↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Aetanyx(エタニクス)−The Spiral of Fate−  作者: 岩江公一
第一部〈運命の啓示〉第一章:災厄の予兆
13/21

第3話「導きの不死鳥」4

フェリシアは、ショックのあまり何も考えられなくなってしまったアナスタシアの手を引いて、

薄暗いシェルターまでの道を泣きながら走った。

今まで近くで支えてくれていた人を目の前で亡くした事への悲しみと怪物に対しての恐怖が2人の心に、

大きな傷跡となってしまった。


暫く走り続けていると、

目の前に薄っすらと光が差すのが見える。

フェリシアは、アナスタシアの手をしっかりと握りしめ、

後ろを振り返ることなく、息が切れてもとにかくあの場所まではと、

無我夢中で走り続けた。


連れて行かれるがままに足を動かすアナスタシアだったが、

後少しのところで遂に限界が来てしまい、膝からカクンッと崩れ落ちてしまう。

そこでようやくフェリシアは、アナスタシアの状況に気づき、必死にアナスタシアに呼びかける。

しかし返事はない。


今のフェリシアには、どうのこうのと冷静に判断し考えるほどの心の余裕も体力も残っていなかった。

ただ、――2人で必ず生き残る。

その一心で、体を動かし、アナスタシアをなんとかギリギリの形で背負うと、ぎこちない足取りで再び走り始める。


無事にシェルターに辿り着いたフェリシアは、

多くの避難民の姿を目にした。

家を失った恐怖に震える者、愛する人を失った悲しみに沈む者、

重傷を負い床につく者、たくさんの人達がこのシェルターに避難してきていた。

全員が無事というわけではなかったが、国民全員が死んでしまったわけではないという安堵と、

ここは少しは気を緩められる場所なんだと身体が認識した途端、フェリシアは膝から崩れてしまった。

それと同時に、アナスタシアを支える手の力も抜けてしまい、アナスタシアの体は、力無く地面に横たわった。

フェリシアは霞んでいく意識の中、アナスタシアの手を優しく握る。


その場から動けなくなってしまった2人に気づいた市民たちが、歩み寄ってくる。


「フェリシア様とアナスタシア様だ……」

「ご無事だったのか……良かった……」

「アナスタシア様に血の跡が……!」

「拭きものと、新しいお召し物を持って来い!」

「王妃様の下へ連れていくぞ!」


人々が1人、また1人と徐々に集まってくる。

ほんの少し残った意識の中、

フェリシアの耳にはしっかりと「王妃」という言葉が届いた。


「母……様……」


小さく呟くと、フェリシアは力なく倒れ込み

眠りについてしまった。


「御二人とも、かなり消耗してるわね」

「アナスタシア様も、精神的なダメージをかなり負ってらっしゃる」

「ゆっくり運んであげるんだ」


市民は2人を抱え、医療の間に運ぶ。

それぞれベッドに下ろし、暫く様子を窺う。

ゆっくりと吐息が聞こえてくることを確認すると、市民たちは次々に部屋を出ていった。

彼らと入れ違いになるように、1つの影が静かに眠るフェリシアとアナスタシアに歩み寄る。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


――懐かしい感触。

子供の頃、よく感じていた温もりのある手がフェリシアの頭を優しく撫でる。

そんな感覚を覚え、フェリシアはゆっくりと目を覚ます。

ぼやける意識の中目を凝らしていると、

母の、マリアーノの姿が目に映る。


「母……様……」


「えぇ、フェリシア」

「私よ」


まだはっきりとしない意識の中、辺りをゆっくりと見渡す。

隣には、血の跡がきれいに拭かれ、新しい洋服に着替えさせられたアナスタシアが静かに寝息を立てながら眠っていた。

自分の体に目をやると、フェリシア自身の服装も綺麗なものに着替えさせられていた。


意識は少しずつゆっくりと回復していき、

眼の前に映る人物の姿をしっかりと確認できるようになると、

勢いよく起き上がり、マリアーノに抱きついた。


「母様……!」


離れていた時間は、さほど長くはなかったはずなのに、

フェリシアは数年ぶりに再会したような喜びと、安堵に包まれ、マリアーノの腰に回す手が少し強くなる。

マリアーノもフェリシアに応えるように優しく抱きしめた。

言葉は無い、ただ抱擁し合うだけの時間が暫く続くと、フェリシアは恥ずかしそうにマリアーノから距離を取る。


「あなたとアナスタシアが無事でよかったわ……」


マリアーノはそう言うと、

俯き、地下シェルターの入り口付近にあったカイルスの死体を思い出す。


「カイルスが……守ってくれたから……」

「最後まで……」


フェリシアの目に少しずつ涙が滲む。

声も微かに震え始める。


「私は……ずっと、」

「守られるばっかりで……何も……」


一生懸命に泣くことを堪えながらフェリシアの頭を

マリアーノは優しく撫でる。


「あなたは良くやったわ」

「アナスタシアをちゃんとここまで連れてきてくれた……」

「それだけで十分よ……」


フェリシアの目から涙が数滴、頬を伝っていく。


「それに、あなた達がここでこうして生きてるって知ったら」

「カイルスも喜ぶと思うわよ」

「"自分は任務を全うできた"って」


マリアーノはフェリシアの手を優しく握りしめる


「これからあなたのするべきことは」

「カイルスが守り抜いたあなたの命を大切にすることと」

「何もできなかったなんて思わないことよ」


フェリシアは何も言わず、

ただ肩を震わせながら何度も頷くだけだった。


フェリシアとマリアーノは、暫く眠りにつくアナスタシアを眺めていた。


「まだ14歳なのに……」

「辛い思いをさせたわね……ごめんなさい」


マリアーノは未だ目覚めることの無いアナスタシアの額を優しく撫でる。

心無しか、寝息も顔も先ほどより安らかなものになっているような感じがした。

フェリシアも、悲しみと自責の念がこもった瞳でアナスタシアを見つめながら、優しく手を握りしめている。


どれぐらいの時が経っただろうか、

フェリシアの心の中にあった不安や恐怖は次第に和らぎ、外の動きも静かになってきているように感じられた。

「さてと」とマリアーノはゆっくりと椅子から立ち上がり、

部屋の外を見つめる。


「私はこれから、陛下の安否を確認しに行ってきます」

「心無しか、少し静かになったような気がするの」

「もしかしたら、戦闘が終わっているかもしれない」


マリアーノの言葉を聞き、フェリシアはベッドから出る。


「なら、私が行ってきます」


マリアーノは、驚くようにフェリシアへと振り返る。

先程まで、涙を零していた少女とは打ってかわり、

すんとした表情をしていた。

一歩ずつ前へ歩き出し、マリアーノの前へ立つ。


「私が、父様を迎えに行ってきます」

「だから、母様はここでアナスタシアの様子を見ていて下さい」


フェリシアの言葉を聞き、

マリアーノは心配そうな顔になっていく。


「危険です!」

「まだあなたは――、」


「大丈夫!」


マリアーノの言葉を遮るように、フェリシアは言い放った。


「それに、誰かに呼ばれてる気がするの……」


フェリシアは、胸を押さえながら地下シェルターから城内へとつながる道を見つめると、

振り返り、マリアーノへ向き直る。


「心配しないで、母様」

「ここまでずっと逃げてきたんだし、何か役に立ちたいの」

「何もできないのはもう、嫌だから」


言葉にするフェリシアの表情にマリアーノは折れ、

「わかったわ」と承諾する。


「なら約束して」


フェリシアの右手を両手で強く握りしめる。

向けられた真剣な眼差しは、フェリシアを釘付けにする。


「必ず、無事に戻るのよ」


マリアーノの言葉を聞き、深く頷くと、

フェリシアは、マリアーノの手を優しく解き、城内へ通じる道の先へと歩き出す。


人々に見送られるその姿、王女そのもののように見えた。

その様子を後ろから伺うマリアーノは、これから先に待ち受ける不安はあれど、

国民から王女として慕われるフェリシアに母親としての誇らしさを覚えた。


「頼んだわよ、フェリシア」

「私とアナスタシアは、ここで待つわ」


暗闇に向かって走り出したフェリシアの背中を見送りながら、

ひとり静かに唱えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。