーノを諭すように淡々と述べる


「お前までいなくなっては、この国は本当に滅びてしまう」

「あの娘(こ)らも国をまとめあげるにはまだ幼すぎる……」

「お前だけでも、傍にいてやってくれ」

「頼む……。お前だけにしか……頼めない」


一瞬の沈黙が2人を包む。

マリアーノは、拳を握りしめ何かを口にしたいという思いを殺すように口を噛みしめる。


王宮の間の東手にある、外に直接通ずる扉の先から兵士の悲鳴が上がる。

マリアーノはそれを聞くと、目を閉じ決意を固める。

「必ず迎えに参ります!」とアレンの手を強く握り締め、

衛兵と共に地下シェルターへの近道へと通ずる裏手の扉へと姿を消した。


その姿を見送ったアレンは椅子から立ち上がり

背後に身を潜めていた側近、カーネスに武器を手配させ、扉を突き破らんとする怪物たちを迎え撃つように立ちはだかった。


首に掛けたロケットを手に取り開く、

そこに映る姉妹の微笑ましい写真を見つめ


「フェリシア……アナスタシア……」

「不甲斐ない父に、どうか勇気と力をくれ……」


ロケットの蓋を閉め力強く握りしめる。


「陛下!突破されます!」


王宮の間の扉付近で待機していた、

国王直属の兵士の声を聞き、アレンはカーネスから武器を受け取る。


「今ここに残っている部隊は……?」


アレンの問いかけに、

カーネスは即座に答える。


「国王直下防衛軍と第一近衛小隊のみにございます」

「他のいくつかの部隊は、市街地の防衛にあたり、そしていくつかは……壊滅状態と……」


アレンはしばらく黙り込むと

「まるで、国の終わりだな……」と苦笑いを見せ、カーネスから武器を受け取る。


「カーネス、最後まで苦労をかけるな……」


静かな声で告げられる言葉にカーネスは、

「これが、私の仕事でございますので……」と深々と頭を下げる。


アレンは覚悟を決め、

最後の雄叫びのごとく、声高らかに宣言する。


「我は、アレンシュヴァルツ=エヴァンシール」

「この名を刻み、世に示せ!」

「我がアルステラ王国は不滅なりと!!」


高らかに剣を掲げ、アレンは吠えながら先陣を斬る。

すると、息も絶え絶えな兵士たちがこぞって立ち上がり「ウォォォォ!!!」と大きな雄叫びを上げ、アレンに続くように侵入してくる怪物へと猪突猛進のごとく向かっていく。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


一方、人々の波に流され気絶していたルークは

昨日と同じ白い空間で目を覚ます。

しかし、視覚に届く情報とは別に、耳へと届く情報は全く違うものになっていた。

たくさんの人々の悲鳴や泣き叫ぶ声といった苦しみにあふれかえる声が耳を突き刺すように響く。


ルークは、辺りを見渡すも景色は変わらない。

彼の心は穏やかではなかった。


「僕は……どうして、ここに……」

「眠っているのか……?」

「早く……覚めないと……!!」

「皆が!」


焦る気持ちをおもむろに表し自問自答しながら、今いる場所からゆっくりと足を進めていく。

次第にその足取りは早くなっていき、永遠に広がり迫る白い空間に恐怖と焦りを抱いていた。


「頼む!」

「ここから出してくれ!」

「僕は行かなきゃ――!」


瞬間、言葉を遮るように

どこからともなく声が聞こえた。


――どこへ行くの……?


その声には温もりを、

それ以前に感情を感じなかった。


「誰だ!」

「なぜそんなことを聞く!」


ルークは辺りを見渡しながら力強く問いかける。


――今の君に、何ができるの……?


ルークはその声が次第に近くなっているのを感じた。

何かが迫っている。

その不安はどんどん大きくなっていく。


――全てが終わるまで、眠っていたほうが楽だよ……?


「駄目だ……」

「戻らなきゃ……」

「戻って皆を……村の皆を……!」

「フェリシアにアナスタシアも……」

「僕が……!」


――どうやって……?


ルークは耳元で聞こえるその声に反射するように後ろを振り返る。

そこに立っていたのは、外套をまとった一人の少年だった。


「今の君に、抗う力はない」

「運命の流れに抗う力は……」


「運命に、抗う……?」


少年の放つ含みのある言葉に、

ルークは顔をしかめる。

気がつけば、辺り一面に火の粉が舞っていた。


「――君は……抗うのかい……?」

「この世界の運命に……」

「君を取り巻く、これから起こる運命の流れに……」


「抗う覚悟は……あるのかい……?」


淡々と語るその口調。

まるで会話が成立しないこの状況に恐怖しながらもルークは問いかける。


「当たり前だ!」

「運命とか、そんな難しいことはよく分からないけど」

「皆が困ってるのに何もしないなんて……」

「そんなのごめんだ!」


そう言い放つと、

少年は「そう……」と言って後ろを振り返り、遠くに光る橙色の滲んだ場所を指さす。


「なら、あそこを目指しな……」

「そこに、君の望むものがある……」


ルークは少年の指をさす方を見つめ、再び少年に向き直る。


「君は……いったい――」


いいかけたところで少年はルークの口に人差し指を当てる。


「今は、まだ内緒」

「――"時が来たら、また会おう"……」


そう言い残すと、少年は炎とともにルークの目の前から消え去った。

あまりの出来事に頭が追いつかない中、

彼の中には1つだけ確かなことがあった。


「あの光に……」


ルークは一歩、また一歩と恐る恐るその光が灯る場所へと歩み寄る。

近づくにつれ、その光は目を開けられないほどの輝きを放つ。

やっとの思いで光源までたどり着いたルークは、

その輝きの中で揺れ動く1枚の羽根を手に取る。


次の瞬間、ルークの体を紅蓮の炎が包み込む。

不思議と体に残る感覚は、熱さではなく心地良さだった。


ルークを包む炎は次第に白い空間全てを覆い尽くし、

辺り一面が光と炎につつまれる。


――フェニックス。


その言葉だけが炎に包まれる白い空間に残り、響き続けた。

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