第4話「訪れた静寂」1
城内を包む炎は少しずつ鎮まりを見せ始め、
戦闘によって巻き起こった砂煙と、燃え滓を運ぶ煙たちは、徐々に晴れていく。
周囲の様子は薄っすらと断片的に姿を表し、
現場の壮絶さを物語り始めた。
ルークは腰を下ろしたまま辺りを見渡すと、
犠牲となってしまった兵士達を目に焼き付け、胸の前に手を置き、深々と頭を下げる。
(見てますか?兵士の皆さん。 皆さんが守り抜いた
2人の命は今、ようやく再会を果たしましたよ)
心の中で呟く声は、城に空いた穴から吹き込む風と共に、城の外へ、そして空の彼方へと飛んでいく。
その様子を1人で眺めていると、後ろからフェリシアの声が聞こえてきた。
「ルー、ク?」
フェリシアは、まるで死んだ者が蘇ったところに出くわしたような驚きの表情を見せる。
次第に頬は緩み始め、アレンとの抱擁を解くと、
ルークに向かって全速力で走り出し、飛びついた。
「ルークだ!」
「本物だ!!」
ルークに抱きつくと、
猫のように頬を擦り寄せ、弾みに弾んだ声で再会を喜ぶ。
「良かった……!本当に……!」
「もう会えないと思ってた!」
唐突な展開にしばらく呆気にとられるも、
直ぐに状況を飲み込み、優しくフェリシアを抱きしめる。
「良かった……。 フェリシア、本当に無事でっ!?」
言葉を言い切ろうとした時、
フェリシアの後ろから睨みつけるような、冷たい視線を感じ、背筋に涼しいものが走る。
感覚のする方へ目を向けると、
アレンが「その馴れ馴れしい態度は何だ?」というように口をパクパクと動かしているのが見えた。
途端にルークは、フェリシアを強引に引き剥がし、わざとらしく咳払いする。
「良かったです!フェリシア様!」
「見たところ、大した傷もなさそうですし……」
引きつる笑みを浮かべながら、
配慮した言葉を並べると、アレンは大笑いしながらもたつく足で近づいてくる。
「冗談だルーク。 フェリシアがよく城を抜け出し、ルークに会いに行っておったのは知っておる」
「そうかしこまる必要はない」
豪快に笑いながら、吐くように紡がれた言葉に
フェリシアも引きつった笑みを零すも、
アレンの楽しそうな姿を目にし、少し安心した様子を見せた。
怪物の姿がないことを確認すると、
フェリシアは一度シェルターに行くことを2人に提案する。
「今後の事も一度、母様と一緒に話し合ったほうがいいと思うの」
「それに、父様が生きてた事も、母様とアナスタシア、シェルターに避難してきた人達に伝えないといけないし」
アレンは少し躊躇うも、自分の体力の状況を鑑み、フェリシアの意見に賛同、ルークも了承し3人揃って地下シェルターへと続く道を歩き始めた。
道中は、これまでの壮絶な怪物との戦闘が嘘のように静けさに包まれており、
怪物の姿はどこにも無かった。
そんな状況に不気味さを覚えるも、3人はゆっくりと歩き続ける。
途端、唐突にアレンは膝からフラッと倒れ込んでしまう。
「すまない。歳のせいか、だいぶダメージが溜まっていたようだ……」
「足が、思うように動かん」
そう言うアレンの顔色はどんどん悪くなっていく。
滲み出る額の汗は床に滴り落ちるほどであり、
これ以上自力で歩くことは難しそうだった。
ルークは、直ぐにアレンの肩を持ち、支える。
「大丈夫ですよ、陛下。 僕が支えますので、
ゆっくり行きましょう」
「フェリシア!」
心配そうな面持ちで2人を覗き込むフェリシアに声をかける。
「僕が陛下をお連れするから、先頭を歩くのと周囲の警戒、お願いしてもいい?」
フェリシアはルークの言葉を聞き、
顔を横に大きく振ると「任せて!」と胸を張り、自信有りげに、先頭を堂々と歩く。
その様子を見届けると、ルークは弱りきったアレンを支えながらゆっくりと無理の無い動作で立ち上がり、
フェリシアの後を追いかけるように、一歩ずつゆっくりと歩みを進め始める。
そこから地下シェルターに向かうまでの間、
態度こそは堂々としていても、フェリシアは後ろをチラチラと何度も確認していた。
その度にルークは、「大丈夫だよ」と口パクで伝えると、無理やり作った笑みを浮かべ再び周囲の警戒に戻る。
その一連の動作を何度も繰り返しながら、やっとの思いで地下シェルター入り口にたどり着いた。
幸い、怪物に襲われることはなかったが、アレンの顔色は一向に悪くなるばかりであった。
戦闘中に余程の無理をしたのだろうと思われる。
もう直ぐで地下シェルターへ通ずる入り口に差し掛かるといった所で、アレンは変わり果てたカイルスの死体を横目で見つけ、ルークに静止を促す。
合図とともに、ルークはゆっくりとアレンの肩を支えながら膝を付くような形で地面に座らせると、
アレンと同じ方向に視線を向けた。
フェリシアは、少し離れた入り口付近でその様子を伺っている。
やはり、気が楽になったとは言え、その光景を見ることに慣れることはないらしい。
「よくぞやり遂げた。 大義であったぞ、カイルス」
アレンはカイルスに盛大な敬意を払い、
力の入らない手を無理やり胸の前へ持ってきて、弱々しく敬礼をした。
「すまない。 行こうか」
アレンの声に反射するように、再びルークが肩を支えながら立ち上がり、
フェリシアに出発のアイコンタクトを送ると、地下通路へと入っていく。
薄暗く、狭い通路にはアレンの粗い息が響き渡る。
ルークは何度も支える位置を直しながら、
重い足取りで進んでいった。
やっとの思いで地下シェルターにたどり着いた一行を、
マリアーノと避難住民たちが出迎える。
避難住民たちはルークからアレンを譲り受けると、
何やら騒々しく様々な指示を出しながら医療の間への連れていった。
アレンの全体重が乗っていたこともあり、
ルークもその場にヘタれ込んでしまう。
「お疲れ様、ルーク。 父様をありがとう」
そう言うフェリシアの顔は、
若干沈んでるように見えた。
「大丈夫だよ! 気にしないで!」
「ほら、様子を見に行ってあげなよ!」
ルークは促すようにフェリシアへ告げると、
フェリシアは優しく微笑み、アレンの後を追うように医療の間へと向かっていった。
フェリシアが去っていくのを無事見届けると、
ルークは自分の右腕を軽く押さえる。
「痛みは最小限に抑えられたけど、まだ完全にってわけにはいかないか……」
手を握ったり開いたりを繰り返してみたり、腕をくるくる回してみたりしながら、
自分の右腕の状態を確認する。
「村の皆、大丈夫かな……」
ふと思い出すように、口にすると「今のところは大丈夫だと思いますよ」と
ルークの正面から声が聞こえてくる。
声のする方へ顔を向けると、そこにはアリアーノが立っていた。
ルークは慌てるように姿勢を整えると、
マリアーノは優しく笑いながら「楽にしてください」とルークに告げる。
「シーナ村には、部隊をいくつか派遣させています。」
「伝達部隊からの報告が無い所をみるに、まだ悪い状況にはなって無いと思いますよ。」
マリアーノは緩やかな口調でルークに告げると、
ルークは少し安心した様な表情を見せる。
「フェリシアから少し事情を聞きました。」
「陛下と娘を、ありがとうございます。 ルーク」
「お久しぶりですね」
ルークは少し恥ずかしそうに照れた表情を見せる。
「お褒めに預かり、光栄です。マリアーノ王妃」
「お久しぶりにございます。」
フェリシア達家族が全員生きて集まり、ルークとも再会を果たした。
ルークは一時の安心感に包まれていた。




