第3話「導きの不死鳥」3
剣を杖のように使い立つことが精一杯なアレンは、
近くにそびえる柱にもたれ掛かり、ゆっくりと腰を下ろす。
かなり息があがった様子に、ルークは心配そうに近づくも「不要」と追い払われてしまう。
「やれやれ……私も、歳かな……」
「この程度で、ここまで息があがるとは」
アレンは苦笑いしつつ、
息も絶え絶えの中、心配そうに見つめてくるルークを一望する。
「大きく、なったな……ルーク」
「12年前、フェリシアがお主を連れてきて、暫くこの城で匿っていた時以来、会うことはなかったからな……」
「はい」
「お久しぶりです」
ルークの返答のあと、
暫くの沈黙が続く。
アレンはこの静けさの中、呼吸をゆっくりと整えていく。
ルークにとっても、アレンにとってもここまでの静けさは久しぶりに感じられた。
そんな状況を断ったのはアレンだった。
「お主も知っているとは思うが」
「フェニックスはこの国のアルカノゥス……」
「つまり象徴だ」
「王家を継ぐものが契約でき、その力は契約した者にのみ発現する」
アレンの表情は、少し険しくなる。
「その力をなぜ……」
「お主が使えておる?」
再び沈黙が場を支配する。
ルークは、険しい顔で顔を伺うアレンからなぜか目が離せなかった。
唾をゴクリと飲み込む音だけが、王宮の間に響き渡る。
「僕は――。」
言葉に詰まるルークを見て、
険しい顔をしていたアレンの表情が和らいだ。
「問い詰めるようなことをしてすまない」
「一番困惑しているのは、ルークだろうに」
「いえ……」
ルークの顔は徐々に曇っていく。
そんなルークの肩をアレンは力強く叩く。
「なってしまったものは仕方がない」
「フェニックスは、どういう訳かお主を選んだ」
「それが事実であるならば、"今は"こちらも受け入れるしかないだろう」
アレンは重い腰を上げ、遠くを見つめる。
その後に続くように、ルークも立ち上がった。
「今はとにかく、娘たちと王妃の安否を確認したい」
アレンは後ろに向きながら、
1つの扉を指さしてみせる。
「ここから先に、地下シェルターへと通ずる近道がある。
「今あの娘達は、その地下シェルターにいるはずだ」
「ルーク、君にはそこに避難した人たちの安否確認をしてもらいたい」
「カーネスに後を追わせたが、少し心配でな……」
「いいですけど……陛下はどうされるんですか?」
アレンはルークに向き直り応える。
「私は、あの怪物たちが再び現れた時のためにここに残る」
ルークは少しだけ声を荒らげる。
「そんな……」
「今のあなたの体じゃ無茶ですよ!」
「せめて僕が――!」
ルークの言葉を遮るように、
怪物たちが再び押し寄せてくる。
「しつこい奴らめ……」
「これだけ貪り食っておいて、まだ足りぬというのか……!」
アレンは剣を構えるが、
その手が小さく震えている。
(やっぱり、陛下は限界をとっくに……)
ルークは、アレンの隣に立ち応戦の構えをとる。
「ルーク!お主は娘たちの元へ――」
「僕も戦います!」
ルークは、アレンの言葉を遮るように主張した。
「困っている人がいるのに、何もしないなんて」
「僕にはできない!」
ルークの言葉を聞き、アレンは「ふっ」と笑いをこぼすと、
剣を強く握りしめる。
「私は戦闘に関しても、かなり厳しいぞ?」
アレンの挑発気味な言葉に、
ルークは「よろしくお願いします!」と答えると、
拳に炎を灯す。
「行くぞ!」
アレンの掛け声と共に、2人は一斉に怪物の群れに突っ込んでいく。
ルークが一体一体を拳で倒していく横で、
アレンの大胆な一振りは、数体の怪物を一斉に消し飛ばした。
「ルーク!」
「そんな闘い方では、直ぐに消耗するだけだ!」
アレンは、水平に剣を振り回しながら
次から次へと怪物を薙ぎ倒す。
数本の伸びてきた触手を剣の平で受け止め、反射的に切り落とし、
数体の怪物を視野に入れると、疲れを感じさせないスピードで間合いを詰め、一気に地面ごと斬り上げた。
多少怪物からの反撃をくらい足元がぐらついても、直ぐに剣でいなし、体勢を立て直すと剣を握る手にさらに力を込め、周囲の怪物を大胆に薙ぎ倒す。
大胆に見える動きも、最小限のエネルギーに抑えられた、まさに効率的な立ち回り。
瞬時に状況と自分の立ち位置を把握し、そこで出せる最善の立ち回りを即興で考え実践に移す姿は、
数多の戦に先陣を切って参戦するだけはあるとルークは身をもって感じていた。
「戦は効率!」
「この状況でどんな戦略が効果的か考えながら闘うのだ!」
大声でルークに声を掛けながらも、
その動きに疲れによる若干の鈍さはあれど、
完全なる衰えは見えない。
「効率……」
ルークは、「効率」という言葉から、アレンを助けに入った時の
広範囲の床を這うように走らせた炎の技を思い出す。
(でも、あれを使った時の腕への反動は一番大きかった。 安易には使えない……)
その時、アレンの振るう剣がルークの目に入る。
アレンの無駄のない動き、一振りで塵と化す怪物たち、
ルークの頭の中に、たくさんのイメージが湧き上がる。
「僕も……あんな風に……」
ルークが小さく呟いた途端、
掌から一本の火柱が走る。
それはみるみると剣の方を取っていき、
次第にはっきりとした剣を生成していく。
気づけばルークの手にはアレンと同じ見た目をした武器が握られていた。
「こ、これは……」
動揺するルークに、しなるような音を鳴らしながら、素早く伸ばされた触手状の刃が飛んでくる。
ルークは、先程のアレンの闘い方を頭に思い浮かべた。
「イメージしろ……僕の、効率的な闘い方を!」
そう叫ぶと、ルークに伸びた触手状の刃を剣の平で防ぎ、一瞬で間合いを詰めると、一気に振り上げた。
怪物は奇声を上げながら、消滅していくと、
アレンに向いていた他の怪物の狙いがルークに集まっていく。
「ほう……」
「やはり、伝承にある通りか……」
自分と同じ武器を持つルークを見たアレンは、
嬉しそうに、顎髭を弄りながら呟く。
「ルーク!」
「それが、フェニックスの力の1つ」
「"創造"の力だ!」
「"創造"……」
ルークは自分の握る剣を見つめる。
「これなら、やれる!!」
剣を構え、ルークは自分目掛けて襲いかかる怪物の群れに走り出す。
数体ずつ、大胆な振りで怪物達を倒していく。
まだまだぎこちない動きはあるものの、明らかに先ほどよりも戦い方はマシになったことをルーク自身も痛感していた。
正面に群がる怪物目掛けて剣を振り下ろした瞬間、後ろからまたもやムチのしなる音が聞こえた。
ルークは無理やりその攻撃に反応するように、剣の平で受け止めると、刃の部分にヒビが入ってしまう。
「しまった!」
まだ使い慣れてない武器を、力任せに使用していたこともあってか、
かなりの負荷をかけていたらしい。
しかし、怪物の攻撃は続き、防ぐ姿勢を崩すことができない。
何度も鳴り響く、金属がかち合う音、
完全に押されるカタチになってしまったその時、
パリィン!!と鳴り響く音と共に、
剣が粉々に吹き飛んでしまった。
しかし、怪物の攻撃は止まらない。
音に気が付き、ルークの方を見るアレンも怪物の攻撃に対応するので精一杯だった。
誰からの助けも頼れない状況で、次なる攻撃がルークに襲いかかる。
ルークは慌てて手に炎を纏わせ、防御の姿勢を取る。
目を瞑り自分の終わりを覚悟したその瞬間、
さっきと同じ形状の剣が、再び手に帯びる炎から生成され、怪物の攻撃を弾き飛ばした。
ルークはその状況に、一瞬唖然とするも、
直ぐに鞘を掴み、怪物目掛けて振り上げる。
「い、今のは……」
次々と起こる自分の状況に頭はついていかないが、
自然と体だけはついていけている状況に、脳がショートを起こしそうなくらいに回りまくる。
考えることに頭を取られ、怪物の攻撃に反応できず触手状の刃がルークの胸目掛けてしなるように跳んでくる。
思考が追いつかない。
混乱と焦りで上手く体を動かすことができずにいると、
ルークと怪物の間にアレンが割って入り、攻撃を防ぐと、怪物の体を真っ二つに斬り裂いた。
「ぼーっとするな!ルーク!」
「今は、この戦いに集中しろ!」
伸ばされた手に掴まり、勢いよく起こしてもらうと、
「すいません」と武器を再び握り直し、戦闘の構えを見せる。
アレンは後目にその姿勢を確認すると、正面へ向き直り、最後の力を振り絞るように強く剣を握りしめる。
一瞬だけ響き渡った静寂をきり裂くように、
2人は、怪物に向け剣を振りかざした。




