第1話「"約束"」2
第一部〈運命の啓示〉
ルークが村に戻ると、ケイルはいつものメンバーであるカティ、マリーと3人で元気よく全力疾走で近づいてきた。
「ルークお兄ちゃん!遊ぼうよ!」
一番乗りと言わんばかりに勢いよく抱きついてきたケイルは、いつもと変わらない態度でルークにねだる。
カティとマリーも2人も続くようにルークに押しかける。
「今日は鬼ごっこしたい!」
「えー!かくれんぼにしようよ!」
ケイル達はルークと何で遊ぶかの言い合いをし始め、
気づけばルークそっちのけで、やいのやいのと口論を続けていた。
そんなケイル達のブーブー文句を言いながらも、楽しそうに言い合っている様子を眺めながら、ルークは自然と笑みをこぼし、「こんな幸せがずっと続いてくれたら」と何気なく心のなかで唱える。
ようやく折り合いがついたようで、マリーが「鬼ごっこ!」と元気よく声をあげると、他の2人は「ルークお兄ちゃんが鬼ね!」とルークの返事を聞かずに散り散りに逃げ出す。
「え!僕鬼なの?! ちょっと――!!」
元気よく走り去っていたケイル達にルークの声など届くはずもなく、
諦めたルークは、軽く準備運動をすると、「お兄ちゃんを舐めてもらっちゃ困るよ?」と悪い顔をしながら「待て〜!」とケイル達を追いかけ始める。
村の人々は、そんなルーク達の様子を微笑ましく見守っていた。
次第にルーク達の遊びに沢山の子ども達が集まり、気づけば、ルークは10人くらいの子どもを追いかける羽目になっていた。
「はぁはぁ……あれ?もしかして僕、もう歳なのかな……」
ルークは、真っ昼間の村近くの草原に大の字に寝転がり、休憩しながら言葉をこぼす。
空は雲1つない快晴で、ルークの視線の先を鳥たちが楽しそうに横切っていく。
息を切らしながら横になるルークにケイル達が近づいてくる。
「ルークお兄ちゃんみーっけ!」
「もう!体力なさすぎ!つまんない!」
「早く続きしようよ!」
文句を言う3人にルークは「少し休ませて」と言うと、
ケイル達もルークの真似をするように、近くで仰向けに大の字で倒れ込む。
誰も何も喋らない静かな時間が、風と共に流れていく。
草たちの揺れる音や、木々が鳴らす音色だけが響き渡り、
いつもより時間がゆっくりに感じられた。
「気持ちいいね……」
ケイルの何気ない言葉に、ルーク達3人は頷く。
「ルークお兄ちゃん」
ケイルは隣に横になるルークの手をギュッと掴むと、
少し震えた声で、ルークを呼ぶ。
ルークは握られた手を経由して、ケイルの方を見た。
「もう、どこにも行かないでね……」
「ルークお兄ちゃんに何かあったら……僕……」
沈んだ顔で訴えるケイルの言葉を聞いて、
ルークは優しく握られていない手でケイルの頭を撫でた。
「大丈夫だよ。 僕はどこにも行かないから」
「行ったとしても、必ず帰ってくるから」
「じゃあ、約束して!」
そう言うと、ケイルは小指をルークの眼の前に突きつけた。
それに続くように、カティとマリーもケイルの小指に、自分たちの小指を絡ませる。
ルークは、ケイル達の絡められた小指にそっと小指をつける。
「約束だよ! 絶対の絶対に!」
結ばれた小さな約束を胸に、
ルークは青空を見上げる。
程なくして、寝落ちしてしまったケイルを背負い、
カティとマリーと共にルークは村へ戻り始める。
「あれ? そういえば、他のみんなは?」
ルークは唐突に問いかける。
「ケイルがルーク兄のところに行くって言ったときに、バイバイしたよ?」
「そっか」
背中で静かに寝息を立てるケイルに優しい視線を向け、
ずり落ちそうになる所を背負い直す。
村につくと、カティとマリーはそれぞれ自分の家へと帰っていき、
ルークはケイルを家へ届けるために歩き出した。
突然、空にお起きた影がかかり
暗雲がたちこめ始める。
「あれ?今日って雨降るんだっけ?」
ルークは空を見上げながらボソッと呟ぶやくと、
こうしちゃいられないとケイルを背負い直し、ケイルの家へと小走りで向かった。
村からアーキディウム商業区までの道に出る入出口の近辺にあるケイルの家にたどり着き、3度ドアをノックすると、中から若々しい女性の声が聞こえてきた。
パタパタとスリッパの音を鳴らしながら、小走りで近づく足音は、ドアの前でピタッと止まり、
ゆっくりと扉が開く。
扉の奥で、ケイルの母のルターニャが出迎えた。
「あら!ルークじゃない!」
「もう……ケイルったらまだお昼すぎなのにもう寝てるの?」
「はしゃぎすぎちゃったみたいで、天気も悪くなってきたし、連れ帰ってきました」
そう言いながら、背負っていたケイルを優しく抱き直し、
ルターニャへ預けた。
「ありがとねルーク。 この子、ルークのいなかった3日間すっごい落ち込んでたから、心配だったけど、ルークと遊べて満足したみたいね」
ルターニャはケイルを優しく抱きかかえながら告げる。
優しい声と表情に、思わずルークは魅入ってしまう。
そんな自分に気づき、慌てて咳払いすると、
「それじゃ」と家をあとにしようとしたその時、
アルステラ王国の正門の大鐘が鳴る音が聞こえた。
村の人達は一斉に顔を出し、「何かしら?」「何があった?」と口々に呟いていた。
「この警報、いつもと違うわね……」
ルターニャは、ケイルを起こさないように、左右に揺れながら、顔をしかめる。
「この音……まさか!!」
ルークは、空を見渡す。
「どうしたの?ルーク!」
そんなルークに、心配そうに尋ねる。
「この警報音、特別警戒態勢の時に鳴る鐘の音って聞いたことがある! もし、仮に僕の予想が正しいとすれば、陸上から近づいていれば、ここはもうとっくに終わってる。 それがないってことは――」
「空からだ!!」
ルターニャはルークの言葉を聞いて空を見上げる。
そこに広がっていたのは、無数の黒い群れが城の方めがけて跳んでいる姿だった。
「ルターニャさん!」
「ごめん!僕いかないと!」
走り出そうとするルークの手をルターニャは、ケイルを支えていない方の手でつかむ。
「行くってどこへ?!」
「もしかして、お城の方に――」
ルークは、真剣な眼差しでルターニャを見つめる。
ルターニャは、その目に恐れを覚えるように弱々しく手を離す。
「僕は、行かなくちゃいけない。 トゥナヤ叔母さんによろしく言ってて!」
「必ず戻ってくるから!!」
ルークはそう言い残すと、アーキディウム商業区へ向かって全速力で駆け出していった。




