プロローグ―"#46862"
人は、何の為に生きているのか。
そんなことを、ふと考えることがある。
――誰の為に戦い、何の為に死ぬのか……。
――残された者たちは、残った想いは、
一体どこへ行くのか……。
――そう。
この世界は"孤独"を恐れる……。
生きた意味を見いだせないこと、誰からも忘れ去られてしまうこと。
だから縋る、
意味のある死に。
だから残す、
生きた証を。
だが、何もできない世界自身はどうなる……?
縋ることも、残すこともできない、
この"世界自身"の想いは、どこへと流れて行く?
――世界は"孤独"を抱いた。
それが、この世界が終焉へと向かう
その始まりとなってしまった……。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
淡い水色の光が暗闇を照らし出すだけの物寂しい虚無。
その中心に、彼は居た。
指先が宙に浮かぶ水色のホログラムに触れるたび、
タップ音とスクロールする音のみが響き渡る。
文字を打ち込み、画面をスライドさせるその一連の動きに一切の迷いはない。
その無駄のなさは、
まるで何かを諦めてしまったかのように淡々としていた。
しばらくすると、
空間に響き渡る温もりのない機械的な音声が彼の耳に届く。
『――46861回目の輪廻』
『結論……"失敗"』
彼は微動だにしなかった。
ただ、早く次の情報をと言わんばかりに座り直すだけ。
その動きに反応するように、音声は続けた。
『対ウ■ボロ■抗体生命体、"サガ模造体"の消滅を確認』
『ウ■ボロ■、〈■■■■■■〉完遂……』
急にノイズまみれになった音声を聞き、彼は微弱なれど反応を見せると、
おもむろにホログラムを弄り始める。
またも彼の操作する音だけが響き渡る。
『因果■正■構、再起動中……』
最後の操作を終えると、
音声とともに、大きな機械が動くように空間は振動し、巨大な動作音が響き渡る。
『――エラー発生』
――エラーコード:306
音声はそう告げると同時に、
動いていた機械は、一瞬にして稼働を止めた。
彼は、
少し動きに戸惑いを見せるも、すぐにいつものように淡々と操作をし始める。
しかし、最後のボタンを押す瞬間、彼の動きが一瞬止まった。
まるでこれから起こることが"最後の賭け"であるかのように、
弱々しくも力強くボタンを押す。
『――承知いたしました』
『データベースの初期化を開始します』
『――初期化中……』
音声を耳にし、彼は力を抜いて空を仰ぐ。
すると、『初期化完了』という合図とともに、再び機械は大きな音と振動とともに動き始める。
『因果■正■構、再起動中……』
『――再起動完了』
『46862回目の因果修復プロトコルを実行します……』
淡々と進むプロセスを聞きながら、
彼は、再び目の前に映るホログラムに向き直る。
しばらく眺めると、
彼は腕をだるそうに横に流した。
宙に浮かぶホログラムは彼の動きに反応して、淡い水色の光の粒子とともに消えた。
彼は肩の力を抜き、少し息を吐くと
「――■■■■■……。」
と何かをそっとつぶやいた。
その言葉が祈りなのか、呪いなのか。
はたまた誰かへ向けた純粋な言葉なのか
それは言葉を発した彼にもわからなかった。
呟いたその一言は、機械の轟音と振動にかき消され、
意味を宿す前に散っていく。
『今回の旅路が、良いものでありますように……。』
――いってらっしゃい……。




