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Aetanyx(エタニクス)−The Spiral of Fate−  作者: 岩江公一
第一部〈運命の啓示〉第一章:災厄の予兆
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第2話「崩れ去る平穏」1

翌日。

ルークは、掲示板の自分の屋台のポスターを張り替えるために、

城下街を訪れていた。


変わらず賑わう市場を横目にルークは作業を進める。

しかし、その表情には雲がかかっていた。


(昨日のあの変な女の人たち……今朝見た時にはどこにもいなかった……。)

(確かにアーキディウムの方へ向かってたはずなのに、ここまでの一本道にその面影すらなかった……。)

(一体何者だったんだ、あの女の人たち……。)


思考を巡らせながら作業をしていると、通りすがる人の話を偶然耳にする。


「ねぇ聞いた?今朝裏手の山岳付近で化け物みたいな、変な遺体が見つかったんですって」

「なんでも、蒸気みたいにのぼる煙を火事と勘違いした人に発見されたらしいわよ」


「怖いわね……。 何か起きないといいけど……」


ルークはその会話に聞き耳を立てながら作業を続けていた。

すると突然街角から女性の叫び声が聞こえてきた。

ルークは体の反応するがままに、その声のもとへと駆けていった。


悲鳴の聞こえた位置の周辺には、人溜まりができており、

ルークは「すいません!」「通ります!」と言いながら、それに割って入るように前進した。


心臓の鼓動が速くなる。

自分の心が、体を静止させようとする。

しかし、ルークの足は止まらない。


道が開け、情景が確認できるようになると、ルークの背筋に緊張が走る。


悲鳴をあげたであろう女性の目の前には、

昨日に目にした外套を纏った女達が、ルークの記憶に残るままにゆらゆらと前進していた。


(この人たち、もう城下街の中まで……!?)


ルークは、女の1人の冷え切った悍ましい目がこちらを覗いている気がした。


「――時ハ、満チタ……。」


女らの発する言葉の中で、この言葉だけはルークの耳にしっかりと届き、こびりついた。


(どういうことだ……?)


そう思ったのも束の間、

外套を纏った女らの言葉に反応するかのように、

空に浮かぶ黒い星が、鈍くどよめいた波動を放った。

それと同時に街中に沢山の「この世のモノとは思えない姿」をした化け物が、乾いた嘆き声を引きずりながら現れ始めた。


それまで賑わいに溢れかえっていた街中は、

悲鳴と嗚咽に包まれる


化け物達は、見境なく目的もなしに人々を襲い始める。


化け物たちの生々しい咀嚼音は正常な判断を奪い、

たちまち街中は血塗られた赤色に染まっていく。

助けを求める声は途中で途絶え、鳴り響く悲鳴は力なく消えていく。

その惨状は、想像するに難くない。


ルークは逃げ惑う群衆に巻き込まれる。

恐怖や焦りに蝕まれ、正常な判断がつかなくなる感覚を味わいながら、

人の流れに乗る様に、同じ方向へと駆けていく最中、

躓いて転倒してしまう。

ゴンッ!という鈍い音が頭に響き渡る。


街中は人々の悲鳴と炎、血の香りで満たされた景色がぼやけ始める。

ルークの意識はそこで尽きた。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


この一連の出来事は、

直ぐにアレンの耳に入った。


「――通達!」

「アーキディウム商業区には民間人の避難のために兵を派遣しましたが、収拾がつかず現在もまだ混乱の沈静と避難の誘導を並行して行っております!」


アレンは、その知らせを聞き静かに目を閉じながら頷いた。

額には汗が滲み、足は焦りを表すかのように貧乏ゆすりをしていた。


王宮の扉が勢いよく開き、一人の兵士が慌てた様子で入ってきた。


「何事か!」


アレンは尋ねる。


「――急報(きゅうほう)です!」

「先ほど、属領地アンデレーゼが陥落したとの知らせ!」

「偵察隊によると、マレドーン王国の旗が上がっていたと……!」


アレンは「ついに動いたか……」と小さな声で呟き、ざわつく家来たちを静粛させる。

そして、深々と深呼吸をすると各部隊に命令を出す。


「ロザリオ少将の第一陸部連隊とシュリ中佐の第三陸部連隊に外に出た化け物どもの討伐にあたるよう伝えろ!」

「なんとしても、被害は最小限に抑えるのだ……!」


偵察兵の2人は「ハッ!」と勢いよく返事をすると、

猛スピードで王宮の間をあとにした。


アレンは深く腰を掛け、

大きくため息をつき、窓から外を眺める。


「もう暫し猶予はあると思っていたのだがな……」

「フェリシア……アナスタシア……」


肩を落とすアレンに、

後ろから王妃マリアーノがそっと手を添える。

そして、アレンの顔を見つめ、柔らかい微笑みを浮かべ静かに頷いた。


「――大丈夫ですよ」

「"希望"は、まだ残っています……」

「きっと……」


燃え盛る炎は、

王宮の窓にまで上り詰める。

平穏とは名ばかりのもの。

それを象徴するかのように……。

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