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Aetanyx(エタニクス)−The Spiral of Fate−  作者: 岩江公一
第一部〈運命の啓示〉第一章:災厄の予兆
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第1話「今、此処に在るモノ」1

――ここは、豊かな自然に囲まれた小さな村〈シーナ〉


鳥のさえずりが山あいの村に響きわたり、柔らかな陽光が畑を照らす。

畑の中央では、1人の少年が黙々と野菜を収穫していた。


少年の名はルーク、17歳。

今日も黒い瞳を輝かせ、黒髪から汗を滴らせながら黙々と作業を続ける。


畑仕事で鍛えられた細身ながら引き締まった体つきをしており、

今日も質素な服装のまま作業に勤しんでいた。


ルークは村の一角に住む義父と義母に育てられていたが、

5年前に義父は病で他界してしまい、現在は義母トゥナヤと二人で暮らしている。


「……よし、今日もいい出来だ」


籠に野菜を詰めながら、ルークは小さく頷く。

朝露に濡れたトマトやキャベツが光を受け、宝石のように輝いていた。

それらの野菜を見ながらうっとりしていると、後ろから元気な声が飛び込んできた。


「ルークお兄ちゃーん!」

「遊んでよー!」

「かくれんぼしよー!」


振り返ると、近所の子ども達、ケイル、カティ、マリーが駆け寄ってくる姿が見えた。

ルークの傍に群がり、ワイワイと騒がしくしていた。


そんなケイル達を見てルークは苦笑し、腰を落として目線を合わせた。


「皆ごめんね。これから街に野菜を売りに行かなくちゃいけないんだ」


そう言うとケイル達は

「えーー」

「いいじゃん!遊ぼうよ!」

「ちょっとだけだから」

と口々に不満を漏らす。


そんな姿を見て、ルークは少し悩むと、

明るく微笑み答える。


「ならさ、僕が街から帰ってきたら一緒に遊んであげる」


ケイル達はそれを聞いて、

「ほんとに?」と嬉しさをあからさまに表した

そんなケイル達を愛おしそうに見つめると、

「それまでいい子にできるかな?」

と問いかけた。

先ほどまで不満そうだったケイル達は「は~い!!」と元気よく返事をし走り出した。

途中、とっさにケイルが振り返り「絶対だからね!」と言い残し、

騒がしく去っていった。


こんな当たり前の毎日がルークにとっての"日常"であり、"幸せ"だった。


ほどなくして家の扉が軋む音とともに、義母トゥナヤが出てきた。


「おやルーク、もう出るのね」

「うん。昼過ぎには戻るよ」


トゥナヤは微笑み、袖についた土を優しく払う。

「あなたの畑を見たら、あの人もきっと喜ぶわ」

「この畑もあなたも、あの人の自慢だからね」

トゥナヤは畑を見渡しながら、瞳を潤ませる。


ルークは静かに頷いた。

「――うん、ありがとう。行ってきます」


馬車の車輪が土を踏みしめる音が朝の村に響く。


「ルーク!もう出るのか! 精が出るな!」

「いってらっしゃい、ルーク!」

「気をつけてな!」


たくさんの人達がルークの出発を見送る。

ルークは笑顔で皆に手を振り言葉を返す。


「お兄ちゃ〜ん! いってらっしゃ〜い!」

「早く帰ってきてね〜!」


遠くからケイルが元気よく手を振り、それに続くようにカティ達も手を振ってくる。


「わかった〜!」と大きな声で答えると、

ケイル達は満足そうに、再び遊びに帰っていく。

木々の隙間から陽が差し込み、風が草を揺らす――平和で穏やかな日々。


ルークは晴れ渡る空を見あげながら静かにつぶやく。


「――いい天気だ……!」


満面の笑みを浮かべながら、

今日も、城下街に向け荷馬車を引いていく。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


〈栄光の国〉と呼ばれるアルステラ王国の城下街、首都アーキディウムの南に位置する商業区は、今日も朝からたくさんの人で賑わっていた。

通りを行き交う人々、露店の呼び声、香ばしいパンの香り。


ルークは荷馬車をいつものように広場の片隅に止め、野菜を並べる。

街の人々は彼の野菜や果物を楽しみにしており、評判も高い。


「よし!今日も頑張ろう!」


気合を入れ、「いらっしゃいませ〜!」の合図と共に開店する。

すると、街の人々は「待ってました」と言わんばかりにわらわらと集まってきた。


「ルーク君、いつものちょうだい!」

「このトマト、先週より甘そうじゃないか?」

「いや~1時間前から待った甲斐があったよ!」


慣れた手つきで会計と受け渡しをしながら

「ありがとうございます。また来週も持ってきますね!」

とルークは笑顔で答える。


しばらくすると、街の一角に店を構えているバルダが声をかけてきた。


「ルーク!いつものを頼んでもいいかい?」

「バルダ叔父さん!」


バルダはルークの常連であり、よくお世話になっている。

義父とも仲が良く、商売人の基本から心構えまで、

沢山のことを丁寧に教えてくれた恩人であり

今では持ちつ持たれつの関係だ。


「今日は林檎もオススメだよ!叔父さん!」

「こらこら、年寄りから金をむしり取るもんじゃないよ……」


そんな和気あいあいとした空気が広がる中、アルステラ王国直属「親衛隊」の紋章を掲げた馬車が現れた。

人だかりの多くなる時間帯に、国民の安全のため巡回している。


今日はいつもの巡回用の馬車とは見た目が違ったが、

人々は目にもとめず、気にせずに世間話や商売に夢中になっている。

そんな最中、馬車は通常の巡回経路を外れ、ルークの出店の前で停車した。


御者が馬から降り、扉に手をかけようとした次の瞬間

バンッッッ!!

と馬車からは絶対に鳴らないような轟音とともに扉がありえないほどの勢いで開く。

その勢いに身体を任せるかのごとく御者は吹き飛ばされ、綺麗な曲線を描きながら隣の花屋の籠にダイブした。


「ギャァァァ!!俺の綺麗なお花たちがぁぁ!!」


叫ぶ花屋の店主の隣で

ルークは手を伸ばしながら叫んでいた。


「ぎょ、御者さーーーん!!!」


その騒ぎの中心から、甘栗色の髪を陽光にきらめかせた少女が姿を現す。


「ルークっ!」


フェリシア=エヴァンシール、17歳。

――アルステラ王国第一王女。街の誰もが知る“王都の花”であり、ルークの昔馴染でもある。

長い甘栗色の髪をなびかせ、碧色の瞳を輝かせた堂々たる笑顔。お気に入りの白いワンピースをなびかせながら、ルークに飛びついた。


「フェ、フェリシア様……開幕からたいそうなご登場で……」


その後ろに続くように馬車の影から、もう一人の少女が顔を出す。

第二王女のアナスタシア=エヴァンシール、14歳。

フェリシアの妹。姉と同じ色の髪を整え、正装姿で姉の隣に並ぶ。


「姉様……少しは慎みをお持ちになって下さいまし」


不機嫌そうに愚痴をこぼすアナスタシア。


「アナスタシア様、久しぶりですね!」

と挨拶と一緒に微笑むルークと目が合うとアナスタシアはぷいっと顔を背け、

「べ、別にあなたに会いに来たわけじゃないわ! 姉様が勝手に……!」

と距離を取る。


「もう、アナスタシアったら」

フェリシアはくすりと笑い、ルークの出店を覗き込む。

「今日も売り切れそうね?」


「ええ。本日もありがたいことに好評でして」


ルークが言葉を言い終えると同時に

フェリシアはほっぺをあざとく膨らませ、ムスッとした表情を見せる。


「フェ、フェリシア様……?」


様子を窺うように尋ねるルークに対し、

フェリシアは我慢の限界と言わんばかりに突っかかる。


「もー!その堅苦しい話し方、私との時はやめてっていつも言ってるでしょ!」


「そ、そう言われましても……」


フェリシアは頑なにムスッとした表情を変えない。

それどころか口から「むぅ」という言葉が溢れ始め、目つきはどんどん悪くなっていく。

ルークはそんなあからさまなフェリシアの態度に苦笑し、肩をすくめ観念する。


「はぁ、分かったよ……フェリシア」


その呼び方を聞き、フェリシアの表情は分かりやすく笑顔に変わる。


「そう、それでいいの!――ルーク!」


ピンク色の、おそらくお花がひらひら浮かんでいるであろう雰囲気を出す2人を

街の人々が微笑ましく見守る中、アナスタシアは不貞腐れて腕を組む。


「……姉様ったら、なんでそんなに嬉しそうなのよ」


「あなたも少しは素直になったら?」

「な、なんですのよ それ!」


可愛らしい姉妹喧嘩に、ルークは思わず笑みを漏らす。


「あ、そうだ!今日のお昼頃、お父様が遠征から帰って来るの!」

フェリシアが突然思い出したように告げる。


「ルークも一緒にお出迎えしよ?」


真っ直ぐな瞳に見つめられ、ルークは少したじろぐ。

「そうしたいのは山々なんだけど……今日は帰ったら遊んであげるって村の子ども達と約束してるんだ」

「だから急いで帰らないと――」


言い切る途中で

会話を遮るように、後ろから客の声が聞こえて来た。

「ルーク! ちょっといいかい?」


「はーい!只今!」

「フェリシア、少し待ってて」


そう言い残しその場を離れようとするルークに

「あら? お忙しそうなことですし、別に構って差し上げなくても良くってよ?」

とアナスタシアはここぞとばかりに、憎まれ口を叩いた。

ルークはそれに苦笑で応じ、客のもとへと駆けていった。


暫くして、ルークは客への対応に一段落をつけ、再びフェリシアたちのもとに戻る。

ルークに誘いを断られたことに落ち込むフェリシアをみて、ルークはため息をつき、やれやれと声をかける。


「少しだけね」


その言葉を聞いてフェリシアはまたもあからさまに表情を明るくする。

その反応をみて、アナスタシアは少し面白くなさそうな表情を浮かべた。


「ただし、ほんとに少しだけだからね!」

「すぐに帰らないと子どもたちがすねちゃうから!」

 

ルークの忠告に「もちろん!」と上機嫌に返事をしたフェリシアは「楽しみだなぁ」とだいぶご機嫌な様子だった。


そんな彼女を見て、

ルークとアナスタシアは顔を見合わせ、プフッと笑った。

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