年の瀬と その1
「うぅ……寒い」
司がとくつみしょの建物内に入ると、外よりは幾分かマシだが、それでも冷たい空気に包まれた。
鼻まで上げていたネックウォーマーを、口が見えるまで下げる。
それから、営業部へ続くドアを開けた。
「おはようございます」
「新入り、おはよう」
迎えたのは柴山。その手には、湯気の立つマグカップ。
「なにか飲むか? お湯なら湧いてるぞ」
「ありがとうございます」
バッグとコートを置き、司が緑茶のティーバッグを出していると、ドアの開く音がした。
「おはようー」
「先輩、おはようございます」
「おはよう、タロ。司くんも、おはよう」
「天原先輩、おはようございます。なにか、飲まれますか?」
手を止めて挨拶を返した後、司は天原のマグカップを出す。
「そうね。じゃあ、お湯もらっていい? 外が寒くって」
「お湯ですね」
そう返事して、ポットを持つ。
(今日は、聞いてみてもいいだろうか?)
渦巻いて注がれる湯を見つめ、司も考えを巡らせる。
天原が午後に早退して深夜に並木道を歩く姿を見た、あの日から早くも一か月が経ち、十二月になった。
その間に、天原の早退は週に一度はあるようになり。そして、その日は必ず夜遅くにとくつみしょから寮へ帰ってきている。
「天原先輩、どうぞ」
「ありがとう、司くん」
微笑みを浮かべ、天原がマグカップを受け取る。
(……いや。聞かない方がいい)
こうして毎回ブレーキがかかるのは、本人を前にするからなのか。それとも、天原を観察することが、ストーカー紛いな行為だと司が感じているからだろうか。
「どうかした? 司くん」
「い、いえ」
司は誤魔化すように視線を逸らし、マグカップを少し傾ける。
それから、自分のデスクについた。
「急だけど、明日の夜にここで営業部の忘年会をするから。みんな、そのつもりでね」
その日の昼休み。
貫田部長の発表は、唐突だった。
「えっ、明日ですか?」
それに、いち早く反応したのは黒石。
「黒石くん、都合よくないかい?」
「あっ……いや。アーカイブあるから、大丈夫です」
「あーかいぶ……が何かはわからないけど。大丈夫なんだね。他に都合よくないって意見は……」
デスクから見渡す貫田部長に、司は小さく頭を左右に振って反応する。
柴山と天原も、司と同じ仕草で応えていた。
「いないね。じゃあ、明日はよろしく。あ、飲み物の買い出しは、明日の昼休みに柴山くんと平田くんにお願いしていいかな? 食べ物は夕方に取りに行くから」
「わかりました。新入りはどうだ?」
「大丈夫です。柴山先輩、よろしくお願いします」
次回、その2は5月1日(金)16時10分に投稿予定です。




