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Aetanyx(エタニクス)−The Spiral of Fate−  作者: 岩江公一
第一部〈運命の啓示〉第一章:災厄の予兆
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第3話「導きの不死鳥」2

行く先々には、変わらぬ地獄。

鼻を貫く生々しい鉄の臭いが、ルークの不安をさらに煽る。

業火に焼かれ、街中を炎の音が支配する中

ひとつの足音だけが、城の正門へ向かって響いていた。

息は絶え絶えになり、巻き上がる煙が呼吸の浅さを加速させる。

そんな状況にあっても、

ルークの体は異様なほどに軽かった。


正門に辿り着いたルークの目には、

この国の終わりを示すような光景が広がっていた。

壊れた門の瓦礫が、あたり一面に散らばっている。

その周囲には兵士の死体と血溜まり。

そこらかしこで炎が燃えていた。

ルークの記憶に残る「栄光の国」の姿は、もうどこにもなかった。


鼻を突き刺すような血や腐臭の混ざった匂いが、ルークの心を後退させる。

それでも震える足を一歩、また一歩と前へ押し出すように進む。


しばらく進んだルークの目の前に、

無数の怪物の姿が立ち塞がる。


「またこいつらか……」


ルークは右腕を擦りながら、こちらに近づいてくる怪物たちを睨みつける。


「出し惜しみなんてしてられない!」

「使えるなら、とことん使ってやる!」


両方の拳を握り戦闘の構えを取ると、

炎が両腕を伝うように燃え盛る。


「熱くは……無いんだな……」

「さっきもそうだけど」


握った拳をそのままに、

怪物に向かって勢いよく走り出す。

一体、また一体と次々になぎ倒しながら、

強引に城内へと近づいていく。


また一体と、拳を振りかざした瞬間

肩から触手のように伸びた刃がルークの肩をかすめる。

一瞬の痛みに怯むも、体勢を立て直し辺りを見渡す。

気づけば、かなりの量の怪物に囲まれていた。


戦闘慣れしておらず、力の使い方すらまともに知らないルークの体は、徐々に限界に近づいていた。


先程より一層荒くなる呼吸を整え、

再び戦闘の姿勢を取る。

抜けていく力を食い止めるように握りしめた拳は、小さく震える。


「こんな……所で……」


絶え絶えの息の中、

無理やり言葉を並べる。


「こんな所で、倒れるわけには……いかないんだ!!」

「僕は!!」


気合を入れなおすように、

無理やり張った大声を合図に、ルークは目の前の道を防ぐ怪物に向かって走り出す。

弱々しくも力強く握った右の拳を思い切り前へ突きだした瞬間、

右腕を炎が纏うと同時に、突出した拳の先から大きな火柱が燃え上がり、目の前の怪物を一掃した。

火柱が消えるとともに、腕に再び激痛が走るが、

開けた道を確認すると、歯を食いしばりながら全力で駆け抜け、城内の物陰へと転がり込んだ。


ルークを見失った怪物たちは、探しに来ることはなかった。

来た道をふらふら戻っていくものもいれば、

その場に立ち尽くすものもいた。


ひとまず現状に安心すると、

ルークは深呼吸した。

張り詰めた緊張感が薄っすらとほどけていくと、今度は右腕に残る痛みが襲いかかる。

ルークはその場に蹲り、悶絶する。


暫くすると、前回の痛みの時と同じように

右腕全体を橙色の光が優しく包み込む。

痛みは徐々に和らいでいき、まだ少し荒かった呼吸も少しずつ回復していった。


「ふぅ」と一息つくと、辺りを見渡す。


「ここは……フェリシアに連れてきてもらった時に通ったことがある」

「確か――。」


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


――12年前。


王宮の間へとつながる扉を、看守たちの制止を跳ね除けながら勢いよく開けたフェリシアは、

下を向き、目を曇らせたルークを引っ張り

奥に待つアレンの下へと駆けていく。


『父様〜!』


険しい顔つきで側近と会話するアレンの耳に元気よく弾んだ声が届く。

その声のする方を見ると、アレンはあからさまに笑顔を見せた。


『おぉ〜フェリシア〜!』

『戻ったかっ……』

『その子は?』


ボロボロな服に小汚い髪、

目は光を失い、下を向いたまま動かない少年の姿を目にしたアレンはフェリシアに尋ねる。


『森に入れる場所の近くに倒れてたの!!』


満面の笑みで応えるフェリシアに驚き、

フェリシアの側近を睨みつける


『森とは?』

『この娘をまたあそこに近づけたのか!!』


アレンの怒鳴り声を聞いて、フェリシアの側近は『申し訳ございませんでした!』と土下座した。


『フェリシア……誰かも分からない人を連れて帰ってきては駄目だよ?』

『危ないからね?』


フェリシアの頭を撫でながら

先程とは大違いな優しい声で警告すると、フェリシアは肩を窄め、もじもじしているルークの方に歩み寄り手を握る。


『危なくないもん!』

『友達だもん!』


アレンに向けて大きな声で訴えると、

ルークを見て笑みを見せる。


『ね!』


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


『――ルーク!』


頭に浮かぶ懐かしい彼女の姿、

懐かしい彼女の声。

ルークの顔には、自然と笑みがこぼれていた。


そんな小さな幸せを遮るように、

耳に金属がぶつかり合うような音が届く。


「この音は……」

「王宮の間からか!」


ルークは王宮の間へ駆けていく。


たどり着くと、そこにはアレンが一人で怪物と対峙している姿があった。

息は荒く、動きが鈍くなっている所を見るに、だいぶ長い間戦闘していたのだろうと察することができた。


ルークは再び拳に炎を纏わせ走り出し、

脚に力を込めて勢いそのままに飛び上がる。

思ったよりも飛び上がってしまい、不格好な着地のまま勢いに任せて拳を床に叩きつけると、炎が床を這うように広がっていく。

怪物たちは炎に触れると次々に焼き切れるように消滅していった。


目にしたものが信じられないといった表情でルークを見つめるアレンは

「ルーク……なのか……」

と絶え絶えの息の中、言葉を漏らす。


ルークは手を膝に置きながら、ゆっくりと立ち上がりアレンへと振り返る。


「国王陛下……」


ルークは、微笑むと即座に膝をつき頭を垂れる。


「ご無事で……よかった」


ようやく生きている人に、

それも自分がよく知っている人に出会うことができた事への安堵に

ルークの体から張り詰めた力が抜けていく。

息苦しかった状況から少しだけ前進できたことに、

そっと胸をなで下ろした。

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